「こんなことは初めてだ」。10月9日、ニューヨークの波多野敬雄国連大使は少し興奮していた。カンボジアで武装解除を拒み続けているポル・ポト派を非難する決議案が、国連安保理に提出される3日前のこと。午後、決議案を最終決定する常任理事国5カ国(P5)の大使会議に、日本が招かれたのだ。安保理には過去780件以上の決議案が出ているが、日本がP5会議に加わったことは一度もなかった。
「変化」はそれだけでない。10月7、8両日、ニューヨークで開かれたP5と関係国の非公式協議で、各国はこれまでポル・ポト派の説得に当たってきた日本とタイに、引き続き説得役を務めるよう要請した。外務省の池田維アジア局長は「もう、われわれの役割は終わった」と渋ったが、各国は「何とかもう一度」。
池田局長は答えた。「わかりました。ついては日本とタイが国際社会を代表しているというメッセージが、ポト派に伝わるようにしてほしい」。決議案に「問題解決に向けたタイ、日本両政府の努力に感謝する」との表現が入った。一連の経過を外務省に報告する電報の中で、国連代表部はこう書いた。「わが国の外交努力が評価された。かつてないプロセスだ」
カンボジア和平問題に、日本は89年7月の第1回パリ会議からかかわっている。だが、当初はP5の独壇場で、和平提案の作成でも日本はカヤの外に置かれた。「和平後の復興資金を出すのは日本なのに、和平達成の過程にかかわれないなんて」。政府代表団は不満だった。
その後、日本は2回にわたり東京でカンボジア会議を主催した。今年8月以降は、池田局長らがポル・ポト派説得のため4回もタイ、カンボジアへ飛んだ。さらに、自衛隊が国連平和維持活動(PKO)でカンボジアへ。戦後、日本外交が海外の紛争解決にこれほど深く関与した例はない。
政府はカンボジア和平協力などの実績をテコに常任理事国入りを狙う。しかし、安保理決議を受けて日本とタイが試みた説得工作は10月29日、不調のまま終わった。国際的な調整役の難しさを、改めてかみしめている。
フランス政府のある高官が最近、外務省幹部に言った。「いざというとき、日本は国連に軍事力を提供できますか。常任理事国の責任というのは重いものですよ」。やっとPKOを始めた日本に何ができるか、と言いたげだった。
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