日本財団 図書館


7.7 魚の種類 ―豊かな瀬戸内海の魚たち―
 瀬戸内海には430種類の魚類が生存していると言われています。
 瀬戸内海は、プランクトンやベントスなどの餌生物が豊富に生息しているので、幼稚魚の生育場として優れています。そのため、マダイ、サワラ、マナガツオ、トラフグなどは春から初夏にかけて、外洋から瀬戸内海に入り込み産卵を行います。また瀬戸内海に定着している魚種の多くも初夏に産卵を行います。
 初夏には、カイアシ類などの動物プランクトンの生産速度が年間で最大となるので、この時期に孵化した稚仔魚は豊富な餌に出会えるわけです。
 春から初夏にかけて外海で産卵され、稚魚となって瀬戸内海に入り込む、カタクチイワシ、マアジ、マサバ、ブリなども豊富な餌を食べながら成長して、瀬戸内海全域に分布域を拡大し、晩秋までには親魚となって再び外海に出ていきます。
 さらに瀬戸内海と河川を行き来する、アユ、シロウオ、サツキマス、ウナギ、ヨシノボリなどの魚種もいます。
 
マダイ
 
アユ
 
トラフグ
 
カタクチイワシ
 
 瀬戸内海の様々な魚の写真や生態がせとうちネットのホームページ(9章参照)で紹介されています。
 
7.8 漁獲量の変化 ―減少傾向の瀬戸内海の漁獲量―
 自己更新性を持つ生物資源は資源管理を適切に行えば、収穫を持続的に行うことができます。水産資源も産卵親魚(しんぎょ)(卵を産む親の魚)を適度に残せば、「持続的な漁業」は可能なはずです。瀬戸内海の漁業資源は多数の小規模資源から構成され、個々の種の生産量は多くありませんが、種の多様性が高く、ヒラメやクルマエビなどの高級魚介類がたくさんいます。漁獲量の約半分は内海固有種(外海に出ていかない種)、半分は外海との交流種により支えられています。
 瀬戸内海の漁獲量は1930(昭和5)年頃の約11万トンから1980(昭和55)年の約48万トンまで約4倍増加しました。これは科学技術の進歩による漁獲能力の向上と、沿岸から流入する栄養物質が増加して植物プランクトンの基礎生産が大きくなったためだと考えられています。
 ところが、1982(昭和57)年に最大漁獲量48万トンを記録して以来、瀬戸内海の漁獲量は下がり続け、1991(平成3)年に26万トンと、12年間に46%減少し、以後その水準を保っています。マイワシ、コウイカ、ハモ、ハマグリ、アサリの減少が顕著です。
 漁獲量が減少した理由はいろいろ考えられます。ひとつは高すぎる漁獲圧(ぎょかくあつ)(操業日数や操業隻数のこと)です。瀬戸内海の主要な魚種に対する適正な漁獲圧に対して、現在の漁獲圧は3倍程度で、明らかに漁獲過剰になっています。今後は資源管理型漁業(魚を獲りすぎないで、産卵する親魚をきちんと残すような漁業)を推進し、個々の魚種の再生産を保証する漁獲量を守っていく必要があります。
 また稚仔魚(ちしぎょ)(卵の後が仔魚(しぎょ)、形態が親に近くなった幼い魚を稚魚(ちぎょ)と言います)の生育場として重要な藻場や干潟が、瀬戸内海で減少していることも、漁獲量減少の一因だと考えられます。一方で、近年盛んになってきたノリ、カキ、ハマチ、タイ、クルマエビなどの養殖漁業に関しては、養殖場の環境を保全するよう注意して養殖を行う必要があります。1993(平成5)年の瀬戸内海の養殖業生産量は35万トンで、海面漁獲量(釣りや網で獲られる魚の量)を超えています。カキが16万トン、ノリが14万トン、ハマチ・マダイが2万トンという内訳になっています。
 
瀬戸内海の漁獲量の変遷(せとうちネットより)
 
7.9 栽培漁業 ―瀬戸内海の漁業振興に貢献できるか―
 一定の閉じた区画に入れた魚に餌を与え、大きくして取り上げるのが「養殖漁業(ようしょくぎょぎょう)」で、ある水域に魚の種苗(しゅびょう)(稚仔魚(ちしぎょ)のこと)を放流して、天然の餌を食べて大きくなった魚を取り上げるのが「栽培漁業(さいばいぎょぎょう)」です。栽培漁業の過去の成功例としては、北日本のサケ、西日本のアユなどが挙げられます。
 瀬戸内海ではマダイやクルマエビの種苗放流が盛んに行われてきました。しかし、これらの種では放流後2〜3ヶ月で漁獲してしまう短期再捕(さいほ)が多く、親魚の再捕率は2〜10%と低いものになっています。一方、クロダイは寒さに強く放流海域に滞留するので、再捕率が30%と高くなっています。
 栽培漁業は、種苗を放流した人が放流魚を再捕でき、かつ放流にかかった費用を回収出来るようにしなければ定着しません。現在の放流は公費の負担が多く、個人の負担が小さい状態で行われています。これは、海の汚染に対する社会補償と言えなくはないのですが、いつまでもこのような費用負担で栽培漁業を続けることはできないでしょう。
 またサケの例に見られるように、放流技術が進歩して再捕率が上がると、その費用を誰が負担するか、餌を食べ過ぎて他の魚種に影響が出たら(他の魚が小さくなる)どうするか、そればかりではなく、放流した魚が他の魚種を捕食し過ぎたらどうするかなど、栽培漁業は今後解決すべき多くの問題を抱えています。
 天然魚の遺伝資源の多様性(様々な魚がいること)を保存しながら、人工種苗による栽培漁業を瀬戸内海でどのように発展させるかは、今後の大きな課題です。現場海域での様々な実験や研究の積み重ねが必要とされています。
 
クロダイ
 
養殖漁業:一定の閉じた海域に入れた魚に餌を与えて取り上げる。
栽培漁業:ある海域に種苗を放流し、天然の餌を食べて大きくなった魚を漁獲する。


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION