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私はこう考える【公営競技・ギャンブル】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1992/05/23 朝日新聞夕刊
競馬にも「小錦問題」「レースの門戸開け」と欧米から矢の催促
 
 競馬は若い女性の間でブームを呼んで華麗な変身を遂げ、3兆円産業に成長しました。賞金も高くなる一方で、欧米の競馬先進国からは「レースの門戸を開け」と矢のような催促がきています。小錦の連敗で、相撲の外国人横綱問題は先送りされてしまいましたが、競馬のレース開放問題はまだ燃え盛っている最中。海外から文句を言われるのは、国際的に見るとどこか変なところがあるからかもしれません。オークス、ダービーとビッグレースが続くのを機に、競馬について研究してみました。
○出走制限緩和の動き
 「レースは三流、賞金は超一流」。最近、日本の競馬関係者がよく口にする自嘲(じちょう)的な言葉だ。
 92年の日本ダービーや春秋の天皇賞など6レースの1着賞金が1億3000万円。1億1000万円と9000万円台も計6レースある。
 一方、競馬の伝統が長いヨーロッパでは、日本円に換算して1億円を超えるのは、競馬界で最も栄誉とされるフランスの「凱旋門賞(がいせんもんしょう)」ただひとつ。5000万円を超えるのも英仏のダービーなど数レースだけで、最高格とされるG1レースのほとんどの賞金が1000万、2000万円台だ。
 76年の日本ダービーの賞金は5000万円だったが、毎年のように増額され、いまや2.6倍だ。日本中央競馬会(JRA)は「馬主の要求が強いので」とし、JRAを監督する農林水産省も「レースに馬を出していただいている立場なので要求は無視できない」と説明する。
 
 日本では賞金の8割が馬主の懐に入る。中央競馬を一元管理するJRAには高い賞金を出すだけの資金がある。グラフ(=略)に見る通り、売上高(勝馬投票券の発売金総額)は、かつて公営ギャンブルの王者だった競艇を抜き、90年に3兆円を突破、91年には3兆4300億円と急伸している。一方、地方自治体が運営する地方競馬は80年に約8000億円、90年でも9500億円という状況で格差は大きい。
 売上高のうち、払い戻されるのは他の公営ギャンブルと同じ75%。10%が国庫納付金になる。残る15%分に入場料など売り上げ以外の収入を合わせた中から、賞金なども含む「開催経費」を差し引き、さらに残れば半分を第2国庫納付金とし、半分は特別積立金などとしてJRAが内部留保する仕組みだ。
 納付金の4分の3は畜産振興に回される。積立金はJRAの設備投資の原資などになるが、スタンドなどを改築しても積立金は増え続け、いまでは6000億円に達している。
 豊かな資金を握っているだけに、官僚組織の中でも重要な天下りポストになっている。渡辺五郎理事長は元農林水産事務次官。この25年間、歴代理事長は農水事務次官経験者で占められている。
 売上高のうち、払い戻されない割合を示す控除率は、日本の場合25%となるが、「競馬先進国」ではイギリスが22%、米国が14%、オーストラリアが15%など日本より低い国が多い。
 
 ヨーロッパでは、貴族たちが優雅に「かけ」をするために近代競馬が始まった。日本では、明治時代の終わりに富国強兵策の一環として「軍馬の資質向上」を目的として始められ、運営費をひねり出すために国策として「かけ」が導入された。
 競馬史を研究している東京外語大助手で民俗学者の大月隆寛さん(33)は「大衆の支持具合から見ても、中央競馬は公営競技の中でもっとも異質なものになっている。それを踏まえて、一般の畜産とは違う、レジャー産業の中の競走馬生産をどう位置付けるのか、地方競馬も含めて真正面から取り組むべきだ」と批判している。
○国内生産者は猛反発
 「外国馬の輸入の自由化とはよく言ったもんだ。中央競馬と地方競馬との交流が年間6レースだけで、国内でさえ自由化されてないというのに・・・」。競走馬の産地、北海道・日高地方の浦河町で9頭の馬を飼育している本巣政治さん(67)は、JRAのやり方に不満を隠さない。
 日高地方では、約1500世帯の農家で毎年、全国の8割にあたる7000頭近くのサラブレッドを生産している。そのうち華やかな中央競馬に籍を置けるのは3割だけ。残りは賞金も少なく、馬が高く売れない地方競馬行きだという。日高軽種馬農協の調べによると、7―10頭を持つ農家で、平均年収は4800万円。だが、種付け料が150万―200万円かかるなど、子馬を2年ほど育成するのに、平均して経費が4600万円かかっており、しかも平均3000万円の借金を抱えている。
 
 「手厚い補助を受けているコメや野菜の農家を横目に、あえて競走馬を育てているのは数千万から億単位で売れ、賞金の高い中央競馬で活躍してくれる素質のいい馬の誕生に賭けて(かけて)いるから。でも5年後、外国生まれの馬がどんどん走り、賞金をかっさらっていくと、そんな意欲はなくなる」と本巣さんは語気を強める。
 外国馬は国内産より強い、というのは定説になっている。国内の農村地帯の中では雄大な光景を誇る日高地方でも、牧場の広さは馬1頭当たり1―1.5ヘクタール。ところが、欧米なら数十ヘクタールはある。しかも、国内では飼育頭数が7―10頭という零細な農家が多いのに、欧米の牧場は200頭ぐらい飼うのはざら。いい環境で育ち、激しい競争を勝ち抜くから、スピード、スタミナ、パワーの三拍子がそろった馬が多いというのだ。
 
 実際問題として、日本で外国馬の出走を認める数少ない重賞レース「ジャパンカップ」では、これまで11回のうち9回まで、外国馬が1着をさらっている。また、日本の競馬史上「最強」と騒がれたシンボリルドルフは、米国のレースに遠征したが、7頭中の6着に終わっている。
 このため、若手の牧場経営者(35)は「レースが自由化されれば、金持ちニッポンの馬主たちは日高地方を見捨て、一斉に海外へ安くて強い馬の買い付けに走るだろう」と悲観的だ。
 「たった今、億単位の巨額を投じて一流の馬同士を交配しても、生まれた子どもの能力が分かるのは3年以上たってレースに出るようになってから。5年後に大幅な開放というのでは、何の対策もとれない」と、浦河町の隣町、三石町の牧場経営者(37)はぼやく。
●外国産は全体の1.9%
 日本の競馬は「鎖国競馬」と言われる。1971年から競走馬の輸入を認めることにしたものの、国内の生産者保護のため、輸入障壁はまだまだ堅固だ。
 輸入関税が1頭あたり400万円のうえ、外国で生まれた馬には、中央競馬約3400レースのうち35%のレースにしか出場を認めないという「出走制限」がある。まして、海外のレースで実力が証明済みの外国現役馬は、ジャパンカップと富士ステークスの2レースにしか出られない。
 中央競馬では昨年、在籍する外国産馬が114頭と、初めて100頭を超えた。だが、全所属馬数に対する比率はわずか1.9%にとどまっている。一方、競走馬の大産地を抱える米国、ニュージーランド、英国は、海外に向けてレースを100%開放している。
 JRAは昨年9月「外国産馬の出走制限緩和5カ年計画案」を発表した。外国産馬の出走を96年までに全レースの65%まで認め、現役馬については天皇賞、有馬記念、宝塚記念など17の重賞レースを開放する、という内容だ。
 ところが、北海道・日高地方を中心とする国内の生産地は猛反発。今年2月の生産者大会でJRA案の白紙撤回を決議したほか、北海道議会や日高地方にある9町の全議会も「牧場づくりにかかわってきた全産業に影響する」とし、相次いで見直しを要望する意見書を採択している。
◆生産規模も哲学も違う エッセイスト・森本毅郎さん
 いい馬作りに努力してきた人に「やりがいがない」と思わせるのは残酷なことだ。サラブレッドをつくるのは、そんなに簡単じゃない。すぐ結果を求めたがる日本の風潮とはテンポが合わないのだ。
 日本の馬は、金もうけの道具としか見られていない。欧米では、人間がもっと馬に尊敬の念を持っているし、伸びやかに育てている。
 競馬システムの中の都合のいいところだけで国際化と言うからおかしくなる。生産の規模も、飼育や競馬への哲学もすべて違うのだから、何も競馬まで「世界に冠たる」でなくてもいいと思う。
◆強い馬走るのを見たい 作家・高橋源一郎さん
 世界中のサラブレッドの血統を見ると、競馬はもともと国境がないスポーツなのだ。日本で強い馬が走るのを見たいし、逆に日本で生まれ育った馬が海外のレースで勝利するのも見たいと思う。レースを国際化しないと、日本の競馬界は強くならない。
 一方で、国内産地で生産者が強い馬づくりに意欲を持つことができるよう、知恵を出していかないといけない。国内産馬が勝ったときには賞金に上乗せするのもいいし、地方競馬も賞金を高くするなどしたうえで、優秀な馬は中央競馬に出る機会を増やすのもいいだろう。
 
 
 
 
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