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私はこう考える【中国について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2002/09/29 朝日新聞朝刊
(社説)いま、再び求同存異を 日中国交正常化30年
 
 北京の中南海は、歴代中国指導者の住まい兼執務場所で、共産党と政府の本部もある。このベンガラ色の高い壁に囲まれた政治中枢を、ロックグループ「GLAY」が訪れ、江沢民国家主席と面会した。
 日中国交正常化30周年を記念して北京で開くコンサートのあいさつが目的だった。日本人歌手が中南海で指導者に面会したのは初めてだ。
○江主席と会ったGLAY
 江主席は、茶髪に化粧をしたリーダーのTAKUROさんらに「スタイルがいい」と笑顔で話しかけた。その上で、「中日関係発展の問題では、我々は一貫して『歴史を鑑(かがみ)とし、未来に目を向ける』ことを主張している」と語った。
 過去を忘れない、というメッセージなのだろう。TAKUROさんは記者団に「僕らも江主席の意見に賛成です」といったが、意識はむしろ未来の方にあった。
 GLAYは中国の若者にも大人気だ。海賊版のCDやビデオも出回っている。10月に北京のスタジアムで開かれるコンサートは5万人の若者で熱気にあふれるはずだ。それは「而立(じりつ)」を迎えた日中関係の新たな広がりを示す光景となるに違いない。
 田中角栄首相が正常化交渉のため北京を訪れたのは30年前だ。過去について「中国国民に多大なご迷惑をおかけした」と述べ、中国側から「迷惑」という表現は軽すぎる、と強い抗議を受けた。
 日中正常化のためには、歴史以外にも、歴史と密接に絡む賠償や、台湾との関係の問題を乗り越えなければならなかった。しかし、当時の日中首脳は一気に正常化を実現させるという強靭(きょうじん)な意思をもって交渉に臨んだ。
 その精神は田中、周恩来両首相が強調した「求同存異」(小異を残して大同につく)だった。折衝の結果、日中共同声明に「日本国が戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えたことについての責任を痛感し、深く反省する」と明記することで、難しい交渉にともかくケリをつけた。
 それから現在に至るまで、ヒト、モノ、カネの往来は、89年の天安門事件などの風雨を経ながらも増えてきた。
 72年に年間1万人足らずだった日中間の往来は、約200万人になった。日本にとって中国は米国に次ぐ第2位の貿易相手国で、日本は中国の最大貿易相手である。
○求心力に使われる歴史
 交流が広まり、経済などでの相互依存が深まったことで、「日中友好」を唱える人たち同士が交わっていた時代には予想できなかったことも起きている。
 日本で博士号を取得した中国人は5千人を超え、中国研究だけでなく自然科学の面でも成果をあげている。その一方で、外国人犯罪の約4割に中国人がかかわる。
 中国産の安くて良質な衣料品や食料品は日本中の消費者から歓迎された。しかし、それだけに残留農薬問題のショックも大きかった。中国に生産拠点を移して生き残りに成功した企業がある一方で、空洞化に悩む自治体も少なくない。
 江主席が日本の要人と会見したとき、やおらガラス製の灰皿を二つ取りあげ、こすり合わせた。つるつる滑る灰皿を「何となく不自然だ」と語った江主席は、次に2枚の紙をざらざらとこすり合わせ、「こちらの方が自然だ」と言った。国と国との関係は深まれば深まるほど、摩擦があって当然だと、その真意を解説した。
 しかし、交流が深まれば摩擦と同時に生まれるはずの相互理解と信頼は、まだまだ不十分ではないだろうか。台湾や軍事をめぐる相互不信も広がりつつある。
 中国では市場経済の発展により社会の多様化が進んだ。共産党は愛国主義運動を強めることで、政権の求心力と国民の団結を強めようとした。抗日戦争の歴史は、愛国主義運動の教材にされている。
 98年に来日した江主席は歴史認識の重要性を強調する余り、戦後は平和の道を歩んできたと思う多くの日本人を戸惑わせ、げんなりさせた。小泉純一郎首相が今年は8月をやめて春の例大祭に靖国神社に参拝しても、中国側は「絶対に許すことはできない」と批判のトーンを緩めない。
 戦前に日本が、中国だけでなくアジアで行った戦争や侵略の事実は、中国側から指摘されるまでもなく自分たちの問題として直視すべきである。
 しかし、日中の歴史認識が完全に一致することはありえない。中国側が日本の侵略でひどい目にあったという被害者意識の強い歴史だけを強調し、日本側も不用意にそれを刺激する。そんな連鎖が続く限り、相互理解に基づく信頼感は育たないだろう。
○史上初の「強強」関係
 小泉首相が朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)との国交正常化交渉再開に向けて訪朝し、日本もようやく朝鮮半島情勢に戦略的に関与を始めた。
 アジアでただ一つの国連安保理常任理事国である中国は、世界貿易機関(WTO)に加盟したことで、政治や軍事に加え経済力でもその存在感を世界で増している。
 日中は、2千年の交流史で初めて一方が強いという「強弱」関係から脱し「強強」関係に入った。アジアの平和や自由貿易という21世紀の「大同」に向けて、両国が共に歩む条件ができつつあるといえる。
 日中が地域で役割を果たすためには、相互の関係を一層安定したものにしていくことが必要だ。交流をさらに促進し、「嫌中感」や「嫌日感」といったものを乗り越えていくことが大切である。
 未来の世代に問題を残すのではなく、いまの日中双方の為政者が責任を持って取り組んでいかなければならない。
 
 
 
 
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