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私はこう考える【中国について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1997/09/03 朝日新聞朝刊
(社説)等身大の関係を今こそ 「日中正常化25周年を迎えて」
 
 一九七二年の九月二十九日、日本と中国は国交を正常化した。
 第二次大戦後も、なお長年にわたって続いた「戦争状態」に終止符を打っただけではない。
 その日の日中共同声明によって、日中両国は、十九世紀後半に近代国家として歩み出して以来初めて、ともにたがいの主権を認め、尊重し合う、あたり前の関係にたどり着いたのだ。
 それから四半世紀が過ぎようとしている。日本の二十六倍の国土に十二億の人口を擁した隣国との関係を振り返り、来世紀への新たな出発を確かめるために、橋本龍太郎首相はあす北京へ旅立つ。
 だが、日中関係の前途は平たんではない。首相の訪中は、手放しの祝祭気分とはほど遠いものとなるだろう。
○依存と不信の危うい落差
 多くの経済指標を見れば、この二十五年の両国関係の深まりは明らかだ。
 貿易総額は国交正常化当時の六十倍近い規模になり、中国は日本の貿易相手国として米国に次ぐ地位を占める。中国にとって、日本は第一位の貿易相手国だ。一時のブームは去ったとはいえ、日本の対中直接投資は年間四十四億ドルに達する。円借款をはじめとする経済協力は二兆円を超え、改革開放にわく中国経済を下支えしてきた。
 人の往来は十倍の年間百十万人にのぼる。二万人近い日本人が中国で暮らし、数万人の中国人留学生が日本で学ぶ。
 経済的な相互依存は、いまや両国を不可分に結び付けているといっていい。
 しかし、両国の友好や信頼が、同じように深まったといえるだろうか。残念ながら、そうではない。
 教科書問題や中曽根康弘首相の靖国神社への公式参拝、日本の侵略責任をあいまいにした数々の閣僚の発言が、日中関係を揺さぶってきた。問題が起きるたびに、歴代政権はその場しのぎのとりつくろいで関係修復を図ってきた。
 それは、国交正常化、その六年後の日中平和友好条約の締結後もなお、対中政策の土台となるべき歴史の評価や、日中関係が世界や地域の平和にどれだけの意味を持つかについて、日本の政治が無関心、無理解だったことに大きな原因がある。
 この二十五年は、日中関係を、援助や投資という経済の世界にゆだね、埋没させてきたのではないか。
 その帰結として、いま日中関係はより微妙で難しい段階を迎えている。象徴的なのは、日本側の「中国脅威論」と中国側の「日本脅威論」の顕在化である。
 「中国脅威論」はいう。中国に経済の力がつけば、なおさら軍事力の増強を急ぐ。尖閣諸島や南沙諸島の領有を試み、台湾への軍事攻勢をさらに強めるだろう。日本のシーレーンも脅かす可能性がある。いまからそれに備えるべきだ、と。
 そうした主張は、昨年の台湾危機や中国の核実験を機に、政府の「弱腰外交」批判となって自民党や新進党から噴出した。
 背景にあるのは、冷戦の終わりと、九〇年代に入ってからの中国の急速な発展、そして中国との戦争をはだ身で知らない世代が中心になったことなどである。
 世論の変化も著しい。総理府の調査によると、中国に「親しみを感じる」人の割合はここ数年減り続け、昨年秋には「感じない」人が初めて過半数を占めた。二十歳代では、その比率が三分の二近い。八〇年代には考えられなかった現象だ。
○中国の実像を見すえよう
 一方の「日本脅威論」は、経済大国は必ず軍事大国になる、軍国主義復活を願う勢力の台頭を警戒しなければならない、と主張する。
 実態に基づかない脅威論が独り歩きするほど、危険なことはない。
 少なくとも、日本人の多くは日本を再び軍事大国にはしてはならないと考えている。大切なのは、中国についても、等身大の姿を見すえることだ。
 中国経済は拡大を続けている。といっても、国民の平均所得は日本の約七十分の一にすぎない。国有企業の改革は難航し、失業、貧富や地域の格差は深刻だ。発展に伴うそうした矛盾を外資の導入でしのいでいるのが実態とみるべきだろう。
 民主化や政治的な自由を求める動きも強まるに違いない。そこから浮かびあがってくるのは、改革開放政策と経済大国への道の多難さである。日本にとって脅威がありうるとすれば、それはむしろ改革開放政策の挫折と中国社会の混乱なのだ。
 国防費の膨張と、核戦力を含む軍の近代化の行方は注視しなければならないが、中国軍が世界有数の戦力を備えようとしても、なお数十年を要する、という見通しを米政府当局者は明らかにしている。中国が今後も対外関係の安定を必要としている現実から目をそらして、脅威ばかりを言い立てるのは建設的ではない。
 北京での首脳会談の焦点は、新たな日米防衛協力のための指針を橋本首相がどう説明し、江沢民主席と李鵬首相がそれにどう答えるかである。
 新指針の策定や運用にあたって、共同声明と平和友好条約にうたわれた「ひとつの中国」と、台湾問題の平和的な解決という、対中政策の大原則を堅持すべきことはいうまでもない。
 日中間の平和を脅かすことがないよう、両国の中長期的な安全保障政策について徹底した議論を期待したい。中国側には、その軍事政策が日本国民の間に疑念を招かないよう説明を求めるべきだ。
 日米安保体制の将来像や、中国首脳も積極論を主張し始めたアジアの多国間安全保障構想とのかかわり、また軍備管理や多様な信頼醸成についても、首相の外交力が問われるだろう。
○来世紀を展望する会談を
 橋本首相はさきに、体制の違いを超えた相互理解、歴史認識をも含めた対話の強化、環境政策やエネルギー分野での協力、地域紛争の解決努力や中国の世界貿易機関への加盟を通じた共通の秩序づくり、の四本柱からなる対中外交原則を提唱した。
 それぞれもっともだが、言葉だけでは国際政治の舞台で通用しない。昨年みずから靖国神社を参拝したことが、対中関係をどれだけこじらせたかを、首相は知ったはずである。
 重い歴史を背負った日中関係は、米国や欧州諸国と比べて、相互理解がはるかに難しい。なにかことがあれば、信頼はたちどころに崩れてしまう。
 両国の指導者が、双方の有害なナショナリズムをいかに抑えて、来世紀の東アジアを展望するか。そうした会談になるなら、二十五周年を記念するにふさわしい。
 
 
 
 
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