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私はこう考える【国連について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1995/01/12 朝日新聞朝刊
国連創設50年、その可能性と限界
 
 「国連信仰」という言葉がある。英語で「UN・ユーフォリア」という。国連は何でもでき、国連のやることは何でも正しい、という見方をいう。日本に多いようにみえる。一方、「国連嫌悪」という言葉もある。「UN・フォビア」と表現される。国連などどうせ何もできない、などという見方をいう。米国に多いようだ。冷戦後のこの数年、国連は二つの間で揺れた。が、おそらくどちらの極端な見方も正しくない。今年は国連が創設されて五十年。第二次世界大戦後にできた組織がいまの世界でも通用するのかどうか。その可能性と限界を冷静に考える時であるように思える。
(小田隆裕 ニューヨーク支局長)
○安保理の現状 “過去の産物”批判も
 一月五日、ガリ国連事務総長は、安保理に送った国連改革案「平和への課題」補足版の中で、武力行使を前提とした「平和執行」を事実上、断念する考えを示した。その後、国連で記者会見したガリ氏は「国連には平和執行をする能力がない」といった。「平和執行」の失敗はソマリア紛争で明らかだったが、ガリ氏が公式に認めたことで、国連関係者は「冷戦後の国連」の一つの答えが出たことを感じた。この日は、ガリ氏の「国連信仰」が終わった日でもあった。
 国連研究の第一人者といわれるニューヨーク市立大学ラルフ・バンチ国連研究所のベンジャミン・リブリン教授は「国連は、その能力に対して欲張り過ぎた。国連に対する期待も、根拠もなく高すぎた」と語った。「ボスニア紛争をみたまえ。安保理がいったい、いくつの決議を採択したか。しかし、具体的に何も変わらなかった。行動で示さなかったからだ。我々が学んだのは、安保理には軍隊も軍事力もない、安保理はそういうものを動かす組織ではない、ということだ」
 デクエヤル前事務総長時代の事務次長補だったジャンドメニコ・ピコ氏は「国連は『過去』の側面と、『未来』の側面を併せ持った組織だ。国連憲章は過去の体験から、侵略に集団で対処する『集団安全保障』が重要だとして安保理を生みだした。安保理は基本的に戦勝国の組織であり、ウィーン会議だ。『過去』の産物だ。それがいま、問われている」という。「ウィーン会議」、つまり「大国による力の平和」が機能するのかが問われている、という意味である。
○なぜ機能しない? 曲がり角の集団安保
 リブリン教授は「国連は加盟国に頼るしかない組織だ。平和維持活動(PKO)は加盟国が積極的に支えなければ難しい。世界は相変わらず警察官を必要としている。問題はだれが行動するかだ。湾岸戦争はだれが行動したのか。米国だ。ソマリアは? 米国だ」という。米国の国連関係者も「ボスニアも、米国がリーダーシップをとらなかったから動かない」と話す。
 国連が何もやらなかったわけではない。冷戦後の民族紛争に対して、「実験」をしてきた。そのひとつが、「国連と地域機構との協力」である。ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争では人道援助をたすける役割を国連保護軍が担い、空爆など「武力行使」を北大西洋条約機構(NATO)が担った。が、国連とNATOとの亀裂、NATO内部の亀裂を生み出した。
 リブリン教授は「地域機構は国連よりなお弱い組織だ。紛争に近すぎて、紛争当事者どちらかの見方になってしまうからだ」という。ボスニア紛争で世界が見てきたのは、調停者として、できるだけ「力」に頼らず中立であろうとする国連と、「力」を示そうとするNATOとの摩擦もさることながら、歴史的なつながりなどからセルビア人勢力に同情的な英、仏、ロシアと、ボスニア政府(モスレム人主導)支持の米国との亀裂でもある。ピコ氏は「国連とNATOの結婚は失敗だった。国連が調停者になるなら、ナイフとフォークを同時に持ってはいけない」といった。
 しかし、おそらく問題はそれよりももっと深い。国連憲章の起草者たちが立てた「集団安全保障が機能する」という仮説が正しいのか。そうだったとしても、当時想定したのとは全く違う事態が起きているのではないか。リブリン教授は「湾岸戦争は国連加盟国である主権国家が武力で侵略された明確なケースだった。旧ユーゴやソマリアは明確な侵略ではない。国連憲章は民族紛争について何も言っていない」という。
 昨年十二月二十三日、第四十九回通常総会の年末休会を宣言する演説で、アマラ・エシー総会議長(コートジボワール外相)は「冷戦終結で生じた国連信仰はいま、酔いざめの気分にとって代わられた。それは主に、サンフランシスコで作られた国連憲章の集団安全保障システムがさまざまな国連活動で失敗したことからきている」と言い切った。ピコ氏がいう「過去」の産物である安保理が、いまの民族紛争に対応できる組織ではない、という認識である。この演説は、各国外交官らの胸に鋭く響いた。
○何ができるか 「予防外交」に効果を期待
 リブリン教授は「世界には紛争の芽がたくさんある。これは国連が全部やるべきことか。国連はたいしたことはできない。国連がいま、やるべきことは予防外交だ。ソマリアも、紛争がケニアやエチオピアに拡大する可能性はあったが、そうなっていない。多少の効果はあったのだ」と、過大な期待を戒める。
 ピコ氏も予防外交の重要性を挙げ、その中での非政府組織(NGO)の役割に注目する。「モザンビークの和平協定はカトリックのNGOによってもたらされた。同じNGOがいま、モンテネグロのアルバニア人とセルビア人の間で調停作業をしている」という。武力や兵力に結び付きがちな、国家や、国家間の組織である国連の限界を乗り越えて、「国家」という「道具」をもたない組織や個人の方が活躍しやすいのではないか、という考えである。あらゆる紛争は原因も歴史も違うし、武力が必要なケースも当然ある。国連との連携なしにNGOの活動が生きない面も多いが、ひとつの示唆ではある。
○日本の姿 存在感なお希薄で「票集め」に奔走
 日本は国連でどのような存在なのだろうか。
 「率直にいって目立つ国でない」と米国の国連関係者はいう。それは、日本が安保理の常任理事国でないからではない。安保理に入っていなくても、スウェーデンなど北欧諸国やカナダは国連で存在感は大きい。「PKOでも、要員を出すだけでなく、積極的に国連に提案や相談をする」(国連筋)。もちろん、これらの国々は、国連という外交の場を利用することが国益にかなうからでもある。
 日本の存在感は「残念ながらまだ、お金だけといえる」と国連筋は話す。演説で、「日本はお金を出す用意がある」ということが多いので、「ミスター・ファイナンシャル・インプリケーション」と皮肉られた大使もいる。
 かつて日本の外交では「対米協調」「アジア重視」「国連中心主義」が強調された。しかし、実体は「対米協調」だけで、「アジア重視」はしばしば、「対米協調」という横綱の露払いであり、「国連中心主義」はお題目でしかなかった。
 いま、日本の外交の目標は「安保理常任理事国入り」しかないようにみえる。が、これは複雑な要素を抱えている。そもそも「常任理事国入り問題」には二つの「要請」がある。一つは米国の、もう一つは途上国や非同盟諸国の要請である。二つの要請は、方向が相反する。米国は基本的に現在の常任理事国の特権を保ちつつ、日独両国に「役割分担」を求めるために、常任理事国入りを支持する。一方、途上国は、第二次大戦の戦勝国で「北」に偏った各国によって構成されているいまの安保理の「民主化」を求めている。日本を支持するとすれば、その役割を求めているからにほかならない。
 最近、ニューヨーク大学で開かれたシンポジウムで、マレーシア代表は「新たな常任理事国は、まず日独ありきじゃない。決まったわけではない。日本の常任理事国入りも、総会一般演説でアジア諸国の支持がなかったでしょう」と発言した。
 日本政府はいま票集めに精を出している。財政難の国連で、相反する「二つの要請」が一致するのは、日本の金の力は必要だ、ということだ。票集めだけなら当選は可能だろう。しかし、ピコ氏がいうところの「過去」の産物が機能しなくなりつつあると受け止められている中で、「新しい時代に通用する安保理とは何で、そこに日本はどういう形で参加するのか」の構想は、まだ示されていない。
 
 
 
 
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