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私はこう考える【国連について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2005/01/01 毎日新聞朝刊
国連改革:緒方貞子氏に聞く 軍事力を使わずにすむ世界構築へ、米国の力必要
◇緒方貞子氏インタビュー
 今年は国連創設60周年に当たる。9・11テロを経て大きく変わった世界を前にして、国連は何をすべきなのか。解答の一つが、昨年12月に発表された国連事務総長の諮問機関「ハイレベル委員会」(*1)の報告書だ。緒方貞子氏は委員の一人。大量難民や虐殺という人類の悲劇に、理想論ではなく、現実主義で向き合ってきた緒方氏は「米国の絶対的な力を国連に組み込むための改革が必要だ」と指摘し、「日本が大国として安保理で責任を果たすのはいいことだ」と語った。
【聞き手と解説・古賀攻】
◇安保理の決定範囲が拡大・・・日本は常任理事国になるべきだ
 ――報告書を出すまで委員会はほぼ1年かけて議論しましたね。
 緒方氏 そう、2003年の夏ごろに委員会設立の話があって、12月に初会合をやり、(04年の)2月、4月、7月、9月、11月と6回やりました。その間に、たくさんの国や地域で国連についての勉強会が始まったんです。それは今後のための大きな資産でした。
 
 ――安保理改革に踏み込むのが固まったのは、いつごろでしたか。
 緒方氏 安保理をどうするかという話は、非公式にはいろいろありました。ただ初めは「これには触れたくない」という委員もいたんです。それで最初は「脅威とは何か」から始めて、皆で議論したんです。脅威といった時に米国などはすぐテロというかもしれないけど、開発途上国に聞くと「貧困だ」「病気だ」と。これらにどう整合性をつけるかが最初のころは大きな課題でした。
 4月はアディスアベバ(エチオピア)に行ったんです。この会議が重要だったのは、アフリカとの貴重な話し合いができたことです。アフリカの抱えている安全保障の問題、地域間の問題、開発の問題と、アフリカの考えがたくさん出ましてね、大きな広がりを持ってきた。そして7月にバーデン(オーストリア)でIAEA(国際原子力機関)と大量破壊兵器の問題を協議しました。この時、事務総長の方から「やはり安保理問題は避けて通れないだろう」という問題提起がありました。その後、組織の問題に入っていったんです。
 
 ――じゃあ委員会で安保理問題が像を結んできたのは7月からですか。
 緒方氏 はっきりした形で出てきたのは割と遅い。だけど、私たちもずっとこれを取り上げざるを得ないと考えてきましたから。
 
 ――報告書には、安保理改革案として、常任理事国を6カ国増やすA案(*2)と、任期4年の準常任理事国を8カ国新設するB案(*3)が併記されました。2案併記はどんな事情からだったんでしょうか。
 緒方氏 これは一つの案より複数の案がほしいという話が事務総長からあった。「一つにまとめた形で」とは言われなかったんですよ。
 
 ――B案だけになるという観測もありました。
 緒方氏 B案がペーパーとして出てきたのは9月の会議(米タリータウン)でした。ただ、もともとA案はあったわけですよ、ラザリ案(*4)として。そして、9月の段階でA案の改正をしたんです。B案になりそうなので、関係国が巻き返してA案を併記したということではありません。
 
 ――ラザリ案は常任理事国を5カ国増やす内容でしたね。
 緒方氏 そう。アフリカの1カ国を足したわけです。ラザリ案の地域配分のままじゃとてもだめだった。ラザリ案は「先進国から2カ国」となっていたけど、欧州統合があってそのままじゃ通じない。だから、A案はかなり改善されている。
 それから国連憲章の23条に安保理非常任理事国になる資格として「国際の平和と安全の維持」に対する貢献と書いてあるんですが、実態上は適用されたことがなかった。そこで今回は、財政的な貢献とか、国連PKO(平和維持活動)への軍事的貢献であるとか条件を示したわけです。拒否権はA案でもB案でも与えないことにしました。
 
 ――拒否権を与えないというのは、今の5大国中心の国際秩序を維持するということですか。
 緒方氏 5大国というより、拒否権を取り上げるということにしたら、それこそ拒否によって何も成立しないという事実をプラグマティックに考えて現状維持となった。といっても、1945年の世界と現在の差を考えると、今の人たちがそのまま常任理事国に居座り続けるわけはないんで、これも相当な議論があったんです。だけど、今の5大国の拒否権を永遠に認めるのもおかしいから、報告書では安保理構成国についてかなり積極的なレビュー(見直し)を2020年に行うということを打ち出したんですね。つまり、2020年のレビューというのは拒否権国の問題を再提起することにもなるのです。
 
 ――報告書には武力行使のガイドライン(*5)も盛り込まれました。それに照らせば、イラク戦争はおかしかったということになりませんか。
 緒方氏 まあ、これからの基準ですから。今まであったことについてあれこれ言うよりも、今後の武力行使の指針を出そうという考え方で、何も「誰が悪かった」と言って歩いてもしょうがないですから。イラク戦争は絶えず念頭にありましたけど、米国が正当じゃなかったということをわざわざ言っているつもりじゃないですね。今後をどうしたらいいかということです。
 
 ――イラク戦争は国連の転機になりましたか。
 緒方氏 それは確かです。ただ、その前に2001年の9月11日。これは非常に大きなショックだった。あの時、国連を挙げて、事務総長も総会も安保理も米国に同調したんですね。アフガニスタンに対する軍事力行使にも国連はおおむね付いてきた。しかし、2002年のイラクの問題になると、米国が考えているテロの脅威はとても強くて、軍事行動に出ようという時に、国連を巻き込もうとしたけど成功しなかったんですね。フランスが拒否権をちらつかせたといわれていますが、米国は多数派工作ができなかった。それで結局、国連を経ないで軍事行動に出てしまった。そこから国連の危機が来た。
 超大国の米国が国連を十分に巻き込んで軍事行動を取れなかった。それじゃあ安保理の意義は何なのか、軍事力の使用というものの合法性とは何なのか、本当に大きな基本問題になったんです。
 
 ――米国は9・11で変わったんでしょうか。
 緒方氏 私も見たのですよ。家の窓から、飛行機がビルに飛び込んで火事になったところを。米国は本土をやられたことのない国です。どんなに強い軍隊を持った国でもテロの脅威は深刻だと、私はその時思いました。
 
 ――国連改革は、米国と国連の問題でもあるわけですね。
 緒方氏 やはり二つあるわけです。どうやって米国の絶対的な力を国連の中に巻き込むか。もう一つは、米国がいろんな形で行動する時に、時には是正し、時には沈静化し、時には合意する過程でどうやって国連は歩み寄るかという課題ですね。ただ米国がけしからんからやろう、なんてそんな簡単な議論ではないんです。どうやって米国を組み込むか。そのために国連側でどういう改革が必要かという2段構えなんです。
 
 ――これまで国際組織の改革や創設は戦争の後に出てきました、今回もそういう節目に当たるのでしょうか。
 緒方氏 当たるんだと思いますね。当たるけれども、今すぐ(国連の)崩壊というのは避けたいと。米国もイラクでの軍事行動の収拾を考えた時には国連にそれなりの役割を果たしてもらわなくてはならないという状況は出てきていますね。だから、このごろは「国連もいろんな形で入れ」という議論になっている。まあ「入れ」と言った時に、自分の思うように入れというのと、もう少し相談しながら入れというのではニュアンスは違いますが。
 
 ――日本の常任理事国入りについてはどうお考えでしょうか。
 緒方氏 私はなるべきだと思いますよ。なったらいいと思います。というのは日本は19.5%という分担金を国連に出している。もともとはお金のことは総会で、平和と安全は安保理となっていたんですけど、平和維持活動の方は安保理が決めてますでしょ。安保理が決める財政の範囲が非常に広くなっているんです。日本はかなりまじめに紛争の解決や開発問題に取り組んできた大国なんですから、大国として入って責任を果たすのはいいことだと私は思っています。難民問題でも、根元にある政治的なものに影響力を持ちうるのは安保理しかないんです。
 
 ――小泉純一郎首相は「日本がいざ侵略された場合、国連が日本を守ってくれるかというと、そうでもない」と発言したことがあります。
 緒方氏 軍事力だけに頼った安全保障というのは単純過ぎると思います。イラク戦争はまさにそういうことを示したんじゃないでしょうか。あんなに軍事力で一時勝っても、治められない。その大きなレッスンが目の前にあるんじゃないでしょうか。軍事技術を使わなくても済むような状況を作るためには、多くの外交と、集団安全保障を築く知恵が必要なんです。
◇「サダコ頼み」では済まない
 今年は、日本外交にとってかなり忙しい年になりそうだ。
 昨年末に「誠意ある回答が示されなければ厳しく対処する」と言い切った北朝鮮との交渉は、国民注視の的だ。春先には大きなヤマ場を迎える可能性がある。
 米国とは、在日米軍の再編協議が待ち受けている。イラク情勢の行方と絡んで、日米の結びつき、安全保障の枠組みに重大な変化をもたらしかねないテーマだ。
 北方領土問題では、年内に訪日予定のプーチン露大統領が盛んに「2島限定」のボールを投げている。見方を変えれば、先方が決着を意識している証しでもある。それを逆手に取って有利な立場を獲得するような戦略がほしい。
 そして、これらの難題以上に総合力を必要とするのが、国連安全保障理事会の改革、すなわち日本の常任理事国入りである。
 ハイレベル委員会の報告に基づき、アナン国連事務総長は3月に改革案を出す。「国連の危機」を唱えた張本人だから、安保理の拡大を訴えるのは確実だ。9月には国連改革の首脳会合が予定されているため、日本など候補国にとっては3月から9月までの期間が勝負どころになる。
 国連憲章の改正は、総会での3分の2以上の賛成が要件。つまり加盟191カ国のうち128カ国が賛同しないと実現しない。
 日本は八方美人になる器量も必要だし、時にはからめ手も求められるだろう。新安保理メンバーの有力国には、それぞれライバル国がいるから、双方による多数派工作が繰り広げられる見込みだ。
 国連のような国際機関の創設、国際秩序の再編は必ず大きな戦争が起点になってきた。今回のように世界的な戦争を経ないで安保理改革を成し遂げられるかどうかは、現代史の実験でもある。
 外務省は「節目の今年を逃したら今後10年はチャンスが巡ってこない」と主張するが、他方で「カギを握る米国が本気になっていない」と冷めた見方もしている。
 もしも、国連改革が最優先であるなら、日本は必死で米国を動かさないといけない。そうしないのは、日本が日米関係を損なわない範囲でしか国連とのかかわりを考えていないからだろう。
 ハイレベル委の報告書には、新常任理事国の選定条件として国連分担金など日本に有利な基準が示されている。これは緒方貞子氏の10年間に及ぶ国連難民高等弁務官としての「国際的な信用力」に負うところが少なくない。しかし、これからは「世界のサダコ」に頼れない局面を迎える。
 
*1)ハイレベル委員会
 国連事務総長の諮問機関として03年11月に正式発足。アナン・パンヤラチュン元タイ首相を委員長に有識者16人で構成。米国からはスコウクロフト元大統領補佐官、中国からは銭其シン前副首相、ロシアからはプリマコフ元首相が選ばれた。
*2)安保理改革A案
 常任理事国を新たに6カ国(アフリカ2、アジア太平洋2、欧州1、米州1)、非常任理事国を3カ国増やして13カ国にする案。
*3)安保理改革B案
 常任理事国の拡大は行わず、任期4年で再選可能な準常任理事国を8カ国(アフリカ2、アジア太平洋2、欧州2、米州2)設け、非常任理事国は1カ国増やして11カ国にする案。
*4)ラザリ案
 97年3月に総会議長兼国連改革作業部会議長だったラザリ・マレーシア国連大使が提案した改革案。常任理事国を5カ国(アジア1、アフリカ1、南米1、先進国2)、非常任理事国を4カ国増やし、安保理を24カ国にする。総会に上程されないままだった。
*5)武力行使のガイドライン
 「脅威が明白で深刻か」「あらゆる非軍事手段は検討されたか」「武力行使の結果が状況を悪化させないか」など5項目を提示している。
◇緒方貞子(おがた さだこ)
1927年生まれ。
聖心女子大学卒業。米カリフォルニア大学大学院修了。
上智大学教授、国連難民高等弁務官、アフガニスタン支援日本政府特別代表等を歴任。
現在、国際協力機構(JICA)理事長。
 
 
 
 
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