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はじめに
 当工業会の行った平成13年から14年度の伊勢湾沿岸域の海事産業に関する種々の調査、伊勢市が組織した、宇治山田港湾整備促進協議会による地域活性化のための提言等を受け、その中の伊勢の古くからの産業である造船業の技術の伝承の必要性という目的を具現化するため、平成15年から16年度にわたって「伊勢地域活性化に資する木造船建造・技術伝承事業」として、伊勢の歴史ある木造船を復元すると共に技術の保存、伝承を目的として、建造工程等を記録保存することとしました。
 
 平成15年度は、木造船の詳細設計まで作成することができ、また建造後の木造船を伊勢市の支援のもとNPO法人など地域の主体的意向により運航するための基本的な枠組みができあがりました。
 
 平成16年度は、この事業の具体的仕上げとしての「復元建造」及び「作業工程の記録」並びに「復元船の実際の運航」をすべて行なうことが出来ました。
 
 このことは、伊勢市が「観光交流空間づくりモデル事業」に選定され、観光客増大を目指し、その取り組みを進めていく中で、その事業に大いに貢献するものと期待されます。
 
 最後になりましたが、平成15年から16年度にかけて、本事業に対し貴重な助言を賜りました本事業実施検討協議会の方々、具体化作業にご尽力頂きました本事業の実施本部の方々、企画段階から種々ご指導頂きました中部運輸局をはじめとする関係機関の方々、とりわけ財政的ご支援を頂きました日本財団及び伊勢市に心からお礼を申し上げます。
 
平成17年3月
社団法人 東海小型船舶工業会
会長 渡邊真男
 
 「平成15年度伊勢地域活性化に資する木造船建造・技術の伝承事業」における報告書に示された設計仕様により伊勢船型木造船の建造は、天保元年(1830年)創業の伊勢地方では、現存する最も歴史のある造船所であり、昭和30年代まで伊勢船型の流れを汲む伊勢団平船(木造貨物船)を建造していた有限会社出口造船所が担当しました。
 
 同造船所は、長尺の建造用材を求め平成16年春には春日谷山麓(宮川村)にわけいり、用材の選定・伐採を行い、敷据え・水押し取付けを同年9月10日に完了進水式は、同年10月25日に行い、翌日の海上公試運転は、最大速力10ノット航海速力8ノットの好成績のうちに終了し、同年11月13日に行った竣工披露を兼ねた試乗会は、乗船者の好評のうちに終える事が出来ました。
 
 なお、古式に則り匠の技を遺憾なく発揮されて見事に伊勢船型木造船を復元され、伊勢市長からもその功績に対し感謝状を贈られた船大工の出口敬次郎氏、丸林勝美氏出口正夫氏および中井正晴氏に深甚なる敬意を表します。
 
 本事業の主要な課題である建造技術の伝承のための伊勢船型木造船建造工程記録については、春日谷山麓での長尺用材の選定・伐採から始まり、敷据え・水押し取付け進水式、海上公試運転及び竣工披露を兼ねた試乗会まで、撮影延べ日数48日を現場に張り付き、延べ撮影時間24時間にもおよんだDVDビデオを1部1時間の3部作に編集しています。
 
 これは、川の駅河崎の展示室にて公開・保存されます。
 
 また、伊勢市の河川流域においては、初めての一般旅客定期航路事業を地元NPO法人が立ち上げることから同事業の申請に当たり、運航管理業務及び運航マニュアル等の構築に努めた結果、勢田川流域の川の駅河崎、川の駅二軒茶屋、海の駅神社及び海の駅大湊を結ぶ一般旅客定期航路事業は、平成16年12月28日に中部運輸局長から許可されました。
 
 これにより、伊勢船型木造船の運航準備は、整い、習熟運転を経て平成17年2月13日(日)午前10時に第1便が就航致しました。
 
 
 本事業は、伊勢市のまちづくり構想の中に、歴史ある木造和船を地域のシンボルとして位置づけ木造船の歴史、建造技術の伝承、建造された木造船の運用方法などの各種の活動を地域づくりに活かしていくことを目的として行われた[平成15年度伊勢地域活性化に資する木造船建造技術伝承事業]において出された報告書(以下「報告書」と云う。)に基づき報告の内容を具現化するものである。
 
 
 実施体制は、報告書に記載の下記体制による。
 
 
平成16年度実施体制
 
 伊勢船型木造船の建造にっいては、報告書において選定された天保元年(1830年)創業の伊勢地方では、現存する最も歴史ある造舶所であり、昭和30年代まで伊勢船型の流れを汲む伊勢団平船(木造貨物船)を建造していた有限会社出口造船所において行われた。
 
 報告書の基本設計構想及び詳細設計[一般配置図(部材材質及び部材寸法記載)、船体線図、中央横断面図、船形寸法表]に基づき、和船の建造技術及び造船用材の特性を活かした仕様とし、伊勢船型木造船の構造様式に則り匠の技を遺憾なく発揮して見事に建造された。
 
 伊勢船型の特長は、戸立の船首を備える棚板構造の船体構造である。
 よって、棚(外板)と敷(船底部材)により船体縦強度を担い船体横強度は、横梁にて担う構造であるが、旅客の便宜のため旅客場所には横梁を設けないので、船体強度面の補完をする為、屋形の柱(6本)を結ぶ屋形柱支部材・敷押え・板子縦受け材・屋根の横梁・屋根の縦梁及び手摺を各々一材にて構成し、且つ、連続性を持たせた固着を行ない、船体と屋形の骨組を一体構造とした。
 この構造仕様の結果、古来の推進装置(櫨)に換えて動力駆動機関(船外機4サイクル 40馬力)を用いたにもかかわらず機関振動による船体の共振は、極めて少い船体と成った。
 
 
 
 一般配置図(部材材質及び部材寸法記載)、船体線図、船形寸法表、中央横断面図及び報告書の記載の復元性に係る図書並びに海上公試運転成績書・船舶検査証書(写)・船舶検査手帳・小型船舶登録事項通知書を整備した。(本報告書4頁〜35頁参照
 
 本報告書36頁に記載された艤装品リスト品目が、備えられている。
 法定備品については、本報告書37頁に記載された備品が備えられている。
 
 本報告書の復元性に係る完成図書に見られる様に船体の運動性能は、安定しており、特に戸立水押構造の船形は波浪航行中のピッチング(船首部の上下動)が一本水押に較べ少ないため、操船及び乗り心地が良い。
 また、船首部の喫水面での面積が大きい為、船首からの乗下船における上下動は、少なく、安全な船と成った。
 なお、前述(2-2)の構造上の補完により、機関による振動の伝播は、些少のため、極めて乗り心地の良い船であるとの評価を試乗者から受けている。
 伊勢船型木造船は、海上公試運転において最大速力10ノット・巡航速力8ノットの成績であり、当初の最大速力8ノット・巡航速力5ノットの予定を大幅に上回った。
 
 建造工程は、本報告書38〜40頁に記録写真と共に記載している。
 
 伊勢の歴史ある木造船の復元に係る建造技術の伝承と保存は、本事業の主要なテーマの一つである事から、報告書に示されたストーリー並びに建造工程に従い、報告書末尾に記載の「NPO法人伊勢河崎まちづくり衆」が、担当して製作し、別冊とした。
 なお、これに係る建造記録ビデオは、テープ(3時間)及びDVD1部1時間の3部作として製作している。
 此等は、春日谷山麓での立木の選定、伐採から始まり乾燥、木割り、敷据え、棚板の焼き曲げ、棚板の敷への取付け等、建造手順及び工作手法を子細に亙り記録しているので、木造船建造技術の伝承に貴重な資料と成った。







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