|
1986/07/30 朝日新聞夕刊
“初体験”ナイター競馬あす出走 東京・大井競馬場
「日本で初」と銘打って31日から東京・大井競馬場で始まるナイター競馬。年々人気が落ち込んでいる地方競馬のばん回策で、主催者は、勤め帰りのサラリーマンに生ビールを片手にレースを楽しんでもらえる、と強気の皮算用をはじいている。一方「大井さんが成功すれば、ウチもあやかりたい」と、他の地方競馬の関係者は熱い視線を寄せている。
〈ジリ貧に歯止め〉
大井競馬(特別区競馬組合主催)は、目下ジリ貧の状態。ハイセイコーブーム直後の50年代前半には100億円を超えたこともある年間の収益は、最近では5分の1の20億円にまで転落。観客数もピーク時の半分以下の1日平均約1万4000人に落ち込んでいる。そこで、巻き返し策として、実現したのが、このナイター競馬だ。
〈政令改正も〉
もともと、10年近く前から芽生えていたアイデアだが、「競馬は日の出から日没まで」とする競馬法施行令がカベになっていた。が、地方競馬滅亡論までささやかれる中で、59年9月、特別区公営競技振興対策協議会がナイター競馬実施を答申。政府もこれを受けて去年6月、政令を改正して開催時刻の拘束を撤廃した。
〈17カ国で実施〉
ナイター競馬は、国外ではすでに、米国、イタリア、フィリピン、香港など17カ国で行われているという。特に、香港のハッピーバレー競馬場は今回のモデルで、大井競馬の下沢三郎所長をはじめ関係者が何度も足を運んだ。13年前のハッピーバレーでのナイター初日は超満員の大盛況で、入場制限が出たほど。大井では、10月2日まで計25日間のナイターを計画。期間中、1日の入場客2万人、売り上げ9億円を見込んでおり、「香港なみに札止めするぐらいの人気になれば」と期待をふくらませている。
〈後楽園なみ〉
ナイター開催に合わせて、総工費約50億円を投入して競馬場を一新した。このうち、照明だけで30億円。スタンド屋上には投光器495台、コースに沿って35メートルごとに、高さ18メートルの照明灯45基(投光器計675台)が取り付けられ、照度はホームストレッチが1800ルクス、各コーナーが1200ルクス、走路が800ルクスに。ちなみに、後楽園球場がバッテリー間2000ルクス、内野1000ルクス、外野1080ルクスで、ほぼ野球のナイター並みの明るさだ。カクテル光線に映えるよう、コースの砂も白い砂に入れ替え、地方競馬では初めての大型カラービジョンも設置した。
〈戸惑う騎手〉
13日夜には模擬レースを開催。その後も連日、午前3時からの調教は照明灯をつけて行い、騎手、馬ともにナイターに慣れるのに懸命だ。「走路が明るいのに周りが暗く、視野が狭く感じる」「他馬との距離感がつかみにくい」など戸惑いの声をあげる騎手もいるが、主催者側は「慣れれば大丈夫です」。
〈大穴は?〉
野球では、デーゲームはさっぱりだめだが、ナイターになると別人のように活躍する選手がいるが、馬の場合は? 「神経過敏な馬は照明の光に弱いのでは」「低血圧型で朝の調教でさっぱりなのが意外に強いかも」・・・。諸説飛び交っているが、13日の模擬レースでは、ほぼ昼間の実力通りの結果だった。
〈競馬公害は?〉
「昼間でも競馬で迷惑を受けているのに、夜間まで拡大されるとは」。一時は、地元にナイターに反対する会も結成され、区議会への反対陳情もあったが、「現在は表面だった動きはない」と主催者側。競馬場内外の秩序を保つため、警備員を約100人増員して320人としたほか、監視用カメラも増設。周辺のパトロール地域も拡大する。
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。
|