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「結核の統計2004年版」を読む
結核新登録患者は4年連続して減少したが減少速度はさらに鈍化
 
 
結核研究所副所長
結核予防会国際部長
石川 信克
 
 「結核の統計2004年版」(厚生労働省監修, 結核予防会発行)が出版された。これは平成15年(2003年)に全国の都道府県・政令都市より保健所を通じて報告される結核患者と対策の状況に関する諸統計を結核発生動向調査としてまとめたものである。概況は厚生労働省から既に発表され, そのポイントは表1の通りである。基本的な特色は昨年とほぼ同様と言えるが, 対策のあり方など様々な興味あるトピックスについてグラビアで分かりやすく示されている。
 
減少速度は鈍化
 新登録患者は平成9年(1997年)に逆転上昇し3年連続して増加, 平成12年(2000年)に4年ぶりに減少に転じたが, 前年に引き続き減少は継続し, 今回4年連続で減少したことになる。平成15年(2003年)には全国で31,638人の結核患者が新たに登録された(前年比1,190人減)。人口10万人対の新登録患者数(結核罹患率)は24.8(前年比1.0減)であった(表2)。減少率は実数で3.6%, 罹患率で3.9%と前年の7.5%よりさらに低下した。
 年齢階級別に見ると, 罹患数は80歳以上を除く各年齢層で減少しているが, 20歳代では依然2,800人近くの発症がある。罹患率は各年齢層で減少してはいるが20歳代では10万対16.5と前年とほぼ不変であった。
 
表1 平成15年結核発生動向調査年報の主要ポイント
(1)新登録患者は4年続けて減少した。減少率は純化
新登録患者数:31,638人, 罹患率:24.8
(2)20歳代罹患率は16.5で前年度とほぼ同じ
(3)受診の遅れ, 診断の遅れはわずかに短縮しているが, 改善の余地あり
(4)新登録患者中の高齢者の割合は, 4割を超え, 増加傾向
 70歳以上の患者の占める割合は42.9%
(5)国内の地域間格差はやや縮小したが, 依然大きい
 大阪市の罹患率(68.1)は, 長野県(11.9)の5.7倍
(6)世界的に見て, 日本は依然として結核中進国
 日本の罹患率は, スウェーデン(4.2)の5.9倍、オーストラリア、米国(5.2)の4.8倍
 
表2 結核基本統計値の3年間の動き
  2001年(平成13年) 2002年(平成14年) 2003年(平成15年)
新登録患者数
(罹患率:10万対率)
35,489人(100%)
(27.9)
32,828人(100%)
(25.8)
31,638人(100%)
(24.8)
0〜19歳(%) 616人(1.7%) 490人(1.5%) 433人(1.4%)
20〜39歳(%) 6,198人(17.5%) 5,726人(17.4%) 5,601人(17.7%)
40〜59歳(%) 8,395人(23.7%) 7,450人(22.7%) 6,885人(21.8%)
60歳以上(%) 20,280人(57.1%) 19,162人(58.4%) 18,719人(59.2%)
70歳以上(再掲) 14,062人(39.6%) 13,622人(41.5%) 13,586人(43.0%)
80歳以上(再掲) 6,161人(17.4%) 5,922人(18.3%) 6,293人(19.9%)
肺結核/全結核(%) 81.3% 80.6% 80.5%
喀痰塗抹陽性患者数
(同上罹患率:10万対率)
12,656人
(9.9)
11,933人
(9.4)
11,857人
(9.3)
肺結核患者中の割合 43.8% 45.1% 46.5%
菌陽性肺結核患者数 18,284人 17,534人 17,316人
肺結核患者中の割合 63.3% 66.2% 68%
結核死亡数
(死亡率,順位)
2,941人
(2.0,25位)
2,316人
(1.8,25位)
2,336人
(1.9,25位)
年末活動性患者数
(有病率:10万対率)
36,288人
(28.5)
32,396人
(25.4)
29,717人
(23.3)
 
減少傾向はどうなるか?
 今回4年連続で減少したが, 最初2年がともに10%であった減少率は平成14年(2002年)7%台となり, 今回平成15年(2003年)は3%台と鈍化傾向が見られた。減少傾向の将来予測は容易ではないが, このままこの傾向が続けば, 1980年代後半以降, 逆転上昇が始まった1997年までの約3%の減少率に戻る可能性が高くなったと言え, 今後の推移が注目される(図1)。
 罹患率の推移には, 人口の高齢化(高齢者・超高齢者数の増加), 高齢者中の高い既感染率, 若年者での低い既感染率, 糖尿病等の発病危険因子の増加, 都市部での増加傾向, 施設内感染の増加, 外国人人口の増加等の疫学的要素に加え, 対策の効果が複雑に絡む。このままで単純に考えると, 国全体の減少傾向は当分続くと考えられるが, 年齢階級別の動きや地域(特に都市部)や特定集団での動きもあり, 単純な予測は困難であろう。
 塗抹陽性肺結核罹患率を各年齢層別に見ると, 全体としてわずかに減少していることから, 過去20年来続いてきた10前後の罹患率がこのまま減少方向をたどる兆しがあると言えるが, どの速度で減って行くか必ずしも安心できない。
 
喀痰塗抹陽性患者の減少はわずか0.7%
 喀痰塗抹陽性肺結核患者数は11,857人(前年比76人減), 罹患率は10万対9.3(前年比0.1減)とわずかな減少に止まり, 減少率はともに0.7%と前年度に比べ著しく小さい。減少傾向へ転じつつあるとは言え, 遅々としている。塗抹陽性実数では, 20歳代で825人と昨年より21人増加, 30歳代, 40歳代で900人程度, 70歳以上の高齢者が5,361人も重症で感染性の高い状態で発生している(図2)。
 
高齢化は進むが、青年層のピークも無視できない
 新登録患者で高齢者, 超高齢者の割合は年々増加しているが, 70歳以上の占める割合は, 43.0%, 80歳以上は19.9%と前年よりさらに増加した。20〜39歳でも, 17.7%で微増している。年齢別に罹患率を見ると, 20歳代で急に高くなることは注目に値する。20歳代は2,798人で, 罹患率16.5は前年とほとんど変わらず, 感染性の高い喀痰塗抹陽性者は前年より増加し826人(罹患率4.9)となった(図2, 図3)。社会生活が始まるこの世代に新たな感染が起こっていること, この傾向は改善していないことが示されている。
 
図1 結核罹患率の推移
 
図2 塗抹陽性肺結核患者数推移
 
図3 年齢階層別新登録患者数(2003年)







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