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私はこう考える【中国について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1988/11/07 朝日新聞朝刊
(社説)気になる風が中国を吹く
 
 この夏、北京と上海でテレビ視聴者の間に大きな反響を呼んだ連続ドキュメンタリーがあった。先月になって、この番組の再放映が禁止され、公開の場でこれについて論議することも自粛するよう求めた当局の通達が出たという。開放政策を建前とする中国の文化界で、なにが起きているのだろうか。
 「河殤(かしょう)」というこの番組は、経済改革推進派の理論家である〓(れい)以寧・北京大教授らが企画顧問をつとめ、30代の若手学者、作家たちが手分けして、40分物6本のシナリオを書いた。
 題名は中国古代の詩人、屈原の「国殤」にヒントを得たものらしい。「国殤」は「国のために命をささげた若者たち」をまつる歌だが、「国」を「河」つまり黄河と、それが象徴する中国文明に置き換えたわけだ。
 情報化時代といわれるだけあって、この番組のビデオフィルムは再放映禁止が決まる前に、東京の中国研究機関などに幾セットかが届いている。シナリオもあるので、私たちもその全容を知ることができる。
 黄河の河道に泥土が積もるように、古い文明のおりがたまって新しい発展を阻害している実情に、フィルムと語りはさまざまな角度から迫る。想像上の動物である竜や万里の長城などを、運命にさからわぬあきらめや閉鎖的な民族の姿勢を示すものと描く。
 国際サッカー試合での中国チーム敗戦に泣き、怒る人びとを写しながら、「そんなに悲しむことはない。われわれの1000年帝国は終わった。いま大事なのは自分を欺かぬこと」と語る。このクールさは、文革否定後の中国でもあまり見られなかったものだ。自らを見つめ、閉鎖性を改め、世界に開かれた文化作り、国造りに着手すべきだというのが、この番組に一貫する主張である。
 中国の開放政策を代弁する感じさえするこのフィルムが、なぜ当局にきらわれるのか。それには、このところ中国で強まった引き締めムードが関係しているようだ。
 9月末の党中央委総会(3中全会)は激しいインフレに対処するため、経済改革に歯止めをかける調整政策への転換を決めた。指導部内では、経済を過熱させた責任を問う保守派に押されて、改革派の趙紫陽総書記らは受け身になっているとも伝えられる。
 引き締めの風が思想・文化の領域にも及び始めた表れが「河殤」事件、というのが香港の観測筋などに多い見方だ。昨年の胡耀邦辞任の際にも活躍した王震国家副主席、薄一波党顧問委副主任らの保守派が活発に発言しているらしい。「黄河、長城をそしり、偉大な中国人民を侮辱する歴史虚無主義の産物」「若者たちには党の歴史、中華民族の歴史がまるでわかっていない」などだ。
 だが、これらの批判は的を射たものだろうか。番組には官僚主義や政治の古さを手ひどく皮肉った部分もあるし、個々の史実解釈などには議論の余地もあろう。しかし、この企画が民族の奮起を促すまじめな意図から出ていることを多くの視聴者が認め、それが再放送を求める根強い声ともなった。
 昨年1月、ブルジョア自由化思想をあおったとして党から除名された作家の劉賓雁氏や科学者の方励之氏はその後も発言を続け、欧米諸国への旅行も認められた。これを見て、「中国の開放は本物になってきた」と受け取る向きも少なくなかった。
 そこへ「河殤」事件である。政治や文化にも波及せざるをえない社会主義国の改革のむずかしさが、よくわかる。古い文明に新しい活力を吹きこもうとして苦闘する人びとの努力が、挫折しないことを私たちは願う。
 
 
 
 
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