1999/10/02 朝日新聞朝刊
(社説)中国とどう向き合うか 建国50周年
雨上がりの北京・長安街に、戦車や大陸間弾道ミサイルが登場し、上空を最新鋭戦闘機の編隊が飛んだ。
中国は一日、建国五十周年の国慶節を盛大に祝った。
軍事パレードは十五年ぶりである。毛沢東主席の時代、毎年催されていたが、やがて自然災害や文化大革命で中断される。
その後、トウ小平氏の時代の一九八四年に復活した。五年ごとに催す予定だったが、天安門事件の影響で再び中止された。パレードの変遷は中国の歩みを映している。
パレードを閲兵したのは、党、国家、軍の頂点に立つ江沢民主席だ。毛氏、トウ氏と並んで江氏の巨大な肖像画も現れた。江時代が始まったことを象徴している。
大がかりな軍事パレードには、ユーゴスラビアの中国大使館爆撃事件で高まった愛国主義を反映し、米国の一極支配への対抗力を誇示する意図がうかがえる。台湾の李登輝総統が打ち出した「二つの国」論をけん制する狙いもあろう。
中国の軍事力の増大や愛国主義の高まりは、周辺諸国の警戒心を呼び起こす。核兵器や弾道ミサイルをもつ中国の軍事大国化は、日中関係にとっても、アジアの安定にとっても、マイナスである。
だからといって、いたずらに「中国脅威論」を振りまくことは、この地域の緊張をあおりかねない。
重要なのは、中国が、国際的な秩序づくりや貿易を発展させる枠組みに、責任ある一員として加わることである。
中国を過大視したり、逆に「巨大なる途上国」と見下したりすべきではない。実情をあるがままに見つめ、冷静に向き合うことが大切だ。
過去五十年間の中国を振り返れば、政治は大きな起伏を繰り返したものの、経済は目覚ましく発展した。
建国から約三十年間は年平均ほぼ七%で成長し、改革・開放政策以来の二十年間は年率約九・七%の急成長を遂げた。
中国は確かに豊かになった。鉄鋼、石炭、セメント、テレビ、穀物、綿花、肉類などの生産量は、いまや世界一である。
今年の日中貿易は六百億ドルの大台を回復しそうだ。日本からの投資は今年上半期、前年比四八%(実行ベース)も増加し、日中経済は一層深く結びついている。
しかし、最近になって、経済の構造的な問題点が目立ってきた。成長の鈍化に加えて、沿岸部と内陸部の地域格差拡大、国有企業のリストラが生んだ失業者の増大などである。
食糧も楽観できない。建国時に五億四千万だった人口は、十二億を超えた。二〇三〇年には十六億人に達する。今より約一億五千万トンの食糧増産が必要になる。
産業の発展、エネルギー使用の増加とともに、公害も深刻になっている。二酸化炭素や硫黄酸化物の排出量は世界一、二位を争う。
地球の将来は、中国を抜きにしては語れない。成長する隣国の巨大さがもたらす地球規模の問題こそ、本当の意味で「脅威」になると認識すべきだ。
経済改革には、政府が進める政策についての人々の理解や支持が欠かせない。それには、民意をもっと政治に反映させる仕組みが必要だ。
経済と政治は車の両輪である。中国の安定的な発展は、次の世紀の日本にとってますます大事になる。
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