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図4.2.9 スエズ通過時 センサC
従来型、機関回転数(上図)、#1リング上昇時(下図)
(低速運航時には、ライナ上部の油膜は薄い。)
 
図4.2.10 リング合口通過の例
(リングの回転状況を把握する事が可能。)
 
図4.2.11 実船計測結果サマリ
 
 過去5年間の損傷事例の調査より、油膜挙動シミュレーションにおいては、摺動面の温度上昇、油膜の粘度低下あるいはピストンリングの傾斜で生じる局部的面圧上昇を考慮すればよいことが分かった。また、具体的な損傷事例より、不良燃料、荒天及びトルクリッチの条件下における潤滑状態はライナ摺動面温度等をパラメータとしたシミュレーションで、予測出来る可能性が示された。
 
 舶用大型2サイクルディーゼル機関の信頼性向上と運航経費削減の観点から、シリンダ油の最適注油法による注油率低減を目指し、以下の結果を得た。
(1)実船における油膜厚さの計測
 大口径機関を搭載したコンテナ船に計測用のセンサを装備したシリンダライナ2本組み込み、4ヶ月、1500時間にわたり油膜、ライナ温度、リング間圧力等を計測した。この結果を解析した結果、次の成果を得た。
(1)実船計測の結果、0.7g/PShのときの油膜形成状態は、1.2g/PShの時とほぼ同等である事が分かった。このことから、実績のある1.2g/PShと同様に0.7g/PShも実現可能であると考えられる。また、0.7g/PShにおけるシリンダコンディションには問題がなかったという結果は、この結論を裏付けている。
(2)3つの注油方法(従来型、SIP、ALPHA)と油膜厚さの関係において、注油性能に影響する大きな違いは見つからなかった。しかしながら、シリンダ部品の摩耗には潤滑油の中和性が大きな影響を与えていると言われており、注油方法の正確な評価のためには、単に油膜厚さだけではなく、新鮮な潤滑油が保持されている潤滑油と交代する効果を考慮する必要がある。従って、物理的な油膜形成能力とともに、今後化学的な検討が必要になると考えられる。
(3)油膜厚さをシリンダ状態のモニタとして使用することは技術的には可能である。しかし、今回の計測においては、前述のように油膜は比較的安定して確保されていたため、異常時のデータは十分には得られなかった。モニタとしての利用のためには、より多くの実船データもしくは、詳細な実験機関によるデータが必要であり、今後の研究開発に期待したい。
(4)本プロジェクトにおいては、従来困難であったこの種の実船計測を無事完了することができた。これは参加団体の協力によるものであり、今回の試験の経験が今後に生かされ、より多くの成果が得られることを期待したい。
 なお、油膜厚さに関しては、従来の常識と異なる結果もあったが、従来の常識を考え直す機会が与えられたものと考え、今後の技術開発にこの結果を役立てて行きたい。
(2)油膜厚さシミュレーション
 3次元油膜挙動シミュレータを用いて実船条件(回転数、ライナ温度等)での油膜挙動計算を実施した結果、計測された油膜厚さと計算値とが概ね一致することを確認した。この結果より、油膜挙動シミュレーションは実船条件における油膜厚さに着目した潤滑特性予測に適用可能であると考えられる。また、従来注油による1.22g/PShと0.78g/PSh、ALPHA注油の0.7g/PSh、SIP注油の0.7g/PShについて潤滑性能を評価した結果、ALPHA注油とSIP注油の0.7g/PShでは従来注油の1.22g/PShよりもライナの摺動面に掻き残される潤滑寄与分が多くなる(約2倍)ことが分かった。その結果、潤滑油膜が蒸発や燃焼によって破断した場合や潤滑油が劣化した場合でも、ALPHA注油とSIP注油では従来注油よりも同等以上の油膜形成能力と潤滑油の入れ替わり効率を持ち、0.7g/PShでも潤滑性を損なわれないと考えられる。
 
 本研究を通じて、目標である注油率0.7g/PShは実船計測及び計算の両面から実現可能であることを確認した。また油膜形成メカニズムを把握することが出来た。実船計測結果と油膜挙動シミュレーション検討結果より考慮すれば、注油率を更に低減できる可能性があり、実現するためには更に以下の技術的進歩が必要である。
(1)油膜形成面だけに着目すれば、理論上約0.3g/PShレベルまでのポテンシャルを有する。但し、実船のリング・ライナ挙動を考えた場合には、上記油膜形成面に加えて、中和性、清浄分散性の考慮が必要であり、これらを総合的に潤滑性能として成立させる必要がある。
(2)電子制御による注油量調整の可変性向上、並びに低負荷時の燃焼改善。
(3)CPP(Controllable Propeller Pitch)適用による定回転数制御で低回転数域を回避。
(4)荒天時に於いては、燃焼安定性を図る為のポンプラックのリミッタの活用。
 
The Shipbuilding Research Association of Japan







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