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1987/10/26 朝日新聞朝刊
(社説)「初級段階」の社会主義中国
「中国の社会主義はいま初級段階にあり、これは100年間は続くだろう」――北京で開幕した中国共産党の第13回党大会で、趙紫陽党総書記代行はこう報告した。かつて「大躍進」を唱え、人民公社を作って、共産主義社会まであと一歩だ、と意気込んでいた中国だが、いまは客観的に現実を認め、その現実から出発する姿勢を明確にしたわけである。
 小平氏の指導体制が固まって以来、中国は、外に対しては「開放」、内では「経済改革」を、かなりのスピードで推し進めてきた。国民総生産は2倍になり、人々の暮らしも目に見えて改善されたが、その半面で、「万元戸」といわれる富裕な農民が出てきて、農民にも貧富の差が生じた。
また、外国の投資で高級ホテルが次々と建つその隣には、日本より狭い住宅に人々がひしめき合って暮らしているという光景も見られるようになった。「金もうけは良いこと」という風潮が広まり、「これがはたして社会主義なのか」という疑問が、中国の内外に生じてきた。趙報告が「社会主義初級段階論」を展開したのは、こうした疑問に答え、「開放」と「改革」の政策に、理論的基礎を与えたものだとみることができるだろう。
さらに、この段階が21世紀の半ばまで続くというのであれば、海外からも安心して投資できるという効果もあるかもしれない。中国が現実をしっかり踏まえて、長期的に変動のない国造り政策を進めることは、わが国にとっても大いに歓迎すべきことである。
ところで「社会主義の初級段階」とは、何を意味しているのか。党大会に先立って、中国国務院(政府)の幹部は、その具体的な現れとして次の10点を挙げている。
それは(1)農業人口が大部分を占めている(2)市場体系が未発達(3)地域間格差が大きい(4)文盲、半文盲が人口の4分の1を占めている(5)人口が多く、1人当たり生産が少ない(6)人民の生活水準が低い(7)国有、集団所有と私有の共存(8)労働による分配と利子などの分配との共存(9)人治(人による統治)と法治(法律による統治)の共存(10)社会主義思想とその他の思想の共存――であるという。
趙報告はこうした現実を認めたうえで、生産力を発展させるために「開放」と「改革」のいっそうの推進を主張した。とくに「改革」では、経済ばかりでなく、政治の改革を呼びかけたが、これは「党」と「政」の分離、つまり、大きな方針は党が示し、具体的な施策は行政機関が担当するということである。
日本のビジネスマンたちは中国との合弁を進める際、中国側の担当者の背後に党の責任者が控えていて、話がまとまらないとこぼしている。また、中国の工場や企業でも、党委員会がくちばしを入れるため、生産が上がらないという話は、以前から指摘されていた。「すべてを党が決定する」というやり方が改善されるとすれば喜ばしいことだ。
ただ、「開放」にしても「経済、政治改革」にしても、  氏の下で今年1月までは胡耀邦氏が総書記として進めてきたことだ。とくに「政治改革」の必要性を胡氏は力説した。昨年末に起こった中国各地の学生デモは、なかなか進まない政治改革に学生たちがいらだち、「民主化」を求めたものだったが、これが結果として胡総書記の事実上の解任につながった。
胡氏が今大会でも、議長団の1人に選ばれ、かつてのように、「批判」即「打倒」でなくなったのは、好感が持てる。中国の政治に「人治」の要素がある以上、趙報告で示された方針をだれが実際に行うのか、今後の人事が注目される。
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