日本財団 図書館


(6)複数のレーダー波を同時に受信した場合の解析
 遅延合成方式の新マイクロ波標識は、その原理で述べたようにいわゆる反射板的作用に類似した振る舞いをする。すなわち、複数のレーダー波を同時に受信した場合は、そのいずれの電波に対しても識別符号を生成して全方位に送信する。従って、このような状況における他のレーダーに対する影響は、レーダー同士の干渉と類似の影響と見なすことができる。このことから、複数のレーダー波に同時に応答した場合の、いわゆる干渉は、レーダー同士が互いに完全に同期したシステムとして動作していない限りは、その干渉除去機能によって除去ないしは抑圧が可能であると考えられる。
 次に、遅延合成処理そのものが、複数の異なる変調方式のレーダー波が入力された場合に、それぞれのレーダーに対して応答符号が生成可能かを検討した。特に新しいレーダー方式として考えられるパルス圧縮方式やFM-CW方式は、送信パルス波形が長い、あるいは連続波であるため複数の信号が入力される状況が発生する可能性は高く、これらの信号に対してそれぞれ応答符号が生成出来るかが問題となる。
 従来の単一パルス波、パルス圧縮波、FM-CW波の複数波形が入力された場合の計算結果を図3-59に示す。入力波は同図(a)のように3種類のレーダー方式の送信波が合成されたものとなっている。但し、それぞれの信号タイミングの中心はずれている。この時の各レーダーにおける符号の復調波形が(b)〜(d)である。この結果から、信号タイミング中心が完全に一致していない場合には、他のレーダー波が重畳していても各レーダーで符号が再生可能であることが示された。
 各レーダー方式のタイミング中心が完全に一致した場合の計算結果を図3-60に示す。入力波(a)であり、各信号のタイミング中心が完全に一致していることを表す。この時の各レーダーにおける復調波形が(b)〜(d)である。この結果より、完全にタイミングが一致した場合は、どのレーダーにおいても符号を再生できていない。
 以上の結果より、複数のレーダーの合成波が入力された場合のうち、タイミング中心が一致した場合においては符号を再生できないが、タイミングがずれれば符号が再生できることが明らかになった。実際の運用においては、各レーダーが完全に同期していることは考えられず、まず波形が合成されない状況があり、次に図3-59のような状況が発生し、ある時点で図3-60の状態に至り、さらに図3-59の状態、波形が合成されない状態へと推移してゆくものと考えられる。このことは、レーダー同士の干渉と類似な現象であり、レーダーの持つ干渉除去機能によって十分除去、ないしは抑圧可能である。
 なお、さらに干渉の頻度を低下させる技術として、応答する方位を限定する方法も考えられる。従来のビーコンは、一般的に水平面内無指向性のアンテナを使用しているため、全方位に対して応答してしまう。そこで、新マイクロ波標識では指向性を持たせたアンテナを複数配置し、図3-61(a)のように、概ねレーダーの方位のみに対して応答をさせることで、干渉頻度を低下させることが可能である。さらにこれを発展させ、より厳密にレーダーの方位のみに限定して応答をさせるには、図3-61(b)に示すようにアンテナを含む複数の新マイクロ波標識をバンアッタアレーの原理に基づいて動作させ、入射方向のみに電波を返送するレトロディレクティブ方式とすることも有効であると考えられる。
 
図3-59 異なる方式のレーダー波を受信した場合の応答
(a)入力波形(信号タイミングは、ずれている)
 
(b)パルスレーダーによる復調波形
 
(c)パルス圧縮レーダーによる復調波形
 
(d)FM-CWレーダーによる復調波形







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION