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私はこう考える【国連について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1994/09/21 朝日新聞朝刊
常任理事国の責任を日本は負えるか 国連安保理問題
 
 日本が国連の安全保障理事会常任理事国に立候補することに慎重だった村山政権が、にわかに積極的になったように見える。「非軍事」ならいいのか。「非軍事」と言っていれば通用するのか。この間に一体、だれが、どこで、どんな議論をしたのか。首相は、河野外相は国民にきちんと説明をしたのか。日本の針路を変えうる問題で、政治は責任をもっているのか。
(小田隆裕 ニューヨーク支局長)
◆安保理事会とは
 安保理は常任五カ国と非常任十カ国からなる。が、その本質は、米国、英国、フランス、ロシア、中国の常任五大国が支配する世界である。安保理に出されるほとんどすべての決議案は、まずはじめに舞台裏で五大国が合意しないと、十五カ国が集まる非公式協議(非公開)にも出されない。五大国協調になった冷戦後、安保理では大半の決議がすんなりと決まる。
 もっといえば、安保理は米、英、仏三カ国が牛耳っている組織である。「まず、我々で話を決めてからロシア、中国と相談しますね」とは、これらの国の某大使がごく当然のように語った言葉だ。もっとはっきりいえば、安保理は、米国が支配している。安保理だけでなく、国連そのものもそうである。米国が「ノー」といったら動かない。
 ごく最近の例を挙げよう。米国の国連平和維持活動(PKO)の分担金は三〇%と決められているが、米国は二五%に引き下げるよう求め、「もし国連が引き下げなくても二五%以上は支払わない」と宣言した。国連はやむなく今度の通常総会で、PKO予算の配分について議題にする。
◆常任理の権利
 「常任理事国の権利と責任を新たに負うのか、負わないのか、国民に正しい認識をもってもらうことが大事だ」(八月二十九日、河野外相がニューヨークで日本人記者団に)
 常任理事国には、どういう権利、利益があるか。
 安保理が国連の主要な問題の決定権をもつ以上、それに参加することは発言権が増し、影響力を持つ。重要な情報も安保理に集まる。
 特に常任理事国の場合、国連憲章で、拒否権と、五大国全部が批准しない限り、憲章改正が出来ないという特権が与えられている。
◆常任理の義務
 「憲法や政治的な理由から制約がある加盟国には、軍事的貢献は義務ではない」(ブトロス・ガリ国連事務総長、八月三十日、日本人記者団との会見)
 では、常任理事国には、どんな義務があるか。国連憲章には何も規定はない。もともと、第二次大戦の戦勝国が常任理事国になった当時の力関係をそのまま持ち込んだにすぎないからだ。憲章上からいえば、憲法や政治的な理由があろうがなかろうが、義務はない。だから、ガリ氏の発言は正確でなく、日本向けの政治的発言といっていい。
 それに、仮に義務があっても、ガリ氏にそれを決める権限はなにもない。ガリ氏は国連事務局の長にすぎず、安保理は事務総長の決定で動いているわけではない。日本ではガリ氏が何か発言すると、それを「神の声」のように受け止め一喜一憂する傾向があるようだが、国連内部ではその都度、日本人の過剰反応が話題になるほどだ。
 ガリ氏には当然、その立場と計算がある。いま、国連は続発する地域、民族紛争に対応できるだけの人的、資金的能力がない。ガリ氏は、日本を常任理事国にすることで、そうした能力を引き出そうとねらっていることは明らかだ。
 「もともと常任理事国に軍事的義務はない。国連憲章をみてもそう書いてあるところは一カ所もない」(九月十八日、河野外相)
 では、国連憲章に具体的な義務規定がないから、義務がないのか。とんでもない。もし、外相が本当にそう考えているとしたら、世界で笑われるだろう。
 憲章には、「国際の平和及び安全の維持に関する主要な責任を安全保障理事会に負わせる」とある。特権をもつ常任理事国には当然、それに見合う政治的、道義的責任がついて回る。「当然、軍事貢献を求められる。それは安保理や紛争関係国から要求される。どういう責任を果たすかを判断するのは日本自身だ。その判断が出来るのが常任理事国だ」(国連筋)
 PKOひとつとってもそうだ。冷戦時代、常任理事国は、PKOにはほとんど参加しなかった。東西対立の中で、大国が参加することは中立であるべきPKOを冒すとみられたからだ。
 しかし、冷戦後のいま、中国を除く各国はPKOに積極的に参加している。ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争での英国、フランス。ソマリアでの米国。国連のアナンPKO担当事務次長は、「常任理事国は、他の国よりもPKOでより多くの資金を払うことをあてにされているし、世界の平和と安全を維持する上で主導権を発揮することを求められている」といった。それは現実なのである。
◆米国の支持とは
 「我々は、日本が戦闘行為に参画できなくとも、またしないと決めても、安全保障理事国のすべての義務を果たすことができると信じる。非軍事貢献・常任理事国が問題とされることはありうるが、米国は問題にしない」(九月十六日、ベネット米国務次官補)
 「日独両国がPKOに軍事活動を含めて参加できるようになるまで、常任理事国入りは認めるべきではない」(一月二十八日、米上院決議)
 日本が軍事行動に参加しなくても常任理事国になり得るのか。米国には多様な意見がある。国務省の役人でもそれぞれ違う。だから、一喜一憂しても意味はない。その前に、どうして米国が日本が常任理事国になることを支持するのか、をもう一度、振り返る必要がある。
 米政府がまともに支持するようになったのは、クリントン政権になってからである。それは、湾岸戦争以降、米政府が国連を利用することが自国の利益に合うと考えたからだ。同政権は「積極的な多国間主義」を掲げ、国連に戻って来た。
 しかし、国連での財政負担に耐え兼ね、日本にその分担を求めるためというのが本音とみられる。
 ソマリア紛争で懲りたクリントン政権はまた、一歩、国連と距離を置き、「米国がPKOに要員を出すにあたっては、米国の利益に合うかどうかで判断する」という大統領令を出し、半身の構えをとっているが、ハイチにみられるように、いつでも都合の良いときには戻ってくるとみられる。かつてのように一国で行動するより、国連を利用したほうが安上がりだからだ。
 米国が日本を支持しているなかで、まだ、言っていないことがある。「拒否権」の問題だ。
 米国の国連政策に大きな影響力をもっている米国国連協会のエドワード・ラック理事長は「日本が拒否権をもったら、日本は大変きつい政策決定を迫られるだろう。日本の拒否権で、すべてがストップしたら日本は他の国から圧力をかけられ、米国と立場が異なったら日米関係にも問題を生じるかもしれない」と言う。
◆中・韓は沈黙
 「常任理事国入りすることを支持する。アジアの平和と繁栄のためすべての役割を担ってほしい」(八月二十七日、マハティール・マレーシア首相が村山首相との会談で)
 「マハティールさんら、アジアのリーダーのなかには、さまざまな声がある。耳を澄まして聞く」(八月二十九日、河野外相)
 日本政府は常任理事国に立候補するにあたって「アジアの声」を重視するという。近隣諸国の賛成を得るのは当然だ。しかし、ほとんどの外交は自国の利益の反映でしかない。マハティール首相の発言は「日本がアジアの代表として加わるべきだ」という意味だ。
 常任理事国としては、中国が「アジアの代表」でもあるが、そのなかで日本を推すねらいはどこにあるのか。マレーシアにとって中国はどういう存在なのか。同首相が推進する東アジア経済会議に、米国への配慮から積極的になれない日本への催促ではないのか。
 そもそも、今回の安保理改組問題は、一九七九年、大国の発言力ばかりが強いことにブレーキをかけようとした中小国が「非常任理事国の枠拡大」をねらいとして始まった。冷戦後、「常任の枠拡大」が加わり、米国は日独両国を常任に加えることで「安保理改組」にケリをつけようとしている。だから、国連筋によると、フィリピンなどは安保理改組作業部会で、「日独を出したといっても安保理改組が達成されたと思うな」とクギを刺した。
 「アジアの期待」と「米国の期待」の接点はどこにあるのか。米国市場に依存して生きている日本にとって一番大事なのは日米関係を損なわないことである。しかし、アジアの日本と米国では立脚点が違う。アジア諸国から「日本はしょせん、ミニ・アメリカ」といわれたのではどうしようもない。また、中国、韓国の事実上の沈黙をどうみるのか。河野外相は「耳を澄まして」いるのだろうか。
◆結論
 結論的に言えば、結局、日本は常任理事国にならざるを得ないのだろう。国連に金を出せる国は日本しかないからだ。
 日本政府は「非軍事・常任理事国」になるという。それは、これまでの常任理事国にない「日本モデル」を作ることになる。
 しかし、常任理事国という国際安全保障体制の中核に参加することで、国内体制、つまり憲法を変えないで本当に済むのか。あの湾岸戦争の時、日本は米国の圧力の下でどういう経験をしたか。常任理事国になれば、その圧力はもっと違う。日本はそれに耐える覚悟と、常任理事国になることで生じるであろう政治的コストを払う覚悟があるのだろうか。村山政権はそれをきちんと国民に説明しているのだろうか。朝日新聞の調査で、衆議院議員の七割が「論議がまだ不十分」としているのは極めて誠実な態度だと思われる。
 国連での安保理改組作業は来年の国連創設五十周年までには最終結論は出ないとみられている。十分に時間はある。それまでに、日本は常任理事国になって何をやるのか、準備を急がなくてはならない。日本は急ぐべきことを急がないで、急がなくてもいいことを急いでいないか。
 
 
 
 
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