1999/06/26 朝日新聞夕刊
カジノ・特許販売・・・増収狙い、あの手この手 財政難の東京都
財政危機に直面している東京都が、なりふり構わぬ増収作戦に取り組み始めた。就任二カ月を迎えた石原慎太郎知事自ら都有地の売却の大号令をかけ、都独自の新しい税金の検討も指示し、「お台場にカジノを」といったアイデアも飛び出す。中には翌年度の税収の先取りをもくろむ「禁じ手」も。自治体の破産にあたる財政再建団体へ転落し国の管理下に置かれることは「メンツにかけても絶対がまんできない」と言い切る石原氏。ただ、壁も厚く、思い通りにいかない面も少なくない。
○ギャンブル
「競輪、競馬が良くて、なぜカジノがだめなのか。人も集まるし、収益で都も潤うじゃないか」
「先入観なしにあらゆることを検討する」と意気込む石原知事は最近、折に触れて、臨海副都心の都有地にカジノを設ける「構想」を口にしている。
公営ギャンブル化には新たな法律制定などが必要で、都だけで対応できる話ではないが、このカジノ構想と並んで石原氏が引き合いに出すのは、美濃部都政時代の一九七三年に廃止された後楽園(現東京ドーム)競輪の復活案。
どちらもまだ、具体的な検討を始めたわけではないが、庁内には「どれほど収入に結びつくのか。逆に、イメージダウンにならないか」といった懐疑論も強い。ある幹部は石原氏が掲げた「道徳教育」との「矛盾」を指摘する。
○夜討ち朝駆け
就任直後から石原氏がはっぱをかけているのが利用されていない都有地の売却。都がリストアップした未利用地は七百六十三件計二百八十二ヘクタールに上った。
だが、この中には地元との間で利用計画が決まっている米軍調布基地跡地内の都有地や、団地などを建てた後の片隅に残った不整形な土地も含まれており、実際に売れる土地はさほど多くない。
石原氏は選挙中、都有地などをとらえて「都には三兆円の隠し資産がある」と訴えていたが、「売却可能な土地全部で、せいぜい数百億円程度」(都財務局)。都はこれまでも毎年売り出してきたが、不況下で売れるのは募集件数の半分程度と実績も乏しい。
「民間業者に頼んで、土地を買ってくれそうな人に夜討ち朝駆けをしてもらってはどうか」。庁内では信託銀行や不動産会社に売却の仲介を依頼することも検討中だ。
○税収先取りも
このほか、上下水道の料金に「環境税」的な料金を上乗せすることや、都の保有する特許や研究成果などの「知的所有権」を売り出すことも都は検討中。だが、料金値上げや各種事業の大幅抑制には都議会の反対も予想される。
そうした中で、実現すれば「ウルトラC」として、政府への政策要望にそっと忍び込ませたのが「地方税収入の会計年度所属区分の変更」。ある年度だけ、翌年五月まで十四カ月分の地方税を歳入に数えようということだ。試算では都税が五千億円の増収になり、予想されている来年度の六千二百億円の税収不足も穴埋めできる。オイルショックの時に政府も使った手だ。
石原氏は二十八日、ほかの政策要望とあわせて小渕恵三首相や野田毅自治相らに示す。
だが、この手は一回しか使えず、翌年度からは十二カ月分の収入に戻る。いわば、その場しのぎ。税収が増えると、地方交付税が減額されるのでほかの自治体の賛同を得るのは簡単ではない。都幹部も「筋が悪く、重点要望にはできなかった」と話していた。
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