日本財団 図書館


2003/03/13 毎日新聞朝刊
[社説]イラクと国連 常任理事国は連帯責任果たせ
 
 イラクの大量破壊兵器査察問題で国連安全保障理事会の中間派6カ国は11日、30〜45日間の期限を切って査察延長を認める妥協案を提示した。
 この問題で安保理が抜き差しならぬ状態に陥った最大の原因は、5常任理事国の不一致にある。米英は17日期限の修正決議案を求め、仏露は「どんな状況でも拒否権を行使する」と譲らない。このままでは米英が表決を強行して、有志連合だけで武力行使に踏み切る恐れも高まっている。
 そんな中で出てきたのが中間派の案である。具体的な延長期限は別として、米英も仏露も、常任理事国に課せられている重大な責任について今一度、振り返ってみるべき時ではないか。
 同日始まった非理事国の公開討議でも、直ちに武力行使することに反対する意見が大勢を占めた。一方で、イラクの誠意を見定めずに査察を続けるのも国連決議の精神に反する。昨年の決議1441は明確に「即時、無条件、積極的」な大量破壊兵器の完全武装解除をイラクに命じている。
 「今すぐに」には疑問を持ちつつも、だらだらと決議履行が先送りされるのも看過できない。――国連加盟諸国の発言を見る限り、国際社会の大勢はそのあたりに収束しつつあるようだ。
 だとすれば、安保理としての意思決定を妥当な線にまとめあげる第一の責任は、米英仏露中の常任理事国にある。
 冷戦時代の一時期を除いて、安保理ではおおむね常任理事国が協調して流れを作り、世界を説得してきた。「イラク対国際社会」の構図がいつしか「米英対仏露」にすりかわった。そんな今回の事態は異例だ。「武力行使か、否か」の重い決断を、回転ドアのように2年交代で替わる非常任理事国の手に委ねる結果を招いたのは、5大国の責任放棄ではないか。
 米英が安保理の了解なしに武力行使に走れば、その正当性を失うばかりか、世界の平和と安全を託された安保理の権威をも深く傷つけることは確実だ。
 だが、仏露があくまで拒否権を行使して米英案を葬ることに固執すれば、批判は仏露にも向かうだろう。中間派の妥協案は、仏独露が米英に対抗してぶつけた「4カ月延長」案にも同意できないとの意思表示でもある。
 アナン国連事務総長は、米英の突出を戒めると共に、仏露の拒否権行使も「安保理の団結によくないことだ」と述べた。何よりも、イラクに誤ったメッセージを送ることは避けたい。
 理事国の多数が納得できる査察期限を設け、完全武装解除に不可欠なベンチマーク(判定基準)を定めるのも一案だ。各国にアイデアを求め、必要なら常任理事国の首脳級調整会合があってもいい。
 日本政府もそうした方向に全力を投じてしかるべきだ。結束して行動するために、常任理事国は最後まで外交を尽くし、協調しなければならない。国連を敗者にしてはならず、その責任は5大国が連帯して負うことになる。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION