1995/10/24 朝日新聞朝刊
新たな国連像、焦点結ばず 50周年総会に不信感の影(時時刻刻)
「ここがあなたたちの家だ。国連の運命は、あなたたちの手の中にある」。ドアマラル総会議長が高らかに宣言し、ニューヨークの国連本部で二十二日、始まった創設五十周年記念総会。テロを警戒した厳戒態勢の中で、世界各地から集まった元首、政府首脳が次々と演壇に立ち、国連の過去の活動をたたえ、将来への期待を語っている。しかし、深刻な財政危機とその根底にある国連活動への不信感が、この総会にも影を落としており、新たな国連像を見いだし得ない国際社会の重苦しさを反映している。
(ニューヨーク=佐藤和雄、上治信悟)
●米に風圧高まる
「加盟国は国連を最優先のものとして扱っていない。これがこの記念総会で報告する悲しいニュースです」。ガリ事務総長は二十二日の開会演説を財政危機問題で締めくくった。「国連に堅い財政基盤を与えてほしい。年末までに何らかの対応がなければ、財政危機を扱う特別総会の開催を真剣に考えてほしい」
分担金未払いによって財政危機をもたらしている米国に向けた発言といえる。事務総長に続いて登壇したクリントン米大統領は、「分担金は完全に支払わなければならないと決意している」と約束した。
しかし、クリントン政権は、国連活動に批判的な議会を説得できず、「米国からは、いつ払えるかどうか分からないと言われている」(国連事務局幹部)という状態だ。記念総会の前日のニューヨーク・タイムズ紙は「国連創設者の米国、今や国連に最大の債務」との見出しで、米国の未払いが加盟国の不満を募らせていることを報じた。
クリントン大統領の約束を聞いていたボスニア・ヘルツェゴビナのラジオ放送記者は「国連の金が一番使われているのは私の国だ。クリントンが言ったことを信じるよ」と語った。
しかし、フランスのリベラシオン紙記者は「カネの支払いは、クリントンが決めるんじゃなくて、議会が決めるんだ。自分自身で約束は果たせないよ」。スペインの日刊紙記者も「クリントンとガリはともに、『カネなし、手勢なし、アイデアなし』だね」と冷ややかだった。
●こだわるアラブ
二十四日に採択されることになった記念宣言の案文づくりのもたもたぶりも、加盟国が新たな国連の姿を描ききれていない現状を見せつけた。非公開で進められていた作業グループによる案文づくりは、期限となっていた二十日夜になっても決着せず、記念総会前日に持ち込まれた。
最大の争点は、「民族自決権」に関連して、外国の支配を受けている人々が抵抗する権利をどのように表現するかだった。イスラエルにゴラン高原など国土の一部を占領されているシリアなどアラブ諸国がこだわった。前日の会合に提出されていた宣言案はまったく触れていなかったため、二十日の改定版は「人々が国連憲章と調和のとれた合法的な行動を取る行動を認める」となった。
これにも、シリア、レバノン、リビアの三カ国が「外国支配に抵抗する人々の権利を再確認することは重要だ」(リビア代表)などと反対。二十一日の記念総会準備委員会は、記念宣言案に対する各国の意見をまとめた報告書を総会に提出するという条件で、ようやく全会一致で承認した。
十年前の四十周年記念総会では、パレスチナ問題をめぐり米国とアラブ急進派が対立し、採択できなかった。それから見れば前進とも言えるが、そもそも案文の内容自体は「目新しいものはない」(国連外交筋)。国連事務局内では「大した内容でもないのに、必死になってまとめようとする力が働かないからもつれた」との見方が多い。
○NYの要人警護は「史上最大級」
元首、政府首脳だけで百五十人以上が集まったニューヨークでは、「史上最大の要人警護」が展開されている。
米国では、今年四月にオクラホマ州で連邦政府ビルが爆破された事件の記憶がまだ生々しい。犯人との関係をとりざたされる武装民兵は、連邦政府とともに国連を嫌悪している。警備当局は爆弾テロを警戒して国連本部ビルの周りを通行止めにし、においで爆弾のありかをつきとめる犬が警察官とともに周辺を動き回った。本部ビルが面したイーストリバーには二十隻以上の警備艇が出動し、ヘリコプターも警戒に当たった。
通行止めは、元首や首脳が宿泊したホテル付近でも相次ぎ、一般の人たちは思うように進めない。「国連の五十周年は結構だけど、こう通行止めが多くては」とタクシー運転手のロドリゲスさん(四七)はこぼしていた。
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