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第二回「マンガ・アニメ講座」を終えて
コーディネーター 森川友義
 
 2002年度に実施された第一回目「マンガ・アニメ講座」は、東京財団のご支援により、2004年度において再度開講された。前回同様、様々な専門分野からゲストスピーカーを招き、日本のマンガ・アニメ事情について講義を行った。
 
 早稲田大学では2004年4月に11番目の学部として国際教養学部が設立され、旧国際部の学生も国際教養学部に移籍したことから、前回が旧国際部の学生のみを対象としたのに比べて、今回は学部一年生を交えての講座となったことが大きな違いである。
 
 従って学生の内訳としては、日本人学生が中心となったが、外国籍の学生も多く且つ多様で、60人の受講生のうち、米国籍の学生を筆頭に、韓国、中国といったアジアからの留学生、フランス、イタリアといった欧州からの留学生等、10ヵ国余りの学生が受講した。
 
 2004年10月5日、日下公人東京財団会長の講演に始まり、翌週からは「漫画・アニメの歴史と現状」と題して森川が講義を行い、コンテンツビジネス全般の話や、マンガ・アニメに関しては視聴率、興行成績等の数値を用いて日本でのマンガとアニメの現状を紹介した。
 
 10月26日には学生が中心となってディベートを行ったが、そのテーマは(1)日本のマンガ・アニメは米国のようにレイティングされるべきか否か、(2)マンガ・アニメは日本文化を紹介する最も有効な手段か否か、(3)各国の実情にあわせて日本のアニメは内容を変えるべきか否か、の3点に関して活発な議論を行った。
 
 最初のゲストスピーカーとして、読売テレビのエグゼキュティブ・プロデューサー、諏訪道彦を招聘し、「アニメーションのプロデュースと作業の実際」と題して講演を行った。諏訪氏はテレビ・アニメ界でのヒットメーカーとしてつとに有名で、現在では『ブラックジャック』(その前は『犬夜叉』)、『名探偵コナン』等を手がけている。両アニメにおいて、視聴率はどのように推移するのかについて裏番組との視聴率比較等の観点から講義した。
 二番目のゲストは、オハイオ州立大学のモーリーン・ドノバン助教授であり、「日本文化としてのマンガ・アニメ」というトピックで講演していただいた。ドノバン先生は日本マンガ・アニメ研究家で図書館員としての経歴も長く、オハイオ州立大学の日本のマンガのコレクションは米国で最大のものであり同氏の果たした貢献は大きい。本講演においてはその苦労話も聞くことが出来た。
 
 11月6日は「早稲田祭」期間中であり、講座を一般公開した。一部と二部に分けて実施したが、両方とも250人の会場に立ち見が出るほどの盛況だった。
 
 第一部のゲストスピーカーは人気漫画家の藤田和日郎氏とその担当編集者である小学館の有井大志氏であった。藤田氏は『からくりサーカス』や『うしおととら』の著者として知られ、前者は現在『少年サンデー』で連載中である。藤田氏は有井氏とともに、漫画の作成過程、一般読者にはわかりづらい漫画家と編集者の関係について講演していただいた。
 
 第二部のゲストは声優の野沢雅子氏であり、本講座で最も人気の高かった講演者の一人である。野沢氏は『ドラゴンボール』の孫悟空役、『銀河鉄道999』の鉄郎役等多数出演しており、学生にとっても馴染みの深い声であったため、会場の盛り上がりはたいへんなものであった。
 
 11月16日には「マンガのセールス」と題して、TOKYOPOPから松橋祥司氏を招聘した。TOKYOPOPは日本のマンガを海外に販売する大手米国販売会社であるところ、松橋氏からは同社の企業戦略についてビジネスの立場から話を伺うことが出来た。
 
 11月30日には小学館キャラクター事業センター長の久保雅一氏をお招きした。久保氏は我が国を代表する最も著名なプロデューサーで、「ポケモンの仕掛け人」と言った方がわかりやすいかもしれない。講演内容も実に明快で、ポケモン製作販売の難しさ・楽しさ、更にはキャラクターグッズ販売戦略等にも言及していただいた。
 
 中間試験をはさんで、12月14日から3回は、英洋子先生(代表作『レディ!!』)、真崎春望先生(『ハーレクイーンシリーズ』等に執筆)、及び橘花夜先生(『本当に怖い世界の童話』等に連載中)の漫画家3人においでいただいた。「マンガを描く」と題して、学生に実際に描かせる講義を担当していただいた。殆どの学生にとってマンガを描くことは初めての経験であったが、最終的に出来上がったものの中にはプロ顔負けの作品もあった。作品集は一つの本としてまとめられている。
 
 最終回は、歌手の井上あずみ氏に歌とトークを披露していただいた。井上氏のレパートリーは広いが、最も有名な曲は宮崎駿作品の中の『となりのトトロ』及び『さんぽ』、更には『天空の城ラピュタ』の主題歌である『君をのせて』等であるが、それらを200人以上の学生の前で歌ってくれた。歌に関する逸話や宮崎監督との出会いにも触れていただき、学生の楽しげな表情を見るにつけ最終回を飾るに相応しい内容であったと感じた。
 
 このように本講座は成功裡に終了したと自負しているが、受講した学生からも、たいへん満足したとの授業評価を得ることが出来た。日本人学生の殆どは大学一年生であったが、彼らがコンテンツビジネスに興味を持ってくれたのは大きな収穫である。マンガ・アニメが我が国の最大の輸出産業である点を踏まえると、この産業に優秀な人材を送り込むことは重要であり、その意味でも、彼らが将来、さまざまな形でこの分野に貢献してくれることを願ってやまない。また海外からの留学生も日本のマンガ・アニメの読者にとどまらず、その製作過程やビジネス等の側面にも関心を示してくれたことは喜ばしいことであった。
 
 
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