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文庫本は、弁当の「おかず」
 その次は、本屋になった。もともと鈴木さんは東京出版販売という、取次店の社員です。本を売らせれば日本一の自信があると思っていた。しかし、新しいことをなかなかやらせてくれないからイトーヨーカ堂へ移って、そうしたらアメリカ視察団に入れてもらって、それでセブン−イレブンをアメリカで見つけた。これをイトーヨーカ堂でやりましょうと提案したら、伊藤雅俊さんが「自分でやるなら、やってもよい」と言ってくれた。
 最初は米屋と酒屋を「セブン−イレブンになりなさい」と一生懸命口説いて歩いているのを、あとからイトーヨーカ堂の本社の人が「口車に乗ってはいけません」「わが社は関係ありません」と足を引っぱって歩いたという話がある。しかし余計ファイトが出て、今では一万一〇〇〇店もある。セブン−イレブンは黒字で、イトーヨーカ堂のほうが赤字になって、そちらの社長に移ったという成功物語です。
 さて、本を売ろうとすると、全国に二万店近くある本屋の組合は妨害した。だから出版取次が本を渡さない。渡すと本屋さんに怒られる。けれども売りたい、ということで結局妥協したのは新刊本はだめ。文庫本と漫画本と雑誌だけはセブン−イレブンに出してもいいということになった。
 というあたりで、私の『ソフト経済学』という本をPHPが文庫にしたのですが、そのとき本の表紙に注文を出したのです。同じ本でも置く場所によって性質が違う。セブン−イレブンに置かれた文庫本は「おかず」であると私は考えた。独身の男性が弁当を買って帰るとき、ついでに漫画とか文庫本を買って、読みながら食べる。実は私が戦争中そうだったからです。我が家に食べ物はまったくない。父の書庫へ行くと本がいっぱいあるから、本をおかずにして・・・、乏しい飯を食べていた。だから、本がおかずだったという気持ちがありますから、『ソフト経済学』が文庫になってコンビニに置かれると、これはおかずの一種になる。
 「すると弁当で一番足りないのは新鮮な野菜である」と言うと、PHPは見事に実行してくれた。本の表紙には赤いトマトと青いキュウリの写真を使った。
 すると劇的な結果がでたのです。最初にTBSブリタニカからハードカバーで出したときには、一万五〇〇〇部の売行きで終わりでしたが、ところが文庫のほうは一五万部ぐらい売れたんです。それで私はわかったのですが、本というのは中身じゃない(笑)。表紙と置く場所である。だって、本は読まずに買うのですから、中身の良し悪しは買って読んでからでなければわかりません。当然のことでした(笑)。
 経済学者が数人集まって、中身はよいのに自分の本は売れない・・・とボヤイていましたからこの話をしたら、相手にならんという顔をした。そこで説明を理論的なものに変更して、「あなた方は本のメーカーである。中身で売れると思っているのは良心的だが、それは“生産経済学”で“消費経済学”ではない」と言ったら、やっとわかってくれました。
 
 セブン−イレブンの工夫努力の数々はまだまだあるのですが、その後「本屋」になってみて、セブン−イレブン自身も意外な発見をしました。世の中が変化して、治安が悪くなってきた。コンビニねらいの強盗が入ってくるようになった。
 というとき、立ち読みをしている人が無料のガードマンになるということなんです。
 だから最初は社長の道楽かと思っていたが、これはありがたい。昔は「立ち読みは嫌だ」と言っていたのが、「立ち読み歓迎」になった。表通りに本が向いていますが、それに引かれて立ち読みをしてやろうと人が入ってくる。店内に人がいると、強盗が入ってこないという副産物があった。
 その次はビジネスセンターになろう・・・です。ファクシミリ、コピー、最近は銀行の預金引き出し。いずれは市役所になってしまうのではないかと思います。
 ひとつ変だなと思っているのは、現金引き出し機が、漫画、文庫本の隣に置いてあるんです。すると音で何万円引き出したかわかってしまう。隣で立ち読みしながら聞いているのは、必ずしも人相の良い人ばかりではない。あまり身なりのよくない立ち読みの隣でガッチャン、ガッチャン・・・。
 コンビニの中に置いているので、簡易な機械のつくりです。だから音が大きい。スピードが遅い。外に置くと、防犯上がっちりつくらなければいけませんが、店内用なので安くつくっているらしい。ところで、あのATMの中に入っている札束は、誰の所有物なのでしょう? ご存知の方はいますか?
 普通の銀行に置かれているATMの中には、ざっと五〇〇万円ぐらい入っていて、だんだん減っていくのですが、あれは誰の所有物か知っていますか。当然その銀行の所有物だと思うでしょう。実はそこの警備を請け負っている警備会社の所有物なんです。これは二〇年も前からそうです。
 だから、ブルドーザーを持って来て、ATMごと引っこ抜いて持っていくという事件が起こりましたが、銀行は平気です。警備会社はしっかり警備しなければいけないわけですね。自分のものですから。
 これもコンセプト革命なんです。
 昔、日本長期信用銀行にいたとき、その当時まだATMはありませんでしたが、しかしいずれそういう機械にしていくべきだ。高給の銀行屋が窓口で現金払い出しをしている場合ではない、と言ったとき、「その機械の警備は誰がするのか。やはり銀行員がいなければいけないのだから、機械になっても同じだ」と言われた。「警備会社にやってもらえばいい」と言ったのですが、当時はまったく冗談扱いされました。けれども、今は現にそうなっています。
 
 もう時間がありませんが、本当はクロネコヤマトの小倉昌男さんのコンセプト革命にも触れたかったのです。あの会社も凄いですね。
 一つだけ言うと、小倉さんは軌道に乗ってから第二期に入るとき、「ベタベタサービス」と言ったんです。
 お客が「そんなことはしてくれなくてもいい」と言うところまで新しいサービスを考えてやれという意味です。お客はすぐにそれに慣れてさらに要求するが、それにも対応せよ。したがって、人減らしの合理化は絶対やるな、手抜きは一切許さん。人件費削減なんてとんでもない。どんどんベタベタサービスをして、お金を取れ。
 「しかし、お客は払ってくれません」「だったら安くしろ」「安くなりません」「だったら全国を押さえてしまえ、そうすれば安くなる」というふうに話が発展していって、なるほど成功しているわけです。その間、運輸省とさんざん喧嘩したのはご承知のとおりです。
 時間になりました。あとまた予備校の話、大学の話、ビジネスホテルの話などいろいろありますから、また来てください。どうもありがとうございました。







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