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1995/10/18 毎日新聞朝刊
[国連50年]期待と限界/3 ロシア 「西側主導」を警戒 大国の存在感薄れ不満
 
 「安全保障理事会、特に常任理事国同士の協力関係を改善する必要がある。国際問題の解決を一つの国ないしグループで独占し、国連を強化するのでなく軍事同盟に固執しようとする試みは、冷戦と同様、世界の一体性と安保理の作業にとって危険となりうる」。ロシアのコズイレフ外相が九月二十六日、国連総会で発した警告は明らかに米国および北大西洋条約機構(NATO)諸国を念頭に置いたものだった。
 国連が旧ユーゴスラビアの紛争から手を引き、NATOに実権が渡ろうとしている。しかもその「密約」は安保理常任理事国であるロシアに秘密で行われていた。外相演説はロシアの不満をぶちまけ、改めて国連主導の平和維持活動の重要性を喚起するものだった。しかし、同じ日に演説したクリストファー米国務長官は、平和維持ではなく経済・社会分野の活動こそ今後の国連の優先課題であると主張。米露間の国連への期待の違いを鮮明にした。
 「一九五〇年の朝鮮戦争でソ連は国連軍の介入に反対した。ソ連にとって国連は(西側との)対決の道具でしかなかった。今ロシアは国連軍に兵員を派遣し、国連の権限強化を訴えている」。七四―七九年に国連広報部に勤務したセルゲイ・グリプコフ氏(62)は述懐する。
 国連在勤当初、ソ連国家保安委員会(KGB)との関係を疑う他国の同僚の誤解を解くのに苦労した。誕生日のパーティーに亡命ロシア人の友人を招待したら、これを知ったソ連大使館の外交官が憤然と席を立った。国連からの月給の三分の二はソ連外務省に取り上げられ、「実際の給与は九百五十ドルで秘書より低かった」と苦笑する。
 こうした不自由さは過去のものとなった。同時に東西対立の時代が終わり、世界平和で国連の役割が増すと期待された。しかし、現実に崩れたのは東側の軍事ブロックのみで、NATOは逆に強大化し、欧州をのみ込もうとしている。唯一の大国のあかしとしてロシアに残されたのは国連安保理常任理事国のいす。しかしソマリア、旧ユーゴで国連の平和維持活動は挫折し、ロシアの期待は裏切られつつある。
 「ロシアも国連も西側の評価以上の潜在力を持っている。西側は古い敵味方思考から早く脱却すべきだ」。だがグリプコフ氏にも、あるべき「新しい国連」の具体像はまだ浮かんでいない。
(モスクワ・大木俊治)
 
 
 
 
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