1997/10/18 朝日新聞朝刊
アナン改革に財政難の重荷 内向き米の説得カギ 国連総長会見
【ニューヨーク17日=亘理信雄】日本の拠出金削減から、アフリカの紛争に対する最近の安全保障理事会の消極的な姿勢まで――朝日新聞記者と十六日に会見したアナン事務総長が置かれている状況は、冷戦直後の国連の高揚期が去った後の難しさにほかならない。事務総長は、足場固めの第一歩となる国連改革の年内実現に全力をあげている。が、国連の財政難解消の見通しは立たず、開発支援を削られるのではないかという途上国側の不満の広がりが、その行方に影を落としている。
「ええ、もちろん」
いつもの静かな口調が、変わった。「日本の拠出金削減は、改革全体にも影響するのか」と尋ねたときだった。
事務総長は、先月始まった国連総会を自ら「改革総会」と名付け、曲がり角にある国連を二十一世紀に向けて立て直そうとしている。その環境の厳しさが、このときに垣間見えた。
前任者のガリ氏は一九九二年一月、就任し、新しい平和維持活動(PKO)に積極的に取り組んだ。が、翌年のソマリアでの失敗を機に、大きく膨らんだ理想はしぼんでしまった。今年一月に就任したアナン事務総長には、後に残ったさめた現実にどう立ち向かうかが問われている。
まず目指すのが、「国連史上最も包括的」という「アナン改革」だ。ぜい肉を落とした機能的な国連への再生案を、国連官僚出身の初の事務総長として手堅くまとめた。
総会演説での各国の支持も多い。だが、百八十五もの加盟国の国益が衝突する場だけに、改革案がそのまま通るとは限らない。とくに、開発支援をめぐる途上国の懸念は強い。そこに、日本が途上国援助と国連機関への拠出金を大幅に減らすという動き。このことについてアナン事務総長は会見で「不幸なことだ」と語り、改革全体に響くという危機感を抱いていることを強調した。
アフリカの紛争は最近の安保理の議題の七割を占めている。しかし、利害関係の薄い「遠くの紛争」にPKOを送ることに先進国がためらうようになった。フランスのように、財政赤字減らしが至上命令になる中でアフリカから軍を撤収している国もある。
途上国の不安をぬぐうには、財政基盤の確立が急務だ。しかし、最大の未払い分担金を抱える米国が、その支払いに分担率の引き下げなどの難題を突きつけている。
それでも、国連運営のかぎを握るのは、やはり最大の影響力を持つ米国との関係だろう。財布のひもを握る米議会の内向き志向は強く、国連離れはそう簡単には改まりそうにない。だが、その一方で、唯一の超大国として国連での影響力を確保しようとする力学も働く。
事務総長は、「改革に不熱心だ」としてガリ氏の再選を拒んだ米国に後押しされて就任した。「その米国をさらにどう説得していくかに、アナン国連の今後はかかっている」とニューヨーク市立大学国連研究所のリブリン所長は指摘する。
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