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対馬における国際旅客航路を活用した国際交流の促進に関する調査 報告書概要
日本海事財団補助事業
I 調査の概要
 対馬は、九州と韓国に挟まれた対馬海峡に位置し、韓国から数十kmと至近にあり、古くから朝鮮半島や中国をはじめとする大陸諸地域とわが国の国際交流において重要な役割を果たしてきた。また、対馬6町は平成16年3月に合併し、新たに「対馬市」が発足したことから、対馬が一体となった地域活性化への取り組みの体制も整いつつある。
 また、九州周辺では、博多港や下関港と釜山港を結ぶ超高速船やフェリーが毎日運航され、海上交通を活用した国際交流を通じて地域の活性化が図られており、韓国・釜山港と対馬の間にも国際旅客航路が開設されている。
 こうしたことから、対馬においては、国際旅客航路の拡充を図り、韓国第二の大都市である釜山をはじめとする韓国との国際交流を促進することで、観光産業や地域産品の製造・販売等の地場産業の振興、外国企業の誘致等による地域の活性化が期待される。
 そこで、本調査は、対馬を対象地域とし、地域の特性を生かした地域活性化に向けて、対馬・韓国双方における国際交流への期待、国際航路網拡充の可能性とその条件等を分析し、国際旅客航路の拡充および国際交流促進の方向とその実現方策を提案することにより、わが国における離島地域等の国際交流を通じた地域活性化の促進や国際旅客航路の拡充による海運関連産業の振興に資することを目的とした。
 
II 国際航路等を活用した国際交流への取組事例(石垣市)
1 地域の概要
 石垣市は八重山列島の主島・石垣島に位置し、台湾の基隆からは約260kmである。沖縄本島をはじめとする日本国内や台湾から開拓移民を受け入れてきた歴史を持ち、27カ国の国籍を有する人々が居住している。特に、台湾との関わりが深く、2000名が帰化している。
 1997年から那覇―宮古(平良)―石垣―台湾(基隆・高雄)の国際航路が運航されているほか、同年からスタークルーズ社により基隆港・石垣港・那覇港を結ぶ外航クルーズ船が週1回寄港を開始した。2003年5月から新型肺炎(SARS)の影響で一時中断していたが、2004年1月に7ヶ月ぶりに石垣港への寄港が再開された。クルーズ船利用客数は、年間2万人〜5万人程度で推移しており、そのほとんどが台湾人である。
 
2 国際観光・国際交流に向けた主な取り組み
 石垣市は1997年に「観光立市宣言」を発表した。かつてより台湾からの来島者が多い地域であるが、これにより、地域特性を活かした観光振興の方向性が明らかとなった。
 また、1987年以降「石垣島ファミリートライアスロン大会」が毎年開催されているが、1996年以降「ITUトライアスロン・ワールドカップ石垣島大会」との同時開催となり、世界12〜38カ国から毎年約100名が参加している。石垣市は、大会誘致にあたり、参加国すべての言語に対応可能な通訳ボランティアの支援体制を構築した。大会開催時期には、島民に加え、島外からも通訳ボランティアを集め、最多で38カ国に対応可能な体制を整えている。選手の言葉の問題にいち早く対応し、すべての参加国の言語に対応可能な通訳体制を構築したことが、以後同島において国際大会が開催され続ける大きな要因となっている。
 
図1 韓国と日本における勤労者世帯あたりの所得の比較
備考 韓国:都市勤労者世帯あたりの月平均所得
(100円=1053.65ウォン換算)
日本:勤労者世帯の月あたりの実収入
資料 韓国統計庁資料および総務省「家計調査」より
UFJ総合研究所作成
 
III 韓国の観光マーケットの分析
1 韓国の所得水準
 2002年における韓国の勤労者世帯あたりの月平均所得は279万ウォン(約26万円)であり、年6・4%の伸び率となっている。日本の勤労者世帯あたりの所得と比較すると、円換算で約7万円の差があるが、近年、その差は急速に縮まっている。
 
2 韓国の観光動向
(1)国内旅行の動向
 韓国人の国内旅行の傾向を把握するため、韓国観光公社が実施したアンケート調査をもとに整理する。なお、アンケート調査の概要は以下のとおりである。
・調査名・・・「Survey on Korean Citizens' Domestic Travel in 2001」
・対象・・・13歳以上の韓国人2000人
・実施期間・・・2002年3月15日〜4月6日(22日間)
 
(1)旅行回数・期間
 2001年の国内旅行回数は、宿泊旅行が年に約1・5回、日帰り旅行が約4・5回で、ともに1999年時点より増加している。1回あたりの宿泊数は1999年、2001年とも2・8泊となっている。
 
表1 韓国国内旅行回数および宿泊数
  宿泊旅行 日帰り旅行
  回数(回) 宿泊数(泊) 回数(回)
2001 1.49 2.80 4.56
1999 1.35 2.84 3.74
資料)韓国観光公社「Survey on Korean Citizens' Domestic Travel in 2001」よりUFJ総合研究所作成
 
表2 韓国国内旅行における1人あたり年間旅行費用
  韓国 (参考)日本
全支出 宿泊旅行 日帰り旅行 宿泊観光・レクリエーション旅行年間消費額 
2001 ウォン 332,540 180,880 151,660 -
円換算 33,302 18,114 15,188 53,500
1999 ウォン 244,750 129,210 115,550 -
円換算 24,510 12,940 11,572 64,700
伸び率 35.9% 40.0% 31.3% -17.3%
備考)100円=998.56ウォン換算
資料)韓国観光公社「Survey on Korean Citizens' Domestic Travel in 2001」及び国土交通省「観光白書」よりUFJ総合研究所作成
 
(2)消費額
 2001年の国内旅行における1人あたりの年間旅行消費額は円換算で約3・3万円となっており、日本人の宿泊旅行年間消費額の6割程度である。減少傾向にある日本とは対照的に、韓国では2年間で35%という高い伸び率を示しており、その差は縮小傾向にある。
 
表3 韓国の渡航目的地別出国者数
(単位:人)
  1997 1998 1999 2000 2001 2002 
アジア 2,854,137 1,915,864 2,808,541 3,326,240 3,891,676 4,721,598 
  日本 1,126,573 822,358 1,053,862 1,100,939 1,169,620 1,266,116
中国 584,487 484,009 820,120 1,033,250 1,297,746 1,722,128
タイ 302,085 166,867 269,700 351,113 446,886 581,514
米州 925,215 499,769 673,481 845,517 813,604 836,790
  アメリカ 806,264 425,330 571,332 719,227 670,456 692,407
ヨーロッパ 374,345 171,236 278,966 369,287 394,645 439,777
  イギリス 87,063 35,228 58,984 74,828 75,891 95,101
ドイツ 66,218 42,977 73,355 89,362 98,602 118,552
フランス 61,972 29,214 47,421 64,685 69,588 78,561
オセアニア 365,232 96,393 167,542 262,330 283,369 356,421
アフリカ 23,230 17,181 21,183 25,260 18,240 20,791
小計 4,542,159 2,700,443 3,949,713 4,828,634 5,401,534 6,375,377
crew - 366,483 391,883 679,608 682,942 748,030
合計 4,542,159 3,066,926 4,341,596 5,508,242 6,084,476 7,123,407
資料)韓国観光公社ホームページよりUFJ総合研究所作成
 
(2)海外旅行の動向
(1)海外旅行者数
 韓国では1982年末まで観光目的の海外旅行は認められていなかったが、その後は段階的に規制緩和措置がとられ、89年には完全に規制が撤廃された。また、2001年からは海外への外貨持ち出しが自由化された。
 韓国人の海外旅行者数は96年まで順調に増加し400万人を越える水準にあったが、通貨危機の影響を受けて98年には約300万人と大幅に減少した。99年には韓国経済の回復とともに400万人以上に回復し、その後は以前よりも増加率が高く、2002年には700万人以上に達している。
 
表4 訪日韓国人数
  1997 1998 1999 2000 2001
訪日韓国人数(人) 1,010,571 724,445 942,674 1,064,390 1,133,971
訪日外国人数(人) 4,218,208 4,106,057 4,437,863 4,757,146 4,771,555
構成比(%) 24.0% 17.6% 21.2% 22.4% 23.8%
伸び率(%) 1.6% -28.3% 30.1% 12.9% 6.5%
資料)(特)国際観光振興会「JNTO国際観光白書2002年版」よりUFJ総合研究所作成
 
表5 訪日韓国人の旅行形態
個人旅行 81.1%
団体旅行 12.0%
研修・インセンティブ 5.7%
不明 1.1%
資料)(特)国際観光振興会「JNTO国際観光白書2002年版」よりUFJ総合研究所作成
 
図2 訪日韓国人の平均滞在日数推移
資料)(特)国際観光振興会「JNTO国際観光白書2002年版」よりUFJ総合研究所作成
 
表6 訪日韓国人の日本滞在中の活動内容
順位 活動内容 回答率(%)
1 日本料理・郷土料理 80.2%
2 買い物 69.8%
3 大都市/都会の生活 29.0%
4 寺社・庭園・歴史名所 27.7%
5 温泉 22.0%
6 小さな町/田舎の生活 20.2%
7 テーマパーク/動物園/水族館など娯楽施設 20.1%
8 ナイトライフ/カラオケ 14.1%
9 異なる生活様式の体験 13.7%
10 景勝・自然 9.0%
資料)(特)国際観光振興会「JNTO国際観光白書2002年版」よりUFJ総合研究所作成
 
(2)渡航先
 2002年における韓国人旅行者の渡航先をみると、中国が最も多く、約170万人である。続いて日本が約130万人、アメリカが約70万人となっている。日本は、2000年まではアジアの中で最多渡航先だったが、近年、中国への渡航の伸び率は高く、2001年には逆転して中国が最多渡航先となった。地域でみると、アジアの占める割合が7割以上となっている。
 
(3)訪日観光の動向
 訪日外国人の中で韓国人は最も多く、2001年は23・8%を占める約110万人となっている。98年は通貨危機の影響で約70万人に減少したが、99年以降は再び増加傾向である。
 目的別にみると、観光客が半数以上となっており、近年やや比率が高まっている。
 訪日韓国人の滞在日数は5日前後で推移している。なお、2001年における訪韓日本人の平均滞在日数は2・9日となっており、訪日韓国人の方が約2倍長く滞在している。
 旅行形態は、個人旅行が8割以上を占めている。
 訪日韓国人の日本での活動内容をみると、料理に対する関心が高く8割を超えている。続いて買い物が約7割となっており、料理と買い物を目的とした観光が中心となっている。
 
IV 対馬における国際交流促進・国際航路網拡充に向けた提言
 本提言は、対馬における国際交流の促進及び国際航路網の拡充、特に日韓交流の中核としての国際観光の推進に向け、その主体となる対馬市、観光関連事業者・交通関連事業者、観光関連団体・商工団体、長崎県、国等に対して、実現方策等を提案するものである。
 
1 対馬における国際交流促進の方向性とその実現方策
 対馬における地理的優位性や歴史的・文化的特性等を踏まえ、対馬においてめざすべき国際交流の方向性とその促進に向けた実現方策を示す。
 
(1)対馬における国際交流の方向性
(1)地域生き残り戦略としての日韓交流の位置づけ
 経済のグローバル化、少子高齢化、地方分権の進展といった社会経済状況の変化の中で、対馬を含むすべての地域が、地域産業、地域社会、地方行政等さまざまな側面で生き残りをかけた地域間競争に直面している。
 対馬は韓国に近接する地理的特性により、古くから朝鮮半島との交流において重要な役割を果たしてきた歴史を持ち、日韓両国を結ぶ「国境の島」として、地理的にも歴史的にも重要な位置を占めている。こうした中で、対馬においては、その希有な立地特性を最大限活用し、日韓交流を地域生き残り戦略の中心に据えて取り組んでいくべきである。
 こうした位置づけのもと、対馬においては、2004年(平成16年)3月の対馬6町合併による対馬市発足を契機として、全島一体となって国際交流に取り組んでいくことが期待される。その際、2003年5月に対馬6町が合同で設置した対馬釜山事務所を、韓国における対馬の国際交流の拠点・窓口として、戦略的に活用していく必要がある。
 また、わが国の対外関係において日韓関係の重要性が一層高まっていることから、対馬はこれを先導する「日韓交流の架け橋」として、新たな法制度面での取り組みを先行的に試行するなど、積極的な役割を果たしていくことも期待される。
 
図3 国際交流促進に向けた実現方策
 
(2)日韓交流の中核としての自然・歴史・文化・ふれあいを活かした国際観光への取り組み
 韓国第二の大都市である釜山との定期航路開設後、韓国から「目に見える外国」である対馬への観光客は急増しており、釜山広域市だけで約4百万人、周辺を含めると約1千万人を有する大市場を対象とした国際観光は、対馬において取り組むべき日韓交流の中でも、その中核を成すものと位置づけられる。また、韓国最大の大都市・ソウルから対馬を訪れる観光客も増加しつつあり、釜山と並ぶ国際観光市場と位置づけうる。このように観光客が増加基調にあることを好機と捉え、さらなる増加につなげていくべきである。
 韓国人観光客を迎えるにあたっては、観光に直接関係する産業だけでなく、地域全体において観光振興に対するコンセンサスを醸成し、島内のどこにいても観光客が温かく迎え入れられるように、観光客の立場に立ってホスピタリティ(もてなし)を向上させていく必要がある。併せて、韓国語による応対や情報提供をはじめ、宿泊施設や飲食店・小売店、島内交通体系、決済システムなどの受け入れ態勢を十分に整備していく必要がある。
 他の観光地に対する差別化を図り、対馬独自の魅力度を高める方向として、まず、現在も高く評価されている豊かな自然を活かし、大都市・釜山やソウルの喧噪を逃れて心身ともにリフレッシュできる「国際観光保養地」「癒しの島」としての位置づけが考えられる。
 また、対馬には歴史上、日韓交流の舞台となった史跡なども豊富にあることから、特に韓国人の視点からみて関心を持ちやすい歴史・文化資源を保全・活用していくことや、日々刻々と変化する現在暮らす人々の生活や文化を観光資源とし、住民と観光客がふれあう機会を積極的に創出していくことも有効と考えられる。
 国際観光の振興にあたっては、「数年後に、対2002年比で倍増の年間2万人」「長期的には、釜山広域市民の約1・2%が年間1回訪問することに相当する年間5万人」といった定量的な集客目標を設定し、その共通認識のもとでどのような取り組みが必要かを検討していくことが有効と考えられる。
 韓国の観光マーケット特性を踏まえた国際観光戦略の方向性として、「週末滞在型観光プランの開発」「自然を体験し味わう島としてのアピール」「高収入観光客の誘致促進」「周辺地域と連携した周遊観光ルートの形成」等が想定される。
 
(3)観光・交流産業としての地域産業の高度化
 対馬では、今後、韓国人観光客を中心とする国際観光振興を図っていくことにより、旅行代理店、ホテル・旅館業、飲食店、小売店、交通サービスといった観光関連産業が、新たな中心産業の1つとして期待される。こうした観光関連産業と、農業、漁業や林業などの一次産業及びこれを活用した地場産業は、一次産品やその加工品の土産物として販売や宿泊・飲食施設での提供、釣り宿の提供や漁業体験、農業体験等を通じて密接な関連を有している。こうしたことから、両者の連携・複合化を進め、「観光・交流産業」として一体的な振興を図っていくことで、地域産業の高度化・高付加価値化を促進する必要がある。
 また、農業・漁業・林業など一次産業やこれを活用した地場産業においては、観光関連産業との連携・複合化による経営基盤の強化を図りつつ、貿易促進、国際共同研究、対内投資促進など多様な国際交流に積極的に取り組んでいくことも期待される。
 
(4)日韓交流を担う人材の育成
 対馬において国際交流を通じた地域の活性化を図るとともに、対馬が文字どおり「日韓交流の架け橋」となるためには、日韓交流に貢献した江戸時代の儒学者・雨森芳洲の外交精神を学ぶ「新・芳洲外交塾」や2003年度に始まった離島留学制度等の取り組みを今後も積極的に推進し、日韓交流を担う人材育成の場としての役割を強化していく必要がある。







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