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1993/02/20 産経新聞朝刊
【水平垂直】ガリ総長来日が問いかけたもの 「国連協力」分岐点に
 
 国連のガリ事務総長は五日間の訪日日程を終え、十九日、離日した。滞在中にガリ氏が訴えたのは、国連が冷戦後の新国際秩序構築に積極的にかかわる決意と、国連の現状に対する危機感だった。そのうえで日本の協力を「グローバル」に拡大するよう繰り返し求めた。しかし、宮沢首相の答えは「憲法の枠内での最大限の協力」であり、「カンボジア優先」にとどまった。ガリ氏が、日本の国連協力に問いかけたのは何だったのか。
(羽成哲郎)
◆行動する事務総長
 「十分間ソマリアのことを考えたら、次の十分はユーゴのことを考える。その次は別のことだ」−。十六日の皇居での午さん会で、ガリ氏は事務総長の多忙ぶりを、柿沢外務政務次官にこんなふうに表現してみせた。
 東西冷戦の終結でたががゆがみ、各地で続発する地域紛争。麻薬、難民なども加わり、国連が直面する難問は山積している。国際平和における国連の重みは増し、それに伴って事務総長もかつてないほど注目されている。
 宮沢首相も、自ら筆を入れた歓迎晩さん会(十六日)のスピーチで「国連創設以来の転機」と表現し、「ガリ氏の実績は行動主義者の名にふさわしい」ともちあげた。
◆事務総長の真意は
 日本政府が今回の来日にあたって神経をとがらせたのは、ガリ氏が提唱した「平和への課題」、特に武力行使を伴う「平和執行部隊」にどのように対応するかだった。
 宮沢首相は会談で、ガリ報告書を前に置き、「よく読みました」と切り出し、「憲法」に再三言及、先手をうって、平和執行部隊には参加できないことを間接的な表現で伝えた。
 これに対しガリ氏は意外にも「平和への課題」に触れず、「PKO(平和維持活動)は国連の活動の二割で、八割はほかのこと」と日本の事情に理解を示す姿勢さえ示した。だが、同時に「アフリカや中南米にも目を」と、グローバルな貢献を繰り返し要請した。真意はどちらにあるのか。
◆投げられたボール
 首相周辺は「ガリ氏の意識の中で平和執行部隊は数ある事柄のひとつにすぎない」と、首相の姿勢が理解されたと歓迎している。
 しかし、ガリ氏が直接的な要請を避けたのは、「内政干渉はしない。何をするかは日本が決めること」と判断したからであり、「ボールを投げられた」と受け止めるべきだとの見方は強い。会談の同席者もモザンビークへのPKO派遣に関する首相とガリ氏の姿勢は「明らかに違っていた」と認めている。
 日本のPKO協力がカンボジアという「アジア」にとどまるか、それともモザンビークへの派遣が実現して「グローバル」になるのか。「国連協力の分岐点」を迎えており、首相の決断は日本の国家としてのあり方を問うものになる。
 
 
 
 
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