1994/10/30 朝日新聞朝刊
自主財源 自前の金求め苦闘(列島細見 分権の担い手)/東京
「三割自治」といわれ、税・財源が乏しい地方自治体。国の懐に頼る分、自立が進まない。
今国会では、地方消費税創設を一つの柱とする税制改革関連法案の審議が始まり、制度が少し変わりそうだ。だが、自前の金をどう作り出すか。首長の苦闘は続く。
「世の中、きれいごと過ぎても何も出来ない。確かに『競艇場城下町』という時代もあったし、今もなくっちゃ困る」。森田満蔵町長は身を乗り出すようにして言った。
JR高崎駅から両毛線と車で約一時間、赤城山のふもとにある群馬県・笠懸町。役場の町長室の壁を見て、町長の言葉がうなずけた。町民憲章と並んで約一メートル四方の桐生競艇場のパネル写真が飾られていた。
「桐生ボート」は一九五六年、町内の阿左美沼を舞台に始まった。現在、年間百八十日開催され、うち五十二日を、笠懸町と隣の二町でつくる阿左美水園競艇組合が主催している。
■頼りは桐生ボート
昨年度の組合の売上金は約二百三十六億円。払戻金などを差し引き、笠懸町に十三億六千七百万円が入った。不況のせいで前年度より約二億円少ない。
一方、町の財政はどうか。昨年度の歳入九十八億七千三百万円。このうち自主財源の柱となる町民税など地方税収入は二十六億一千三百万円。歳入に対する地方税収入の割合が“自治度”とされるが、二六・五%と「三割自治」に満たない。競艇関係の財源を加えてようやく「四割」に乗る。
公営ギャンブルという「特殊な財源」だが、町長は「これに代わるものはないし、やめられない」と率直に認める。
■自分で集めてこそ
だが、それは、歳出の運用に影を落としている。
ここ数年、町は本格的な音響・照明装置を備えた笠懸野文化ホールや岩宿文化資料館など三十億円以上もかけた施設を完成させた。文化に力を入れるのも、「罪滅ぼしの気持ちもある」と町長は言う。そこには、町民の税金を使い、堂々とまちづくりと取り組みたいとの思いがのぞく。
ただ、地方消費税に対しては一言ある。
「この税金、国が徴収するというじゃあないか。それでは責任感も自治意識も生まれてこない。地方に集めさせなければダメだ。そもそも地方に対する国の権力が強すぎるね」
北の鉄の街・室蘭。産業構造転換の大波をかぶり、人口は二十年間で三〇%以上減り、十二万人を切った。市税収入は百五、六十億円台で、“自治度”は平成に入ると四〇%を割り、昨年度は三五%に落ちた。
■分権には財源を
こんな状況だから、市の財政担当者から出る言葉は厳しい。「事務の移譲に当たっては、財源について完全に措置された実の伴う地方分権が重要です」
岩田弘志市長は「すでに自治体間に格差はあり、同じ土俵に乗っていない。地方消費税は地方に税源が来るのだから前進ですが、税全体を見直した上でさらに調整が必要だ」と語る。
岩手県の工藤巌知事は、盛岡市長も務めた地方行政のベテランだが、さめた目で地域を見つめる。
「個性豊かな地域づくりは大事です。都市計画や景観、環境といったものは地方に任せたらよい。でも地方には税源がないんですよ。医療や福祉、年金など人間として生きることにかかわることは全国同じでなければならないから、今の地方交付税制度は大事です。自分で財源を見つけて好きなようにやるのは、日本にはなじまないのではないか」と危惧(きぐ)する。
「新・地方の時代」ともいえる今、個性と豊かさがキーワードだ。そのための財源をどう確保するのか。首長の手腕が問われる。
(通信部・宮崎勝弘)
<地方消費税>
政府・連立与党の税制改革で創設が決まった地方独立税。自治省や全国知事会など地方六団体が自主財源拡充のため強く働きかけていた。
国はこれまで国税として消費税を徴収し、その一部を消費譲与税と地方交付税の形で配分してきた。
今回の税制改革で、九七年四月から、消費税の税率が現行の三%から四%に引き上げられるのと同時に一%分の地方消費税を導入する。消費譲与税は廃止される。課税権者は都道府県だが、徴税業務はこれまで通り国(税務署)が行う。
自治省の試算(別表)によると、改革に伴い地方自治体の収支は、都道府県が個人住民税減税と消費譲与税廃止で計九千六百二十億円減り、地方消費税で一兆二千二百四十五億円増えて差し引き二千六百二十五億円増収となる。市町村は逆に二千七百二十五億円減収になる。この穴を埋めるため、個人住民税の市町村への配分比率の見直しが検討されている。
○地方消費税導入など税制改革に伴う自治体の収支
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都道府県 |
市町村 |
個人住民税の恒久減税 |
▼1820 |
▼8470 |
消費譲与税廃止による減収 |
▼7800 |
▼6500 |
地方消費税による増収 |
12245 |
12245 |
差し引き |
2625 |
▼2725 |
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(自治省試算、単位:億円) |
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