日本財団 図書館


はじめに
 この報告書は、当協会が日本財団から事業の助成金を受けて、平成15年4月から平成17年3月にかけて実施した「新マイクロ波標識の開発に関する調査研究」の成果をとりまとめたものである。
 調査を進めるに当たって、委員及び関係官庁関係官各位に多くの貴重なご意見、ご指導、資料等をいただき、また、毎回の長時間に亘る委員会・作業部会において活発なご審議をいただいた。
 ここに、ご協力を賜った関係各位にこの紙面をお借りして厚く御礼申し上げる次第である。
 
平成17年3月
財団法人 日本航路標識協会
 
 近年、レーダーや通信機などの電波機器の普及に伴い電波干渉問題が重要となり国際的に従来より厳しい規制が制定されつつある。レーダーが発射する不要電波発射(スプリアス)については他の無線機器への妨害が大きいとして、世界無線通信会議WRC-97とWRC-03において、スプリアスレベルを従来の100分の1以下に低減すること、及び規制する周波数範囲を大幅に拡大することなどの厳しい国際規格が決定された。特にマグネトロンを使用する現在の船舶用レーダーは大きいスプリアスを発生するのでフイルターを挿入するなどの対策を講じているが、ITU勧告SM1541, Annex8で2006年までの研究課題としてレーダーにより厳しい設計目標を要求している。マグネトロンレーダーはこのITUの規制値には適合が困難と予想されている。
 このため関係国でスプリアスが少ない半導体を用いた新しい船舶用レーダーの開発が検討されており、船舶用レーダーの大きな世界市場を確保しているわが国にとって重要な問題となっている。
 一方、船舶用レーダーに応答するマイクロ波標識局は船舶の航行安全に大きな貢献をしているが従来の単一パルス方式の船舶用レーダーにしか対応できない規格になっているので、今後の新しい船舶用レーダーにも利用できる新マイクロ波標識の開発が必要となってきた。
 新しい船舶用レーダーとしては、FM-CWレーダー、FMチャープレーダー、符号化パルスレーダーなどが検討されているがまだ最終的な規格は決定されていないので、現用の単一パルスレーダーも含めてどのような方式のレーダーにも対応できる新マイクロ波標識局の実現が課題となった。
 
 本委員会ではこのような要件を満足できるものとして、「遅延合成レーダービーコン」を提案し、主としてこの方式について委員及び関係者により調査検討を進めた結果、新しい船舶用レーダーに適合できる基本的な可能性を確認する成果が得られた。
 本報告書では、これらの調査検討結果について、以下の構成にて詳細なまとめを行った。
 第1章には、概要として、本調査研究の目的、調査研究項目、委員会の設置、開催状況及びスケジュール等についてまとめている。
 第2章には、本調査研究の前提となる、レーダーに関する法規制並びにこれに関連する新方式レーダーの動向、現有マイクロ波標識の概要及びこれらに鑑みた新マイクロ波標識の開発要件を記述した。
 第3章では、どのようなレーダー方式にも対応できる可能性があるマイクロ波標識のひとつとして、昨年度からの調査研究において検討が開始された遅延合成方式の新マイクロ波標識の設計について記述した。すなわち、遅延合成方式の原理と基本設計並びに技術的課題とそれらに対応するための詳細設計について、計算シミュレーションによる検証も含めて細かく述べるとともに、理論並びに計算シミュレーション結果を実験によって検証するための、試作設計についても触れている。
 第4章では、上記の設計に基づいて試作を行った新マイクロ波標識について、その概要並びに基本特性の検証結果をまとめている。
 第5章では、試作物による評価実験を行い、理論並びに計算シミュレーションの妥当性を検証した結果についてまとめた。
 第6章のまとめでは、本調査研究で得られた成果と今後の取組みについて記した。
 今後、本方式のビーコンを新マイクロ波標識として実用化する際の取組みについては、
1. 海上実験での性能確認と実用上の問題点の考察。
2. 不要な方位への信号の輻射を防止し、また、多くのレーダーからの呼びかけ信号に適切に応答できるシステムの構築(レトロディレクティブ特性の付与等の検討)。
3. 送受信のアンテナが極めて近傍にある状況においても安定に動作する方式の検討。
4. 関連する事項として、新方式のSARTの設計。
 (新方式SARTの出現が今後の新しいレーダーにも大きく関連する部分がある。)等を実施しつつ、これからの新方式レーダーの動向も注視しながら対応して行く必要がある。
 終わりに、本調査研究にあたりご指導いただいた関係官庁各位及びご協力いただいた委員各位にお礼申し上げるとともに、日本財団からの助成事業によりこの調査研究が行われて報告書に記載された成果が得られたことに感謝申し上げる次第である。
 
平成17年3月
新マイクロ波標識の開発に関する調査研究委員会
委員長 鈴木務
 
 現在、船舶で使用しているレーダーについては、国際電気通信連合(ITU: International Telecommunication Union)等の国際機関において、新しい情報通信システムの急速な進展普及に伴う電波干渉問題の重要性に鑑み、レーダー電波の不要輻射を規制する動きが高まっており、レーダー装置の性能基準について極めて厳しい規格が検討されている。
 これによると不要輻射防止対策を施した、大規模なレーダー装置が搭載できない小型船舶においては、現状の発振素子であるマグネトロンが使用できなくなるため、新しい方式のレーダー装置が検討されている。
 新しい方式のレーダー装置に対しては、電波を使った航路標識のうち、障害物を明示するために設置されているマイクロ波標識(レーダービーコン)は機能しなくなり、船舶の航行安全上極めて重大な問題である。
 我が国の漁船数は約21万隻、プレジャー船は約35万隻あり、レーダーの装備状況調査は漁船の約19%、プレジャー船の約9%が設置している。これらの船舶が新しい方式のレーダー装置に変更した場合は、現在、障害物を明示しているマイクロ波標識を利用できなくなり、標識への衝突や岩場への乗り上げ等の海難発生の蓋然性が高まることとなる。
 このため、平成15年度、16年度の継続事業として調査研究を行ったものである。
 
 本委員会での年度別の主な調査研究項目は次のとおりである。
1.2.1 平成15年度
(1)新方式レーダーの技術動向調査(国内及び海外)
(2)我が国の既存マイクロ波標識の状況調査
(3)我が国における船舶のレーダー装備状況調査
(4)新マイクロ波標識の開発要件の検討
1.2.2 平成16年度
(1)システムの基本設計
(2)システムの詳細設計
(3)シミュレーションによるシステムの検証
(4)試作評価
 
 本調査研究のスケジュールは次のとおりである。
1.3.1 平成15年度の調査研究スケジュール
 
 
1.3.2 平成16年度の調査研究スケジュール
 







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION