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(5)信号レベルと応答距離
 遅延合成方式における、システム内の信号レベルについて検討する。検討の前提として、以下を仮定した。
ア)レーダーの送信電力
・パルス方式 10[kW]
・パルス圧縮方式 10〜100[W]
・FM-CW方式 1〜10[W]
イ)レーダーとマイクロ波標識の距離
 従来の地上設置型ビーコンの最大応答距離は9NMである。近接した場合については特に規程されていないが「送信応答遅れ<90m」の仕様からこれを最小応答距離と仮定した。
ウ)新マイクロ波標識のシステム利得
 従来のビーコンが、受信感度-40dBm、送信出力+26dBであることから、これとの等価性を考え、新マイクロ波標識のシステム利得を66dBと仮定した。
エ)レーダーの最小受信感度
 送信電力との兼ね合いから、以下と仮定した。
・パルス方式 -90[dBm]
・パルス圧縮方式 -120〜-110[dBm]
・FM-CW方式 -130〜-120[dBm]
 次に、レーダーパルス幅が長い場合の信号重畳量について検討した。前述の様に、応答符号の持つ周波数成分は約1.6MHzの帯域であり、この帯域内に受信信号が存在する時間は積算されることになる。また、単位遅延時間については、ここではレーダーの距離分解能以下であると仮定し、0.1μsとした。従って、レーダー送信信号の周波数成分が、1.6MHzの帯域を維持している時間を0.1μsで割った値が応答信号重畳量となる。今、応答符号を「K」とすると、3μs長線、1μs短点、3μs長線の合計で、7μsとなり、これを0.1μsで割った、最大70個分の重畳が考えられる事になる。このことから、各レーダー方式に対する応答信号重畳量を以下のように定めた。
1)パルス方式
送信パルス幅:0.1〜1.0[μs]
単一周波数のであるため、1.6MHz内に存在しうる時間は0.1〜1.0μs
→重畳量:1〜10
2)パルス圧縮方式
送信パルス幅:10〜100[μs]
圧縮後パルス幅:0.1〜1.0[μs]
変調周波数:1.0〜10.0[MHz]
掃引速度を0.1〜1.0MHz/secとして、1.6MHz内に存在しうる時間は1.6〜16μs
→重畳量:16〜70(符号上、70が最大)
3)FM-CW方式
掃引周期:1.0[ms]
変調周波数:10〜50.0[MHz]
掃引速度が10〜50kHz/secのため、1.6MHz内に存在しうる時間は32〜160μs
→重畳量:70(符号上、70が最大)
 また、その他のパラメータとして、以下を仮定した。
・諸損失 降雨減衰量:1[dB]
  送受信機損失:6.5[dB]
・アンテナ利得(レーダー):30[dB]
     (新マイクロ波標識):8[dB]
・応答符号:「K」(−・−)
・レーダー送信周波数:9400MHz
 
 次に、新マイクロ波標識システム内のレベル設定について、図3-54のように仮定した。これは、現在技術的に利用可能であると考えられる能動素子の能力等に基づき、実現性を勘案して設定したものである。
 
図3-54 新マイクロ波標識システム内のレベル設定
(拡大画面:54KB)
 
 以上の仮定の下に、次式により新マイクロ波標識からの応答信号の強度を計算した。
 
 
 
 従来の周波数アジャイル型ビーコンの信号をレーダーで受信した場合の特性を図3-55に示す。同図には、比較のため100m2及び10m2の目標から得られる信号レベルも示してある。これより、規定の9NMにおいて概ね100m2の目標と同程度の強さでビーコン信号が受信される。また、同ビーコンはレーダー波の強さによらす送信出力は400mW一定であるため、距離の自乗分の1(1/R2)でレベルが変化し、近距離では幾分目標からの信号よりも弱く観測される。
 遅延合成方式による従来の単一パルスレーダーに対する応答特性を図3-56に示す。この場合、回路上の各部分で生じる飽和等に伴い、従来ビーコンより弱い信号となる。
 遅延合成方式によるパルス圧縮レーダーに対する応答特性を図3-57に示す。特にパルス幅が100μsの場合には遅延合成による信号レベルの重畳効果により100m2の目標を超えるレベルでビーコン信号が受信され、従来のビーコンと等価か、それ以上の認識性が期待できる。また、パルス幅10μsの場合には前記ほどの重畳効果がないため幾分信号が弱くなるが、それでも10m2の目標を超えるレベルで受信が可能である。なお同図において、ビーコン信号強度に折れ曲がり点が存在するが、これはシステムのいずれかの部分で信号飽和が生じている事を表している。信号の飽和は、特に遅延合成後の波形に対して発生すると位相情報の欠落を生じ、応答符号に影響を与える可能性があり好ましくないが、レーダーの出力が10Wの同図(a)の場合は約0.05NM、出力100Wの(b)の場合も約0.15NMと極近距離で発生しているため、実用上の影響は大きくないと考えられる。
 遅延合成方式によるFM-CWレーダーに対する応答特性を図3-58に示す。この場合はCW波が信号重畳効果をもたらすため、いずれの距離でも100m2の目標を超えるレベルで新マイクロ波標識の信号が認識できる。さらにFM-CWレーダーは送信出力が低いため、信号飽和も極めて近距離を除き発生しない。







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