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2002/11/23 朝日新聞朝刊
「ラスベガス」列島誕生するの? カジノに夢(beReport)
日本のあちこちで「ラスベガス構想」が噴き出ている。カジノを不況脱出や地域振興の起爆剤に、というものだ。まだ非合法だが、推進論者は「30兆円市場だ」「30万人の雇用創出だ」と勢い込む。ただ、地方では最も熱心に取り組んでいるとされるカジノ構想の現地の様子や、米国の本場でカジノを経営する人の体験を見聞きすると、そう簡単な話でもなさそうだ。
(森治文)
カジノ付きの1千室規模の大型ホテルを中心にショッピング街、映画館、クアハウスなど娯楽地区ができ、年2330億円の売り上げ、約2千人の雇用増・・・。
能登半島の最先端、石川県珠洲市で10月、こんな「ラスベガス構想」がまとまった。
金沢市内から車で3時間余の農・漁業の街で、人口約2万人。市中心部はシャッターが降りたままの店が目立ち、人影もまばらで、パチンコ店もない。かつて観光船が行き交った港も静かだ。最大の宿泊施設は第3セクター運営の35室のホテルだが、海水浴シーズン以外は閑古鳥が鳴く。
市の中心から約30キロの場所に来夏開港予定の能登空港もまだ、1日1往復の東京便就航が決まっているだけだ。
そんな現状と対照的な、威勢の良い構想を出したのは、商工業者らで00年5月に結成した「珠洲にラスベガスを創る(つくる)研究会」だ。
その運営専務で、燃料販売会社社長の安用寺伯文(あんようじはくぶん)さん(37)はカジノに熱い思いを託す。
「町おこしの定番といえば伝統文化や自然を生かそうというもの。だが、それらは頼りにはならない。他の娯楽もそろった『ラスベガス』ができれば、家族で楽しめる」
新空港による観光客増も当て込み、韓国のカジノの実績をもとに独自にはじき出した構想全体の売上高予測は、約18億円の同市の税収規模からすればケタはずれ。同県内の金沢競馬場の年間売り上げの10倍をはるかに超える。
同研究会は今月29日、カジノの雰囲気を味わってもらう「模擬カジノ」を市内のレストランで催す。「カジノで町おこし」の機運を高めようというものだ。
だが、周囲は冷めている。東京都が10月に開いた同様の催しに、スロットマシンを貸し出した大手ゲーム機会社は、珠洲の研究会からの協力要請をやんわりと断った。
市もいまのところ構想にかかわっていない。職員の一人は「カジノが解禁されても、採算がとれなければ民間企業は来ない。ここは、バブル時代も投資がほとんどなかった過疎の町なのに」と話す。
○「本場をわかってへん」
「なんや、石原さんもカジノのこと、よくわかってへんのやなあ」
米ネバダ州ラスベガスの現役カジノ経営者で唯一の日本人という泉祐彰(すけあき)さん(65)は11月初め、東京都の石原慎太郎知事の発言に少々がっかりした。カジノ構想に最も熱意をみせる自治体の首長が「ラスベガスはマフィアに仕切らせてる。日本はそうはさせない」とテレビ番組で語っていたからだ。
大阪市で不動産会社を経営し、関西でビジネスホテル数軒を運営する。90年にカジノ経営の無期限ライセンスを取得したが、申請から約2年、1億円近い費用がかかった。州の委員会に、暴力団や犯罪者との関係がないかどうかを徹底的に調べられたが、費用は泉さんの負担だった。
ラスベガス繁栄の裏に、こんな厳格さと苦労があることを、身をもって知っている。
倒産ホテルを買収して開業した711室の「サンレモ」は、5千室超級もあるラスベガスのホテルの中では「中の下」規模。スロットなどマシン約600台、テーブルゲーム20台弱で、年間売り上げは20億円強。宿泊費やレストラン、小さなショーを含めても40億円にすぎない。
「マシンの買い換え費やディーラーの人件費もバカにならない。何とかぼちぼちやっている」
泉さんによれば、ラスベガスのカジノホテルの5分の1程度が、大幅赤字を抱えるか、倒産寸前の状況という。自身も最初の4年間は、単身赴任でラスベガスに住み込み、現地のマネジャーにつきっきりで経営してきた。
日本人客の割合は多い。でも、カジノではあまりお金を使ってくれないそうだ。
「こつこつ努力して報われるのが好きな日本人の気質にはあわない。でも、日本で禁じる理由は何もない。ただ、大都市やカジノ以外に別の娯楽がある場所でないとうまくいかないのでは」と語る。
○東京は日帰り重視
国内各地のカジノ構想は、石原・都知事が99年に「東京・お台場にカジノを」と発言して火がついた。持ち上がっている主な地域は13カ所。自治体主導の東京都、岐阜市などに対し、地元経済人らが声をあげた沖縄県、珠洲市、秋田県雄和町など、取り組み方はさまざまだ。
背景も、熱海、鳥羽、加賀、別府、宮崎の各市のように有名な観光地がかつてのにぎわいを取り戻そうという場合や、大阪府、常滑市のように大型国際空港を生かした地元振興をめざす場合などだ。
今年は、政府の「構造改革特区」構想の中で、カジノ合法化を求めた自治体も相次いだ。国会議員の間で合法化に向けた研究会も発足した。
東京都は10月、カジノを都内に設けた場合、周辺施設も含めた年間売り上げが最大910億円とする試算を発表。税収入は221億円、雇用創出は約1万4千人とした。それでも、「世界のどのカジノ都市も、収入の中でカジノ自体が占める比重が落ちている」(都担当者)が前提だ。
ホテル宿泊客の半数はカジノをしないと見込み、最大で年335万人のカジノ客のうち、日帰りが約6割を占めるとして計算した。実際、ラスベガスでも国外からの客は約5%。しかも米国人客の3分の1が地元民だという。
「カジノは都市の魅力を増すための手段。カジノができれば、これだけの観光客がやってくるという言い方は気になる」と都の担当者。国内の他のカジノ構想とは一線を画す構えだ。
「カジノ特需」が実現すれば潤いそうなゲーム機、ホテル業界や、競合しそうなパチンコ業界も、「まだ非合法」などと静観中だ。
<カジノ>
お金をかけてカードゲームなどを楽しむ場。その運営が経済活動として法的に認められたのは19世紀以降とされる。欧州では上流階級の社交場としての趣があるが、米やアジアでは一般大衆対象の観光産業として成長。日本ではとばく罪にあたるとして開設を認められていない。東京都によると、合法化しているのは132カ国・地域、禁止は70カ国。
ゲームは、ブラックジャックやポーカー、ルーレットなどのテーブルゲームと、スロットなどマシンに大別されるが、大衆化でマシンの割合が増えてきている。
<参考情報>
『カジノが日本にできるとき』(谷岡一郎著、PHP新書)は、カジノの歴史や米国各州の実情、さらに社会的コストまで踏み込んだ内容。また、『賭けに勝つ人、嵌る(はまる)人』(松井政就著、集英社新書)では、プレイヤーとしての経験に基づいたカジノ論が展開されている。
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