日本財団 図書館


第3章 研究結果
3.1 地形性離岸流発生メカニズムの解明とその発生予測(モデル海岸I)
3.1.1 現地観測と結果
(1)現地実測の目的
 数多くの機器を広範囲に配置し、各実測海岸における海域特性をEuler的に測定すると同時に上空からバルーン搭載されたビデオカメラで2次元的に周辺海域を観測する。これらによって得られたデータから離岸流発生の要因となる地形条件、流況条件などを明らかにすることによって離岸流発生メカニズムの解明を行う。
 
(2)現地実測の概要
1)実測海岸の概要・実測日時
a)鳥取県岩美郡岩美町浦富海岸
 浦富海岸は鳥取市街から東に約13kmに位置し、環境省による日本百景、渚百選、水浴場88選に選ばれており、山陰地方で有数の観光地となっている。海水浴場は明治27年に開設され、全国でも3番目に古いという歴史のある海水浴場であり、現在でも山陰地方最大の集客をほこっており、年間約20万人もの人が訪れている。東西を岩礁に囲まれた約1.5kmの入り江状の遠浅の砂浜海岸で、海底勾配は約0.01である。汀線より約250m、水深3m付近に2基の潜堤(天端幅30〜50m、堤長400m)が設置されている。夏場はライフセーバーによる海浜事故防止を行っている。この海岸では平成13年に遊泳中の鳥取大の学生2人が沖に流され、溺死する事故が報告されている。
実測日時:平成14年9月1日〜16日
   平成15年7月2日〜8日
   平成16年8月30日〜9月6日
b)島根県江津市波子海岸
 波子海岸は島根県西部にあり、北東から南西に広がる約4kmの砂浜海岸である。汀線付近から水深1m程度まで急に深くなり、その後は海底勾配約0.01の緩勾配となっている。夏場の海水浴シーズンには約10万人の人々が訪れている。平成13年には中学生7名が沖に流され、内1人が溺死する事故が報告されている。
実測日時:平成15年7月10日〜16日
c)京都府宮津市丹後由良海岸
 丹後由良海岸は京都府北部の由良川河口の西側に位置し、東側が由良川、西側が岩礁の長さ約1.6kmの砂浜海岸である。季節を問わずサーフィンを楽しむことができ京阪神を中心とした若者たちで賑わっている。遠浅な海岸でその海底勾配は約0.025となっており、汀線から約50m、水深約2m付近に長さ約100mの離岸堤が7基設置されている。この海岸では平成15年に遊泳者が1人沖へ流され溺死する事故が発生した他に、同年に由良川を泳いで横切ろうとした遊泳者1名が沖に流され溺死する事故が報告されている。
実測日時:平成16年9月10日〜12日
 
2)実測機器
a)超音波式流速系(ADCP)
 海底設置し、水位と海底から0.76mを第1層とし、その上に0.25m間隔ごとの層別の東西方向・南北方向の流速を1分間隔で計測する。計測される層の数は設置水深による(図3.1.1)。
 
図3.1.1 ADCP
 
b)磁気式波高・波向き計(Wave Hunter)
 測定インターバル1秒で波高、波向き、周期、水位、流速、流向、水温を計測する。今回の実測では沖側に設置することで沖波波高、沖波周期、波向を計測するために使用した(図3.1.2)。
 
図3.1.2 Wave Hunter
 
c)圧力センサー
 汀線に近い水深約lm付近の浅海域に設置し、汀線付近の波高を1秒間隔で計測(図3.1.3)。
 
d)圧力式波高計
 圧力センサーと同様に極浅海域に設置し、汀線付近の波高を1秒間隔で計測、形状は圧力センサーと同じ(図3.1.3)。
 
図3.1.3 圧力センサー
 
e)電磁流速計
 圧力式波高計と同じ場所に設置し、汀線付近の流速を1秒間隔で計測(図3.1.4)。
 
図3.1.4 電磁流速計
 
f)気球
 長さ12m、容量14m3の飛行船型の気球で、充填ガスとしてヘリウムガスを用いた。カメラ装置を下部に設置し、上空約150〜200mから観測する。風速8m程度まで観測が可能である(図3.1.5)。
 
図3.1.5 飛行船型気球
 
g)ビデオカメラ装置
 気球の位置は風の影響があり制御するのは困難であるため、気球に取り付けるカメラ装置の雲台を遠隔操作することによって、カメラの撮影方向を変えれるようになっている。カメラの電源のON、OFF、ズーム機能も遠隔操作でき、これによって撮影範囲が大幅に広がり、撮影された映像は電波で地上のモニターに送られリアルタイムで観察ができるため、離岸流発生場所の撮影が的確かつ容易にできる。遠隔操作は地上からPHSを用いて行われ、気球に取り付けられたデジタルビデオカメラで録画を行う(図3.1.6)。
 
図3.1.6 ビデオカメラ装置
 
h)簡易型風向風速計
 汀線付近の5分間隔連続データを計測する。
 
3)実測方法
 3年間の浦富海岸での実測機器の設置場所を図3.1.7に示す。沖波波高、沖波周期を計測するために水深約7mの沖にWave Hunterを設置、2基の潜堤間において発生する離岸流を計測するために水深約4mの地点にADCPを設置した。また極浅海域で発生する離岸流を計測するために汀線付近に圧力センサー、圧力式波高計、電磁流速計を設置し、流れ及びそのときの水位を計測している。設置場所については2002年では離岸流の発生しやすい条件が未解明であったため計測器を汀線と平行に並べる方法をとった。2003、2004年についてはあらかじめ岸からの目視によって発生場所を確認し、発生頻度が高いと思われる場所を判断し設置した。2002、2003年では離岸流の発生頻度がより高そうな場所を発見したため設置場所を変更した。
 
図3.1.7 浦富海岸機材設置場所
 
 波子海岸での機材設置場所を図3.1.8に示す。水深約7mの位置にWave Hunterを、水深約3mの位置にADCPを設置している。極浅海域での機器の設置位置は事故報告を受けた海岸の東側になるべく近い位置とした。
 
図3.1.8 波子海岸機材設置場所
 
 丹後由良海岸での機材設置場所を図3.1.9に示す。水深約14mの位置にWave Hunterを、水深約7mの位置にADCPを設置している。ADCPによって河川流の影響をとらえる事ができる。極浅海域での機器の設置位置は岸からの目視によって判断した。
 気球での観測は風の穏やかな日に気球を上げ、岸からの目視及び実際に海に入り離岸流が発生していると思われる地点にシーマーカー(海難救助に用いられる染料、海水を一時的に蛍光の緑色にする)を投入しその軌跡を撮影する。気球は約200m上空に上げ、撮影される範囲はズーム機能によって異なり、シーマーカーの広がり方にも左右されるが、今回の場合は約200mであり十分離岸流の全貌を把握することが可能である。またシーマーカーに加え、直径約40cmの薄円型のトレーサーを投入した。
 
図3.1.9 丹後由良海岸機材設置場所


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION