1992/12/24 朝日新聞朝刊
不況の娯楽、安くて近場で テーマパーク初物人気(時時刻刻)
さまざまな分野に広がる娯楽産業にも、このところ不況の影響が目だってきた。費用のかかる大規模遊園地にややかげりが出る一方で、手近なパチンコやゲームセンターがにぎわいをみせるなど、娯楽でも「安く、近場で、楽しく」という「安近楽」型に人が集まっている。これから冬休み。ボーナスが振るわず、残業手当も減って財布が軽くなったなか、子どもとゲーム機に熱中するか、ひとりでパチンコ玉をはじく父親の姿が増えそうだ。
●1人当たり3500円
東京・世田谷。東急二子玉川園駅から歩いて5分の住宅地に今春、都市型テーマパーク「ワンダーエッグ」がオープンした。ゲーム機や乗り物などを合わせ持つタイプの娯楽施設だ。
好天に恵まれた23日、テーマパークとしては手狭な9000平方メートルの園内は若いカップルや親子連れらでにぎわった。「渋谷から十数分で来られるし、1日遊べる」と大学生の男女。コンピューターと大画面の映像を組み合わせた人気アトラクションには長い行列ができた。
経営主体のナムコでは年間の入園者を80万人と予想していたが、10月末までにその数字を突破。入園者は1人当たり約3500円のカネを使っている。
「都市型で若い層にターゲットを置いたのが成功に結びついた」と池沢守テーマパーク事業部長。
約2200億円をかけ、今年3月、長崎県佐世保市に完成した複合型リゾート施設・ハウステンボスは、オランダの建物を再現した町並みが売り物。手軽に海外旅行の気分を楽しめるとあって地元九州を中心に人気を呼び、年間入場者400万人、売り上げ520億円の目標を達成できそうな見通しという。
バブル崩壊の影響を懸念する声もあったが、初物の人気に支えられた面もあったようだ。神近義邦社長は「今年、話題性のあるものは少なく、うちに客が集まった」と鼻息が荒い。
●企業努力怠らず
市場規模約16兆円(余暇開発センター調べ)で娯楽市場の中で第1位の売り上げを誇るパチンコは、不況でも人気は衰えない。
全国のパチンコ機器メーカー19社が加盟する日本遊技機工業組合(事務局・名古屋市)によると、パチンコ店は昨年、全国に1万6500店ほどだったのが、現在1万7000店を超すほどの勢い。パチンコ台も344万台と、増加傾向にある。
「パチンコはレジャーとして手軽だし、経営者も不況になると玉を少し出やすくするなど企業努力を怠っていない」と井上宗迪・多摩大学教授(経済学)は指摘する。
一時にせよ不景気の暗い気分を忘れたいということもあってか「お笑い」も健闘している。大阪市の吉本興業は、今年9月の中間決算で売り上げを約4分の1増やした。
木村政雄制作部長は、「不景気でテレビ番組の編成が保守的になる中で、わかりやすくて新しいお笑いを模索している」と話す。テレビ・ラジオ部門が好調なほか、3つある劇場も客の入りがいい。東京の寄席・浅草演芸ホールでも「そこそこのお客が入っている」。
●リピーター鈍る
一方で、不況の波をもろにかぶったり、客足にかげりが出始めた娯楽もある。
10年間の総入場者が1億2000万人を超えた東京ディズニーランド(千葉県浦安市)。今年になってから全体の入場者はやや伸び悩んでいる。リピーターと呼ばれる2度、3度と訪れる客の出足が鈍ったとみられ、夏休み期間中の入場者が前年の同じ時期と比べて約6%減った。82ヘクタールに広がるさまざまな施設が、1日遊ぶと費用がやや高くつく(1人平均8700円)ことなどが不況下では無視できないようだ。
一時期、人気をはくしたディスコは全国的に低迷気味。名古屋市では、最盛期の90年に21あった店が、今では9店が残るだけ。若者向けのパブやカラオケボックスに転業したケースがほとんどだ。「高級化したので、カネのかからない場所に若者が流れた」という声も。
「一獲千金」がねらえる公営ギャンブルは、競輪、競艇、オートレースの年間総売り上げが前の年より落ちそうだ。入場者には大きな変化がなく、1人当たりの購買額が少なくなったことが不振の大きな原因。中央競馬の売り上げは前年を上回る見通しだが、1人あたりの購買額はほかの公営ギャンブル同様、減少傾向。27日の有馬記念に期待をかけている。
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