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私はこう考える【公営競技・ギャンブル】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1998/10/14 朝日新聞夕刊
なぜ人はハマるのか(ギャンブル!を問う:中)
 
 ギャンブル小説『極道記者』や『止まり木ブルース』の著者塩崎利雄氏は、「借金も入れて十億円は、競馬で溶かしてきたね」というギャンブラー。「ギャンブルは毒だ。勝ちには上限があるのに、負けは底なし。負けてる時ほど分別をなくす」
 『パチプロ日記』の著者田山幸憲氏は、東京大学を中退して以来、三十年以上パチンコで生計を立ててきた。「ギャンブルとしては競輪の方が絶対的に面白い。負けるけどね、年に百万円くらいは。勝ちようがないもん。まあ、心のぜいたくだよ」
 ギャンブルの達者ともいうべき人たちが、負けて負けて、なおかけつづけるのはなぜか。その心理の不思議を、高橋勇悦・東京都立大学教授(社会学)は「フィクショナル(虚構的・物語的)な主体になってしまっているから」と説明する。
 「ギャンブルなら意思決定の過程はすべてわがもの。情報を集め、推理して、決断するまで、すべてが自分の思いのまま。そんなこと、今、現実の社会の中でできますか」
○ハイリスク集団が急増
 確かにギャンブル好きは、かけに勝つ時「偶然や未来を支配する者になった感覚」があると異口同音に言う。多くの人はそのひとときの物語に満足して、ストレスを解消し、現実の人間関係の中へ帰っていく。
 ところが、この「フィクショナルな私」のあまりの快さから抜け出せない人がいる。まさに「生業をなげうってかけ続ける人」。「ギャンブル依存症」と呼ばれる。
 「データはないが、ここ数年急激に訴えが多くなった」と、『嗜癖(しへき)の時代』などの著者で精神科医の岩崎正人氏はいう。「ギャンブルに限らず、さまざまな依存や嗜癖(特定の習慣への執着)が出やすいハイリスク集団がどっと増えてます」
 過食や拒食。買い物、アルコール、ギャンブルなどへの依存。さらには、過度のダイエットやスポーツ、行きすぎた節約・・・、何につけハマリやすい人々は、子ども時代に父母の仲が悪かったなど、乏しい人間関係に育ったことによる心の傷がうんでしまってるせいだと、最近、多くの精神科医が考えるようになった。
 ギャンブル依存症は、日本では一九九〇年代に入ってから社会問題となったが、『ギャンブルフィーヴァー』を著した谷岡一郎・大阪商業大学学長によれば、米国では八〇年にギャンブル依存症の認定がされている。
 米国精神医学協会は成人の二、三%がギャンブル依存症であろうと推定しており、州法でカジノの合法化が論議される時は必ずといっていいほど、依存症対策がセットで論議される。例えばミネソタ州法案では、カジノやゲームマシンの粗利益の一〇%を福祉に、一%を治療施設に割り当てている。「依存症の存在は、自由の代償として当たり前と考えているから」と谷岡氏。
 治療に決定打はないが、最も有力なのはギャンブラーズ・アノニマス(GA)と呼ばれる自助グループに入ることだとみられている。同じ悩みを持つ者が協力して社会復帰を目指す。ただし、回復へと至る道筋は、日米両国に相当な隔たりがある。
○日米で取り組みに違い
 米国の回復プログラムは、神の意志を理解し、自分の卑小さを確認するところから始まる。「王様幻想」に神を対置して、「フィクショナルな私」を真っ正面から否定するところからスタートするのだ。
 ところが日本のGAは違う。もとになるプログラムは同じでも、「関係の回復」が重視される。自分の体験を語り、人の体験を聞く「寄り合い」の雰囲気。和気あいあいの中で、なぜギャンブルに没頭せずにはいられないような心の傷ができたのか、自前の物語をつくりあげていくことが中心となる。「それが事実かどうかより、自分でシナリオをつくっていくことが大事なのです」と岩崎氏はいう。
 その中には、決まって父や母への激しい恨みがこもっており、しばしば「縁」や「宿命」がキーワードになるという。
 仲間との新しい関係の中で、「こうしてギャンブルにはまった私」という、より客観的でバランスのとれた新しい物語をつくっていく。それも一種の幻想なのだが、そうすることによってしか病的な幻想は消し去れない。
○日本人の心の状況映す
 こうしたギャンブルの病理を探ると、浅田次郎氏や白川道氏が「ギャンブルする私」を経て人気作家となっていった理由もみえてくる。ギャンブルには、閉そくしていく社会へのいらだち、人間関係のかっとうと心の痛み、勝負のドキドキといった道具立てがそろっている。ギャンブルを語れば、今の日本人が陥りがちな「フィクショナルでしかありえない私」の状況がおのずと映し出される。
 『天』『銀と金』『カイジ』など、ギャンブルを描いてマンガ界に新風を送り込んだ福本伸行氏はいう。「衣食住足りてる今の時代に面白いものをかこう、勝負の深いところ、人の弱さ、心の動きがむきだしになるところをかきたいと考えたら、自然とギャンブルになっていった」
(鈴木繁)
 
 
 
 
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