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4. 交通バリアフリー化の実現に向けた課題
 最後に、北部九州の離島における交通バリアフリー化の実現に向けた課題を整理する。
 
(1)関係主体の連携体制の構築
 交通バリアフリー化への取り組みは、一連の移動経路が継ぎ目なくバリアフリー化されることによって本来の効果を発揮する。また、交通バリアフリー化にあたっては、高齢者・障害者等の利用者のニーズを適切に反映させていく必要がある。
 このため、地域や航路の実情に応じて、離島航路事業者、バス事業者、関係行政機関(県、市町村等の各関係部局)、高齢者・障害者関係団体(社会福祉協議会、身体障害者関係団体、高齢者関係団体、ボランティア団体等)等が緊密な連携を図れる体制を構築することが求められる。こうした連携体制の中で、船舶の代替やターミナルビル整備等の時期に合わせて、また、その後も継続的なフォローアップを行いながら、船舶・港湾・交通アクセス・周辺の街づくりを含む一連の移動経路全体のバリアフリー化のあり方を検討・調整していくことが期待される。
 また、各市町村には、交通バリアフリー化を所管する部局が決められていないところもあるが、所管部局を設けることで市町村における推進体制が強化されるとともに、利用者等からみても窓口が明確化となり、意見等を反映させやすくなる効果が期待できる。交通バリアフリー化の所管部局がある場合、福祉部局が所管することが多いが、一方で交通部局ではバス路線維持対策等を行っていることも多いことから、両者が連携して効率的・効果的な取り組みを行っていくことが求められる。
 
(2)公的支援制度の活用・拡充
 交通バリアフリー化は第一義的に高齢者・障害者等の移動の円滑化という社会的な要請に基づくものであり、離島航路事業者は、離島の人口減少に伴う需要の低迷等により厳しい経営環境にあることや、交通バリアフリー化への取り組みは、需要拡大により増収につながる面もあるが、それ以上に多大な費用負担が必要であることなどから、国・地方自治体等が適切な費用負担を行うべきである。
 現在の国による船舶建造費への補助制度は、国庫補助航路のみが対象となっており、その他の航路については交通エコロジー・モビリティ財団による助成が行われているが、国による補助対象の生活航路全般への拡大が期待される。また、補助対象となる施設・設備は、バリアフリー化対応施設に限られ、交通バリアフリー化への対応により船型自体が大きくなることによる建造費の増加分は補助対象でないことから、事業者の負担も大きい。こうしたことから、補助対象施設の拡大も望まれる。
 国における補助財源の確保にあたっては、交通バリアフリー化が交通政策でもあると同時に福祉政策でもあることを踏まえ、多角的・横断的な観点から財源確保に努めることが期待される。例えば、障害者の雇用の促進等に関する法律に基づき、障害者を一定比率以上雇用していない企業から徴収する「障害者雇用納付金」による財源の一部を交通バリアフリー化に充てることなどが考えられる。
 一方、離島航路事業者においては、公的支援制度を最大限に活用しつつ、積極的に交通バリアフリー化に取り組んでいくことが期待される。
 
表 交通バリアフリー化に関する公的補助・融資等
制度名等 概要 実施主体 補助率等
離島航路船舶近代化建造費補助金(近代化バリアフリー化船建造費補助金) 離島航路整備法に基づく国庫補助対象航路で使用する船舶の近代化及びバリアフリー化を図るために船舶の代替建造を行う事業 国土交通省 バリアフリー化に係る工事費の50%
上記を除いた船価の10%
交通バリアフリー施設整備助成制度 旅客船ターミナルや旅客船などにおける車いす対応エレベーター等交通施設の設置に対する助成事業 交通エコロジー・モビリティ財団 助成対象経費の30〜50%以内
共有旅客船のバリアフリー化施設にかかる支援 鉄道建設・運輸施設整備支援機構と共有建造する船舶のうち、バリアフリー対応の船舶に対する補助事業 鉄道建設・運輸施設整備支援機構 バリアフリー化のための追加的な建造費のうち事業団持分相当額に係る利息相当額を軽減
旅客船ターミナルの一体的なバリアフリー化事業 バリアフリー化に資する浮桟橋等の係留施設や、通路・照明・スロープ・手すり等に対する補助事業 国土交通省 (一般の港湾整備に準じる)
港湾利用高度化拠点施設緊急整備事業費補助金制度 民活法特定施設を整備する場合、高齢者・障害者に配慮した施設に対して補助率をかさ上げする制度 国土交通省 国と港湾管理者で7.5%
港湾の機能の高度化に資する中核的施設整備事業に関する融資制度 民間事業者(第3セクターを含む)が行う旅客船ターミナル施設等のバリアフリー施設整備事業に対する融資制度 日本政策投資銀行 金利・政策金利III、融資比率50%
資料)国土交通省ほか各実施主体ホームページよりUFJ総合研究所作成
 
(3)法制度の整備と技術開発の促進
 バリアフリー化への対応に伴い、実質的な同型船であっても換算トン数の増加により建造費をはじめとする各種コストが割高となる可能性があることから、交通バリアフリー化を促進する法制度の実現に向けて、国において必要な見直しを行うことが期待される。
 また、交通バリアフリー法の施行から間もないことから、バリアフリー化に対応した船舶の建造実績が全国的に少なく、船種・船型に即して低コストでバリアフリー化が実現できるような仕様の標準化や新技術の開発が期待される。
 港湾についても、波浪やうねり等に強いボーディングブリッジや全天候型港湾施設、干満差に対応しやすい港湾施設などの技術開発が期待される。
 
1. 調査の背景と目的
 平成12年5月に「交通バリアフリー法」が成立し、高齢者や障害者を含む誰もが利用しやすい交通体系の実現に向けて、交通バリアフリー化の促進が広く求められている。九州は多数の離島を擁しているが、離島においては他の代替交通機関が存在しないことから、離島航路のバリアフリー化が重要な課題である。
 九州の離島は、その数が多いだけでなく、島の規模、本土からの距離、数(単独か群島か)、海域の特性(内海か外海か)、社会経済特性(人口構成、医療・福祉・商業等生活上不可欠な諸機能の島内への立地状況および島外への依存状況等)などが多様であるため、各離島の特性に応じた交通バリアフリー化の推進が必要である。
 交通バリアフリー化の推進にあたっては、まず、(1)現にどのようなバリアが存在しているのかを的確に把握すること、また、(2)そうした現状に対して高齢者や障害者などの利用者は何をバリアと感じ、どう改善してほしいのかといったニーズを具体的に捉えることが必要である。
 一点目に関して、大都市圏の駅などについては交通エコロジー・モビリティ財団の「らくらくおでかけネット」をはじめ、交通バリアフリー化の現状把握と情報提供が進んでいるのに対し、離島航路の船舶・港湾については、安全性の確保やスペース上の問題のため、他の交通機関と比較してバリアが多く存在するにもかかわらず、現状把握が十分に行われていない。交通バリアフリー化は、出発地から目的地までの一連の移動経路において、利用者からみてシームレスな(=継ぎ目のない)バリアフリー化が実現していることが重要であることから、離島航路の現状把握にあたっては、離島航路自体に加え、離島内や本土側のバス・タクシー・鉄道など両端の交通機関も含めて捉える必要がある。
 また、二点目の利用者ニーズの把握に関して、1島の人口が数十人の離島もあり、市町村や交通事業者(離島航路事業者およびバス・タクシー・鉄道等の事業者)も一般に小規模であることから、全国的な交通バリアフリー化の状況も踏まえた専門的なニーズ調査を、各市町村や交通事業者が個別に実施することは難しい。こうした小規模な市町村や離島ほど、人口の高齢化が進展していること、また、一般に、小規模な離島に就航する小型船舶ほど、バリアフリー化への制約が一層厳しい状況にあることから、交通バリアフリー化へのニーズを把握する必要性が高い。利用者ニーズの把握にあたっては、問題点や改善意向をより具体的に把握するため、買い物、通院、通所、通学といった外出目的ごとに、移動の実態に即した調査を行う必要がある。
 こうしたことから、本調査は、離島住民の視点に立ったシームレスな交通バリアフリー化の実現に向けて、(1)離島航路とその両端の交通機関におけるバリアフリー化の現状を的確に把握するための地方自治体・交通事業者へのアンケート調査、(2)交通バリアフリー化に対するニーズを具体的に把握するための離島住民に対するアンケート調査、を実施し、その結果を関係自治体や交通事業者に提供するとともに、離島の類型別にシームレスな交通バリアフリー化の推進方策を提言することにより、利用者ニーズを踏まえた交通バリアフリー化の推進と、住民福祉の向上、地域の活性化に資するものである。
 本調査は九州全域を対象地域とし、2か年調査として行う。平成15年度は南九州を対象とし、鹿児島県をモデルケースとして実施した。これを踏まえ、平成16年度は北部九州を対象とし、具体的には対馬地区、壱岐地区及び福岡県内の離島(筑前諸島)を対象地域として実施する。
 
【平成16年度調査】







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