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1993/03/27 毎日新聞夕刊
[Mジャーナル]「自転車」は「馬」を追い越せるか 競輪キャンペーン快走中
 
 「エクボが魅力的」と若者から中年層まで人気がある女優、中村あずささんを起用した「競輪」のキャンペーン広告が、昨年末から今春にかけて、不況風を切って快走しています。競馬が、ここ数年、ブームを巻き起こし若い女性のハートをつかんだのに比べると、競輪は「ギャンブル以外のなにものでもない」というイメージが根強いらしく、これをなんとか変えようという業界挙げての大作戦。「自転車の逆襲なるか?」。特別報道部の井上朗がさぐってみました。
 競馬場で女性ファンが劇的に増え始めたのは賀来千香子、柳葉敏郎コンビのCF(一九九〇年一月―九一年十二月)がヒットしたころから。一方、ある調査で「競輪ファンの平均年齢は四十九歳」という結果に衝撃を受けた日本自転車振興会(日自振)は「暗いイメージを一掃、ヤングファン層を取り込める人を」と初めてタレント広告のキャンペーンを決め、中村さんに白羽の矢が立ちました。
 昨年末の「KEIRINグランプリ」と今月の「日本選手権」の宣伝費を倍増、中村さんが実戦並みの強風実験に耐える「風圧編」などのイメージ広告を新聞、テレビなどで展開して、グランプリ売り上げは1レース七十九億円の新記録。今月開催の日本選手権競輪(十九日―二十四日)も前半三日間で二百十七億八千万円と過去最高だった昨年同期間(二百七億四千万円)を軽く上回りました。
 競輪は「戦災都市復興」の考えから一九四八(昭和二十三)年に小倉(福岡)、住之江(大阪)で始まり、戦後の混乱期に母体ができました。現在、近畿自転車競技会の福井、大津、向日町(京都府)、奈良、岸和田、和歌山、甲子園、西宮など全国五十カ所の競輪場があり、通産省の監督下で二百五十五の自治体が施行者になってレースを開催しています。
 公営ギャンブル(競輪、中央・地方競馬、競艇、オートレース)の売り上げ比較では、七九年度に中央競馬に抜かれ三位に転落後、全体のシェアもしだいに低下、今年度(二月末現在)は不況のあおりもあって前年比九六・一%の一兆七千億円と伸び悩んでいます。
 宣伝先行で実態が伴わなくては大変、と各競輪場は「女性入門教室」を開いて車券の買い方を解説したり、岸和田競輪では今年、「女性専用席」(百二十席)を設けるなど施設の改善も急いでいるようです。
 待ち合わせの若者でにぎわう阪急梅田ビッグマン(大画面ビジョン)前では、今月、阪急電鉄が西宮競輪のレースを生中継、二十歳そこそこのギャルたちの歓声が沸く“新銀輪現象”がみられます。競輪人気は競馬ブームに追いつき、追い越せるでしょうか。
 佐藤米治・日自振宣伝企画課長は「キャンペーンは競輪業界として初めてで、まだ施設改善が十分進んでないのも事実。将来に向け若い世代に人気を得るには今後、息の長い取り組みが必要と思っています」とゴールをかなり先に見ているようでした。
 
 
 
 
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