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1995/03/07 朝日新聞朝刊
(社説)ポスト・トウ時代に備える中国
中国の最高実力者、トウ小平氏の健康問題が取りざたされるなか、年に一回開催される中国の国会、全国人民代表大会(全人代)の第八期三回会議が開幕した。
初日は李鵬首相が政府活動報告をおこない、二日目には国防費の増額を含む予算案が提出された。
家族からトウ氏の健康不安が伝えられて以来、中国の将来をめぐるさまざまな議論が広がっている。中には中国が分裂し、内戦状態に陥るとか、改革・開放政策が破綻(はたん)する、などの予測もある。
中国の政治におけるトウ氏の存在の大きさが、こうした不安をもたらしているのだろう。だが、予測の多くは、十分な根拠を持っているとは言いがたい。いたずらに危機感をあおるのではなく、冷静に現実を分析する態度が求められている。
その意味で李鵬報告は、中国の直面している問題をさぐる手掛かりとなる。江沢民総書記を中核とする現指導部が、中国をどの方向に導いていこうとしているか、それをこの報告は示している。
まず内政面で注目すべきは、これまでの高度成長を評価しながら、経済の「安定的発展」を強調している点である。
中国は過去三年間、毎年一〇%を超す経済成長を続けてきた。日本を含めた外資の大量流入で、沿海部を中心とする大都市の発展は目ざましく、人々の生活水準は目に見えて改善された。
そのかげで、「際立った問題と困難」が出てきたことを李首相自身が認めた。それは、物価高、農業不振、国有企業改革の遅れ、分配のひずみなどである。
昨年の物価上昇は、一〇%以内に収めるはずだったのに、二一%を超してしまった。ある調査によると、経済特区の広東省珠海市と山村の貴州省晴隆県をくらべると、一人当たりの生産額には八十六倍もの開きがあるという。物価高は、貧しい農村を直撃した。
物価のコントロールを失ったのは「われわれの活動面での欠陥にもよる」と、李首相は述べた。中国の政府が、自らの失敗をこれほど率直に認めたのは珍しい。
食糧生産は昨年、一千万トン以上減産となり、二〇〇〇年に五億トンとする目標達成があやしくなってきた。人口は今年、十二億人を突破した。「食」の問題をいかに解決するか、大きな課題である。
赤字を出し続ける国有企業に対して、破産法を広く適用すれば、失業などの社会不安が起こるに違いない。
難問山積だが、中国の現指導部は、それを着実に解決しようとしているようだ。前途は険しいが、その姿勢は評価したい。
だが、スプラトリー(南沙)諸島の領有権をめぐり紛争が続くなかで、国防予算を、昨年に続き二〇%以上増額したのは、近隣諸国に不安感を与えるおそれがある。国防費の中身の透明度を高めるべきだ。
対外関係についても、今年の政府報告は注目すべき点がある。
例年、国別に論じてきたが、今年から国名をあげてはいない。しかし、その中で「覇権主義、強権政治反対」を主張しているのは、米国を念頭に置いたものだ。
それに加えて今年は「中国の抗日戦争勝利五十周年」にも言及した。「この侵略戦争が中国人民と世界人民にもたらした未曽有(みぞう)の災禍を永遠に忘れることはできない」。これはわが国に対するメッセージであろう。
日中がより良い関係を築くためにも、われわれはこれを真剣に受け止めたい。
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