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1992/04/05 朝日新聞朝刊
(社説)「古い革袋」に不安が残る中国
中国の国会である全国人民代表大会(全人代)は、憲法で国家の最高権力機関とされている。しかしこれまでは、共産党中央の決めた方針、政策を満場一致に近い形で承認することがほとんどで、陰で「ゴム判議会」などと皮肉られてきた。
ところが今年の全人代は、大会初日に提案された李鵬首相の政府活動報告に150カ所もの修正を加えて可決し、閉会した。従来もあることはあった字句の修正にとどまらず、首相提案の基調に触れる手直しである。異例のことといえよう。
報告が改革派よりに修正されたとの印象を強く与えたのは、最高実力者の  小平氏の最近の指示にはあったが李鵬提案にはなかった2つのキーワードが、挿入されたからだ。「主に左(保守的思想)の偏向を防止する」と「改革・開放路線は100年間動揺させない」である。
会期中、改革が先行する南部沿海地方の代表らから、李鵬報告が改革・開放におよび腰すぎるなどの不満や批判の表明が相次いだ。李鵬首相の指導力の低下を印象づけたことは否めないところだ。
今後、指導部の大幅刷新が焦点になる秋の党大会に向け、李鵬氏の首相ポスト維持を中心に、保革の人事面での駆けひきは激しさを増すとみて間違いない。
ただ一連の経過を、「改革派対保守派」の単純化した構図だけで見てはなるまい。活発な首相批判に加え、環境への影響などで慎重論の多い長江の三峡ダム問題でも、大量の反対・棄権票が出たことにも注目しておきたい。
こうした背景には、指導部提案も批判できるといった開放的な雰囲気を、ことさら内外に印象づけることによって、それを改革推進のてこにしようという計算も、働いていたのではないか。
確かに最近の  小平語録は改革・開放一色だが、彼のもう一方の軸足は、依然として「安定団結」にある。今回の全人代で人事的な決着が図られなかったのは、そうした  氏の考えにもとづくものだろう。
いずれにしろ今回の全人代を経て、改革・開放の加速を説く  路線が、中国の基本国策として再確認された。経済面では天安門事件前に戻ったことになる。
最後の社会主義大国として取り残された中国が、その体制の生き残りの道をイデオロギー的締めつけでなく、より豊かな経済の建設に求めたのである。それ自体は賢明な選択であろうし、われわれも開放体制を堅持することは歓迎したい。
だが古い政治の枠組みをそのままにして「より大胆な改革」をすすめることは、はたして可能か。政治体制面での近代化、民主化をおきざりにして、経済面だけ都合よく改革しようという考え方は、壁に突き当たるのではないか。
また「100年動揺させない」というが、改革政策が今後も安定的に続くのかどうか。ここ10年来の中国政治の軌跡を思い起こすと、なお不安を禁じ得ない。
中国社会の顕著な特性として、最高指導部が「改革だ」と号令すると、全国いっせいにその方向になびくことがあげられる。するとたちまち経済は過熱し、インフレ再燃の恐れが出てくる。それが保革対立、主導権争いの火種となりかねない。
6日には、江沢民党総書記が来日する。歓迎すると同時に、改革・開放を加速させる手立てはどうなっているのか、政治体制の近代化への道筋はどうかなど、党の最高指導者の口から直接、じっくりと聞くいい機会である。
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