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私はこう考える【中国について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1997/09/28 朝日新聞朝刊
(社説)未来を築く人づくりを 「日中正常化25周年を迎えて」
 
 北京の人民大会堂で、日中共同声明が調印されてから、四半世紀の時が流れた。
 この間、日中平和友好条約が調印され、両国首脳が相互に訪問し、天皇が訪中した。貿易や投資は飛躍的に拡大し、年間の人の往来は二百万人近くに達する。
 だが、日本と中国との関係は決して順風満帆だったわけではない。首相の靖国参拝や中国の核実験などで、しばしば波風が立った。今も日米防衛協力の指針の見直しなどをめぐり、両国間にはきしみがある。
 しかし最近、朝日新聞と中国の人民大学が共同して実施した世論調査の結果では、日中関係が「うまくいっている」と答えた人が、日本でも中国でも「うまくいっていない」という人を上回っている。
 橋本龍太郎首相の訪中を受けて、まもなく李鵬首相が来日する。さらに来年には、最高指導者としての地歩を固めた江沢民主席が訪日する。問題は抱えながらも、日中関係はここまで発展してきた。
○後継者は育っているか
 「水を飲む時、井戸を掘った人のことを忘れてはならない」という。「井戸を掘った人」としてよく名前が挙がるのは、日本人では松村謙三、高碕達之助、田中角栄、大平正芳氏らである。戦前に中国と交わりがあった人もいて、戦争で中国に大きな損害を与え、申し訳なかったという気持ちが、その行動の底にあった。
 中国人では周恩来、郭沫若、廖承志氏らである。彼らは日本に住んだり、留学した経験のある人々である。日本軍に肉親を殺されたり、家を焼かれたりした中国の人々の前で、日本との国交回復の必要を説くのは、勇気のいる仕事であっただろう。
 双方の「井戸を掘った人」に共通するのは、十億人の中国と一億人の日本が敵対していることは、両国の利益に合致しないばかりか、アジアや世界の平和と安定にとっても好ましくないという、大局的な視点と判断であった。
 すでに彼らのほとんどは、鬼籍に入ってしまった。「井戸を掘った人」の後継者は、双方に育っているだろうか。
 日中関係が成熟するにつれ、贖罪意識(しょくざいいしき)や目先の利益だけで、友好を唱える時代ではなくなった。主張すべきは主張し、ときには相手に耳の痛いことを言うことも必要だろう。だが、その前提は、日中関係がアジアや世界の平和と繁栄にとってきわめて重要であるという観点である。
 いまや日中関係は、単に日中両国だけの関係ではない。日米中の三角形は、アジアの国際関係の重要な軸である。朝鮮半島やカンボジア問題を、中国の存在を抜きにして語ることはできない。
 日本もまた、以前に比べ国際社会での存在感を増している。双方の政権の中枢に、大局的な見地としっかりした歴史認識を持った「知日派」や「知中派」がいなければ、日中の将来は危うい。
 十五回党大会で選ばれた中国共産党の新指導部の中で、黄菊政治局員は、日本に一年近く滞在し、海外技術者研修協会や電機メーカーで研修を受けたことがある。だが、ほかには「知日派」は見当たらない。先ごろ死去した孫平化・中日友好協会会長の後任も決まっていない。
 日本の政界でも「知中派」の影は薄い。日中関係をこれからさらに発展させる必要があるという点では、ほとんど異論がないところだが、これを担う人材の面では、はなはだ心もとないのが現状である。
 それどころか、過去に目を閉じたり、世代がかわったから過去とは無関係だという若い政治家や学者が出てきている。自国にとって有利であればそれで良い、という偏狭なナショナリズムも台頭してきた。
 もう一度、国交正常化当時の「井戸を掘った人」たちを思い起こしたい。相手の立場を理解し互いに信頼感で結ばれる。世界的な視野でものを考える。戦前、戦後の日中の歴史をよく知り、事実は事実として率直に認める。そんな人物を、日中双方ともに育てなければならない。
○厳しい目向ける留学生
 しかし、現状は、残念ながらそうした人材を育てる態勢が整っていない。それどころか、逆に相手のことが嫌いになってしまうような、憂慮すべき状況にある。
 その端的な例が、中国からの留学生と、その予備軍である就学生である。
 毎年、中国から国費で来る留学生(博士課程以上)は約八十人。彼らは吉林省長春で、留学前の予備教育を受ける。来日後の奨学金や宿舎もかなり整備されてきた。
 しかし、学部学生を中心とした約三万人の私費留学生や、日本語学校に通いながら私費留学を目指す約二万人の就学生をとりまく環境は、非常に厳しい。
 自分自身も日本留学体験のある中国・吉林師範大学日本研究所の徐氷所長は、こう語っている。
 「私費留学生の八割と就学生には奨学金がない。日本で部屋を借りるにも、高い礼金と敷金を払わなければならない。それでも中国人とわかったら、大家さんは『だめだ、だめだ』を連発する」
 中国からの留学生らを対象に、日本で発行されている「留学生新聞」には、過去八年間に、日本と日本人に関する文章約四百八十編が載った。その中でもっとも多かったのは「日本人がアジアの人を軽蔑する(けいべつする)」「排他的だ」という指摘であった、と徐所長は分析している。
 揺るぎない日中関係の構築を目指すなら、生活に困っている中国からの留学生や就学生に、政府はもっと手を差し伸べるべきだ。財政難の中でも、こうした予算を増やすことに、国民は反対しないだろう。
○温かい言葉をかけよう
 献身的に彼らを支援している善意の人や団体もあるが、社会全体の雰囲気が変わることが大切だ。ある留学生は「教室でさえも、日本人学生から話しかけられたことがほとんどない」と嘆いている。
 私たちの身の回りにも、留学生はたくさんいる。彼らに温かい言葉をかけたり、わずかな支援をしたりすることは、私たち一人一人が心がければできることだ。
 一方、日本から中国への留学生は、中国の統計によると、昨年、一万四千余人に達した。国別では日本からが一番多い。
 中国の大学では、留学生が普通の中国人家庭に下宿することは原則として許されない。安全や衛生が十分保証できないという理由からだが、中国の人々と日常の付き合いができないことが、留学生にとって大きな不満となっている。
 これからの四半世紀の日中関係は、こうした若者たちに負うところが大きい。日中双方とも「井戸を掘った人」の後継者を育てるために、もっと本腰を入れなければならない時が来ているのではないか。
 
 
 
 
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