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1994/09/29 読売新聞朝刊
常任理入り 国連と日本国内に“温度差” 加盟国は熱い視線
◆事務局「非軍事」論議に戸惑い
 【ニューヨーク27日=吉田信三】日本の国連安全保障理事会常任理事国入り問題は、河野洋平外相の二十七日の国連演説でひとつの節目を迎えた。外相演説に対する各国の反応もおおむね良さそうで、国連の関係者によると、加盟国の間では程度の差はあっても、利害、打算、思惑から、日本の常任理事国入りに熱い視線を送っているという。それだけに日本に期待する「国連の現場」と、ややもすれば期待の大きさに戸惑いがちな「日本国内」との温度差は意外なほど大きい点がはからずも浮き彫りにされたと言えそうだ。
●思惑交錯
 二十七日に開かれた河野外相とアフリカ諸国外相との昼食会であいさつしたコートジボワールのアマラ・エシー外相(国連総会議長)は「日本は常任理事国になる資格は十分ある」と熱っぽく語った。その上で「アフリカにもそれにふさわしい地位を与えるべきだ」ともつけ加えた。常任、非常任理事国を増やすなら、常任理事国にアフリカ代表も入れるべきだとの主張だ。
 日本を喜ばすために「日本支持」を言っているわけでは決してない。「欧米偏重」「非民主的」と現在の安保理のあり方を厳しく批判する第三世界諸国は、日本やドイツを前面に出して安保理の改組を狙う。
 逆に米国などは、冷戦崩壊後、増え続ける国連平和維持活動(PKO)費の負担を日独に肩代わりさせようとして両国の常任理事国入りに熱心だ。当初、既得権意識の強かった英仏にも「南」が勢いを増す前に安保理を改組した方が得との計算が働いているという。
 ところが各国要人の「日本支持」発言が最近とみに増え、背後に外務省の根回しを感じ取る向きも少なくないだけに、こうした各国の思惑がきちんと国民に伝わらず、かえって日本が突出している印象を与えているきらいがある。
●軍事・非軍事
 国連事務局の関係者が一様に戸惑いを見せるのが、日本で行われている「軍事貢献と非軍事」をめぐる論議だ。国連憲章四七条が定める軍事参謀委員会への参加問題で、「国連創設直後には頻繁に会合を開いたが、現在は月一回、顔合わせ程度にしか開かれない」と語るのは、同参謀委の関係者。参謀委は、国連が各国と特別協定を締結して作る「国連軍」が誕生して初めて機能する仕組み。米国は軍の指揮権を国連に移譲するのを嫌い、「国連軍」も「参謀委」はもはや有名無実化した存在との見方が一般的なだけに、参謀委の扱いがなぜ深刻な問題になるのかが理解できないといった様子だ。
●見通し
 政府は国連創設五十周年の来年、安保理改組をめぐる各国間の原則合意ができることを期待している。
 安保理の改組には、常任理事国五か国の賛成を含め、加盟国(百八十四か国)の三分の二の賛成が必要だ。常任理事国ではロシアと中国が、日独の常任理事国入りについて態度を明らかにしていない。仮に中ロ両国が賛成に回っても三分の二の賛成を得て安保理が改組されるには「三―四年はかかる」(外務省筋)と言われ、常任理事国入りは早くて九〇年代後半になるとの見方がもっぱらだ。
 
 
 
 
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