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 そこでLocal Remote Sensingシステム(竹田ら2003)によって得られた画像を用いて、武若ら(1999)によって開発された画像処理方法に基づいて海浜流速計測や海底地形測量を行った。これにさらなる改良を重ね、この方法を一般的な方法として確立することで、前節で述べたようにこれまでの限られた数の計測器では広範囲の海域における波高や流速を計測できないという課題を解決することが可能となる。特に、突発性の離岸流の計測の場合、発生位置と継続時間の不安定性により設置位置の特定が非常に困難であったのだが、シーマーカーによるその離岸流の発見とともに即時観測を行うことができ、またその周辺の流況や波浪特性も知ることができる。ここではそのRemote-Sensingシステムを用いて得られた幾何補正画像が現地実測でのデータ収集にいかに有効であるかを検討する。
 
1)Local Remote-Sensingによる観測方法
 Local Remote-Sensingシステム(図3.1.38)による離岸流観測は2004年9月1〜6日の6日間に、鳥取県浦富海岸で行った。長さ12m容積14m3の気球にデジタルビデオカメラを搭載し、上空100〜150mから撮影した。また、上空の風の影響を受け制御が困難であるため、できるだけ広範囲の画像を撮影可能にするためにカメラ設置を行う雲台にパンチルト機能を搭載している。尚、カメラの電源操作、パンチルト機能等はDTMFを地上での無線機を用いて気球内のもう一つの無線機に受信させることで行った。また、画像補正のために必要な標定点は発泡スチールを用いて対象海域に杭で固定した。
 
図3.1.38 Local Remote-Sensingシステム
 
2)画像処理
 撮影した画像は、ビデオキャプチャーボードを用いて1.0秒間隔でPCに取り込んだ。本来ならば、その画像を広角レンズの使用により生じる歪みの除去、標定による画像の位置合わせならびに垂直画像への変換、グレイスケールヘの変換を行わなければならない。しかし、今回の撮影観測では標定点を4点しか設置しておらず、広角レンズの使用による歪みの除去は行うことができなかった。
 図3.1.39(a)に垂直画像への画像補正前、(b)に垂直補正後の離岸流観測画像、(c)にグレースケール変換後画像を示す。ここではシーマーカーのグリーン色を白色に変換している。このように補正することで浅海域に投入したシーマーカーの白色を追跡し、投入点からの最大流速を求めることができる。ただし、この場合シーマーカーによる白色と砕波による白色の輝度値による区別が困難になる。したがって、シーマーカーの輝度値の設定には注意が必要である。
 
図3.1.39 画像補正(2004年9月4日11:20頃)
(a)補正前
 
(b)鉛直画像補正
 
(c)グレースケール画像補正
 
3)補正画像の応用
 武若ら(2000)は幾何補正後の画像の使用方法として、ある固定点での岸沖方向のライン画像を取り出し、この時間変化を調べることで砕波帯幅の時間変化や砕波状況の観測に用いている。この方法は今回行ったシーマーカーによる離岸流観測に非常に有効な方法であると考えられる。
 そこで2004年9月4日に浦富海岸で撮影された離岸流観測画像を用いて、前項で述べた方法で幾何補正を行い、I=130の地点(図3.1.39(c))の沿岸方向1ラインの画像を取り出た。この時間変化を図3.1.40に示す。図中の横軸は13時28分02秒からの時間経過、縦軸は沿岸方向距離に対応し、黒い部分は画像抜けによりデータを得ることができなかった時間を表す。図中の赤線で挟まれた間の白色の部分はシーマーカーによるもので、その幅Aは離岸流の幅を表す。図3.1.41も同様にJ=145の地点(図3.1.39(c))の岸沖方向1ラインの画像を取り出し、この時間変化を図化したものである。図中のBは離岸流長を表し、その赤線の傾きが離岸流速となる。この場合は、およそ0.16m/sで、その値は非常に小さいものであるが現地実測における周辺の流速計測定結果と比較的一致している。沖の太い赤線は砕波による水表面の気泡が岸方向に伝播していく様子を表しており、その傾きは浅海域での波速を表している。また、汀線付近の白の波線は汀線付近の波の遡上の時々刻々の変化を表している。これにより、長周期波が汀線位置に与える影響を観測することができる。
 
図3.1.40 沿岸方向ライン画像(I=130の地点)
 
図3.1.41 沿岸方向ライン画像(J=245の地点)
 
 次に、9月4日13時28分02秒〜13時31分15秒までの174枚の幾何補正後の画像の輝度値を平均したARGOS画像が図3.1.42である。しかし、この画像にはシーマーカーの輝度値の影響があり、正確な相関をとることができない。仮にGPS測量で得られたサーフェス画像の水深との相関をとることができればARGOS画像から空間的水深図を求めることができる。これにより広範囲の現地海岸の詳細な地形形状が非常に短時間に計測することができ、浦富海岸のような地形変化が非常に激しい場所の時々刻々の地形形変化がビデオ画像のみで計測することができるようになり、離岸流を含めた海浜流系が及ぼす地形変化の影響も知ることが可能となる。また、数値計算などの初期地形として広範囲の現地海岸に忠実な地形を与えることができ、対象海岸での離岸流のメカニズムの解明に大いに役立つであろうと思われる。
 
図3.1.42 ARGOS画像
 
4)Local Remote-Sensingによる現地実測の問題点
 これまでにLocal Remote-Sensingシステムによる現地実測の有用性について述べてきた。しかし、この方法にもまだまだ数多くの問題点は残されている。この項ではその問題点をいくつか挙げていくこととする。
 まずは画像処理における幾何補正における誤差が挙げられる。具体的には幾何補正の精度に大きく関わるGCPの数と配置の最適な決定方法が問題点の一つである。幾何補正には海域に、固定された標定点を設置する必要があるが、波の影響により標定点が移動する可能性が非常に高い。特にARGOSによる地形測量で、一日毎の地形変化の観測等では非常に頑丈に標定点を設置しなければならない。
 次に、今回の実測では離岸流を視覚的に捉えるためにシーマーカーを用いた。実際には、この他にGPS漂流ブイを用いて離岸流を計測している。シーマーカーと漂流ブイを同時に投入した時の上空からのビデオ画像を3.1.43に示している。この画像から明らかなように漂流ブイはシーマーカーに比べて流速が小さいことが分かる。この原因としては、漂流ブイは水面に浮かんでいるため波の影響を受けやすいのに対し、シーマーカーは水中の流速をリアルに示すためである。底質の質量輸送について議論する際は水中の流速が重要であり、単純にシーマーカーの流速を用いることが可能であるが。海水浴中に流された漂流者について議論する際には漂流ブイによって計測された流速が重要であると思われる。しかし、漂流ブイでは数に限りがあり、空間的な流況を把握することができないため、シーマーカーとの相関をとることによって水表面の流速を間接的に計測する必要がある。
 
図3.1.43 漂流ブイとシーマーカーの軌跡の比較(9月2日)
(a)投入時
 
(b)T=1/3s後
 
(c)T=2/3s後
 
 最後に、ARGOS画像などにより詳細な海底地形測量が可能であれば、砕波水深などから入射波高等を得ることができるが、詳細な波浪の平面分布は把握することができない。その問題点の対応策としては、ビデオカメラを複数台用いることでステレオ撮影を行い、立体視することで可能であると考えられるが、今現在そのシステム開発中によりここでは記述することはできない。


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