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1988/10/06 朝日新聞朝刊
(社説)軌道を修正する中国経済
中国では猛烈な物価上昇が続き、中国共産党はついに、物価を抑えるために経済政策の方向転換に踏み切った。「開放」と「改革」の基本路線は守るが、不合理な価格体系の改革のテンポをおくらせ、今後5年間は物価上昇を厳しく抑制することが、9月末の党の中央委員会全体会議で決議された。
これに伴って中国経済の成長率はおさえられ、建設投資はエネルギーなどを除いて圧縮される。多少のインフレのリスクを負っても、価格改革を進めようとしてきた趙紫陽総書記の方針は軌道修正を迫られ、李鵬首相らの安定成長の主張に道を譲ったと観測されている。中国は再び経済の調整期にはいった。
社会主義国にインフレは存在しないというのは、いまや神話になった。だが中国の場合、85年以来の物価上昇はひどすぎた。今年上半期はとくにいちじるしく、上昇率は13%。李鵬首相は年間で15―20%との見通しを示した。
この統計数字さえ「庶民の実感からかけ離れている。実態はもっとひどい」と中国の人びとはいう。毎日のように買う肉は5月から平均54%、砂糖は38%、卵は20%も値上げされたからだ。
物価上昇でもっとも打撃を受けたのは、都市の俸給生活者だった。農民は農産物の国家買い上げ価格が上がり、優良企業の労働者も賃上げとボーナスを手にした。だが、公務員や事務職、教師、インテリ層は、わずかなベースアップでは物価の上昇に追いつけないでいる。月10元(約350円)ほどの物価補助は焼け石に水。嘆きの声が、北京や上海などの大都市にあふれている。
庶民は自衛のため、食料品や綿布などの買いだめに走った。銀行の取りつけ騒ぎも起きた。買い占め、売りおしみもあるらしい。「甘い汁を吸っているのは、一部のコネのある人間だけ」という不満は、共産党や政府の威信を低下させている。
どうしてこんなことになったのか。最高実力者である  小平氏はいう。「主な原因は需要と供給のアンバランスにある」「管理がいきとどいていない」「経験が足りない」
たしかに中国では、総需要が総供給を上回っている。長い間低く抑えてきた価格の統制をはずし、自由化すれば、市場メカニズムが働いて値上がりする。それがゆるやかに進めば価格の合理化につながるはずなのだが、その速度が速すぎた。
なにせ人口11億に近い大国である。一斉に走り出すと、なかなかブレーキがきかない。社会主義の計画経済に市場メカニズムを導入するという政策は、中国では前例のない実験であるだけに試行錯誤は避けがたい。計画経済と市場調節のかね合いをどうつけるかがむずかしいのだ。
だが、この10年間の中国経済は、順調な時期がしばらく続くと改革が始まり、改革が進むと経済は過熱し、インフレと貿易赤字が大きくなって調整期にはいる、という型の繰り返しである。
80―82年の調整では、宝山製鉄所の契約破棄事件が起こり、日中関係に一時ひびがはいった。国内の経済政策が外交関係にまで及ぶこともある。李鵬首相は「調整は、金利、税率、関税など経済的な方法で臨み、80年のような一律抑制型では行わない」と述べているが、ぜひそうあってほしい。
竹下首相の訪中で、わが国は8100億円の第3次円借款を約束した。その背景には、中国経済の安定と発展への願いがこめられている。中国がインフレを克服し、多少回り道でも着実な軌道に乗ることを期待したい。
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