2002/03/06 朝日新聞朝刊
(社説)開放と安定の間で 中国全人代
「世界貿易機関(WTO)加盟後の新しい情勢に適応し、対外開放のレベルを全面的に高める」
中国の国会にあたる全国人民代表大会(全人代)が始まり、朱鎔基首相は政府活動報告で、経済をさらに開放することを宣言した。
同時に、社会保障制度の整備や公的負担の軽減という、社会の安定重視を目指した施策を提案した。WTO加盟によって厳しい国際競争にさらされる労働者や農民の暮らしに配慮したものである。
今年の全人代は「開放」と「安定」という目標を達成する道を探る会議になる。
WTOの公開と透明の原則に基づき、法整備を急ぎ法執行の公正さを確保する。コピー商品を取り締まり、詐欺やインサイダー取引などの違法行為を厳しく処罰する。行政審査や許認可事項を削減する。
朱首相はこのように語り、中国経済のゆがみや悪弊を正す決意を示した。WTOに入った以上、当然のことである。
もちろん、言葉だけでは不正はなくならない。国を指導する立場の共産党員の不正や腐敗は後を絶たない。昨年1年間だけで17万人を超す党員が処分を受けた。閣僚級が16人も含まれるのには驚かされる。
一党独裁の下での開放政策には限界がある。朱首相報告の中に政治改革への言及がなかったのは残念だ。秋に指導部の世代交代を決める党大会を控えて、波風を立てたくないとの配慮があるのだろう。
「今後短期間において競争力の弱い一部業種、企業はかなり大きな打撃をこうむることになろう」と首相は述べた。
WTO加盟によるマイナス面を率直に認めたものだ。失業は増え、賃金の遅配も深刻だ。農村と都市の貧富の差は年々広がっている。米国などから安い農産物が入ることで、1億とも2億人ともいわれる農村の余剰労働力はさらに増えかねない。
社会不安への懸念は高まる一方だ。
朱首相は「国際市場の競争は一層激しくなり、貿易保護主義に拍車がかかっている」と指摘した。その上で、経済成長を維持するために約2兆4千億円の国債を発行して内需の拡大をはかることや、低所得者層への手当の支給などを提案した。
日本にとって有力な経済パートナーである中国が、安定した経済成長を続けることは望ましいことだ。難しい経済運営のかじ取りに成功するよう期待したい。
朱首相は社会の安定を維持するため、テロ集団や宗教的過激派、民族分離主義勢力に対して厳しい打撃を与えると言明した。これが、宗教弾圧や人権弾圧につながらないようくぎを刺しておきたい。
国防と軍隊の強化も提案された。今年も国防費は増額され、14年連続2けたの伸び率になると予測されている。
軍事的脅威と見られないためには、国防費の透明度を増すことが必要だ。この面でも開かれた国になることが望まれる。
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