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第3章 新マイクロ波標識の設計
 新方式のレーダーに対応可能な新しいマイクロ波標識の設計について検討を行った結果を以下に示す。
 
 どのようなレーダー方式にも対応できる可能性のある新マイクロ波標識として、その動作原理が反射板的作用のものが考えられ、図3-1にその概念を示す。単純な反射板であれば、入力されるレーダー波がどのようなものであっても、同じ波形を打ち返すことができる。等価回路的には、アンテナで受信されたレーダー波をそのまま送信アンテナで送り返す系統となる。
 この系統に遅延素子を持たせれば、その遅延分だけ遠くの距離にある物標として認識される。このことを利用して、図3-2のように遅延素子を複数組み合わせると符号状の波形が発生できる可能性がある。
 
図3-1 反射板的作用の概念図
 
図3-2 遅延の組合せと符号生成の概念図
 
 1つのパルス入力に対して符号「K」(−・−)を生成する場合の遅延合成の例を図3-3に示す。構成は、入力パルスに応じた遅延線(単位遅延ブロック)を複数組み合わせたものとしている。同図では、入力に0.5μsの単純パルスを仮定し、出力は長線3μs、短点1μs、長線3μsの符号「K」となっている。
 遅延を実現する方式としては、アナログ的な遅延素子を用いる方法と、デジタル的な処理によって行う方法がある。アナログ遅延素子としては、電気信号を音響波に変換して遅延させ、さらにそれを電気信号に変換しなおす方式のバルクアコースティック素子が代表的な例である。また、デジタル処理方式としては、近年著しい発達をみせているFPGA(Field programmable gate array)やDSP(digital signal processor)を使用した方式が一般的となりつつある。
 これらアナログ方式とデジタル方式の比較を表3-1に示す。アナログ方式は高い周波数が扱えるため、直接レーダー周波数そのものを処理可能で、帯域も広くレーダー周波数帯全てをカバーできる。しかしながら、素子が非常に高価であり、符号生成のためにこの遅延素子を多数使用することは現実的でない。また、挿入損失が大きく、複数の遅延素子を組み合わせて使用することは技術的にも可能性が低い。一方、デジタル方式はレーダー周波数帯での処理は不可能であるため、レーダー信号を中間周波数帯等に変換しなければならない欠点はあるが、回路規模も小さく、また符号変更等もハードウェアを変更することなくFPGAプログラムの書き換えのみで容易に行える利点を有している。しかしながら、帯域が狭くレーダー周波数帯全てをカバーすることは現状では難しく、この点をシステム的に解決する工夫が必要である。
 
図3-3 符号「K」を生成する遅延ブロックの概念図
 
表3-1 アナログ遅延方式とデジタル遅延方式の比較
  アナログ方式 デジタル方式
遅延方式 バルクアコースティック素子 FPGA等による演算
処理周波数帯 高周波帯 中間周波帯
帯域 広い(数百MHz程度) 狭い(数十MHz程度)
回路規模
・多数の遅延素子
・複雑な高周波電力分配器
小(基板1枚程度)
挿入損失 大(数十dB) 小(理論上は損失なし)
回路の自由度 無し 有り(プログラムを書換え可能)
価格 高価 やや高価
(低価格化の可能性あり)
 
 遅延合成方式の新マイクロ波標識を、デジタル回路によって実現する場合の基本設計について、システムの構成及び数式的検討について述べる。
 
 システムの構成を図3-4に示す。
 アンテナで受信したレーダー波をLNA(ローノイズアンプ)で増幅し、これをミキサによってローカル発振器(LO)の信号と混合して、中間周波等に変換する。この信号をA/D変換器でデジタル信号に変換し、FPGA等の演算で遅延及び合成処理を行い、所望の符号を生成する。生成された信号をD/A変換器で再びアナログの中間周波信号に変換し、ローカル信号によってレーダー周波数帯に戻す。これをパワーアンプ(PA)によって所要の出力電力まで増幅し、アンテナから送信してレーダーに応答波として打ち返す。
 なお、現状ではA/D、D/A変換器、FPGA等のデバイス性能の制約から、前述のようにレーダー帯域全てをカバーすることができないため、ローカル発振器の周波数を従来の低速掃引型レーダービーコンのようにゆっくり掃引させることで、その性能を満足させる必要がある。但しその場合も、ローカル発振器が周波数を掃引しているのみであり、不要な周波数を送信し続けているわけではない事が、従来の低速掃引型レーダービーコンと異なる点である。
 
図3-4 遅延合成方式レーダービーコンのブロック図







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