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2)押切海岸の短期観測結果
 押切海岸で行った短期観測結果の代表的なものについて、以下に示す。安楽川から菱田川河口にかけての押切海岸では、河口からの河川流による沖向き流れ、突堤構造物による沖向き流れ、そして、海底の三次元地形に伴う沖向き流れが生じる可能性があった。突堤に沿う離岸流については、計測器が回収できなかったために詳細は明らかにできず、今後の検討課題として残された。また、河川流に伴う沖向き流れ(図3.2.18参照)については、河口部での観測は非常にリスクが高いために、学生を帯同する形での現地観測では安全性を保障できないために今回の観測からはずしてある。そのために、突堤右岸側の海浜部で、HGPSフロート、染料、海洋情報部所有のDGPSフロートを用いて、汀線形状および流況観測を行った。その結果を、図3.2.19から図3.2.22に示す。結果としては、染料観測では弱い離岸流が目視できるものの、フロートは染料で確認された離岸流内に投入されても波乗りおよび海風により結局岸に打ち上げられてしまった。強い離岸流であれば、フロートが波乗りで陸側にいったん押し返されても流れにより沖に移動するジグザグ運動を繰り返し、結局、砕波帯を通過して沖に移動するので観測しやすいが、弱い離岸流をフロートで計ることに関しては、何らかの改良が今後必要である。
 
図3.2.18 押切海岸での河川流の様子
 
図3.2.19 観測域の汀線位置とH.W.Lの位置(9月15日)
 
図3.2.20 フロートによる離岸流発生箇所の調査結果
 
図3.2.21 染料の拡散状況
 
図3.2.22 DGPSフロートの投入状況
 
3)深浅図による浅海域の弧状海底地形変化特性分析
 図3.2.23に、1981年から2001年11月までの深浅図を示す。図中、4m水深を太い実線で、また砕波帯内のくぼ地(弧状沿岸砂州のトラフ部)をハッチで示す。1981年では、有義波高7.39mを記録した台風8113号が来襲した後の海底地形を示す。この後1982年に有義波高7.88mを記録した台風8213号が来襲した後、1980年代には波高が5mを超える台風が来襲しない特異的な静穏期が続いた時期であった。この期間の深浅図を見ると、1981年に沿岸方向に離散的に形成されたくぼ地が、1980年代の周期が長くても比較的波高の小さな入射波による岸向き漂砂により埋め戻され、弧状沿岸砂州地形が目立たなくなっていく過程が読み取れる。
 1990年、1993年には有義波高がそれぞれ7.48mと8.30mの台風9019号および9307号が来襲している。1990年の深浅図では、くぼ地を含む弧状砂州地形が明瞭に形成され、入射波高が比較的小さかった1991年と1992年にくぼ地(弧状トラフ)が埋め戻され、そして再度入射波高が8.3mと大きかった台風9307号が来襲した1993年の深浅図では、この弧状沿岸砂州地形が再形成されている。その後1994年から1996年までは有義波高が7mを越える海象条件は生じていないが、6m程度の有義波高は記録されている。そのために1997年2月の深浅図ではこの弧状沿岸砂州地形が若干埋め戻されていた。しかし、1997年の台風9719号は、最大有義波高が6.68mで、しかも波高4m以上の継続時間が非常に長かったために、より顕著な弧状沿岸砂州地形を形成したことが1998年1月の深浅図より分かる。そして、今回、台風0111号により背後地の浸水被害を起こした後の深浅図(2001年11月)を見ると、測量範囲中央部の2つの弧状トラフが接続したような形の大規模で特異な侵食地形が形成されている。上述のことから、現況では、安楽川〜菱田川区間では、弧状トラフの成長に伴い弧状トラフ中央部(昨年の被災個所の測線26周辺)が後退する形で海岸線の曲率が局所的に急になり、中央部の沖合でも著しい侵食(海底地盤の低下、深みの形成)が生じた。そして、この中央部の侵食や深みは、従来は台風時の入射波浪が7mを超えるような大きい場合に形成・成長しており、経年的に沿岸方向に移動している状況は見られない。また、現状ではこのような侵食ホットスポットと言える弧状トラフ形成と志布志港防波堤の延伸との直接的な因果関係は認められなかった。ただし、このくぼみ(侵食個所)をこのまま放置しても、今後すぐに砂が戻って埋め戻されることは期待できず、背後地への越波被害の危険性も当面改善されないと考えられる。なお、当海域で生じたある種特異な弧状沿岸砂州の形成を伴う侵食は、志布志港建設に伴う遮蔽域形成後の海浜安定形状の変化(海岸線の曲率の変化)、すなわち沿岸漂砂の変化に加えて、台風時の異常波浪による浜崖の侵食や沖向き漂砂、および沿岸方向に生じるエッジ波が関係しているものと考えられるが、詳細な砂の移動メカニズムは今後の現地調査などに基づいて検討する必要がある。
 
図3.2.23 1981年以降の沿岸域の海底地形の変化
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