自動車が珍しかったプノンペンに今夏、車が急増した。大半は白い車体にUNの黒文字を描いた4輪駆動車。ある日本車メーカーが国連カンボジア暫定行政機構(UNTAC)に納入した約2400台の新車だ。
別の日本の会社も今夏、約2000台の小型トラックを国連から落札した。PKO専門の販売社員が昨年からニューヨークで懸命に情報を集めた結果だ。「競争は激しかったが、うちはサービス面にも力を入れる点を買われた」。担当者は、早くも次のPKO情報にアンテナを向ける。
現在プノンペンに駐在員を置く日本の商社は約10社。この半年ほどで倍増した。経済改革の進むベトナムを偵察するねらいもある。自衛隊の宿営地タケオには最近、PKO景気を当て込んで日本人経営のビデオ店がオープンした。プノンペンには、バンコクの日本食レストランがまもなく出店。商社から零細業者まで、PKOをめぐる商戦が激化している。
国連の調達は、原則として競争入札だが、現状は、「例外」のはずの随意契約が大半。昨年まで2年間の本部契約のうち、入札は17%に過ぎなかった。要請が緊急で、入札にかけるゆとりのないPKOの調達は、国連の中でもとりわけ透明度が低い。調達の陰に、しばしば各国の「政治力」や「駆け引き」が取りざたされるゆえんだ。
今年5月、国連財政の「お目つけ役」である行財政諮問委で、カンボジアPKO予算の見積もりが問題になった。兵士の食料と水に、1人1日23.8ドルかかるという。他地域では高くても、1日14ドル。見積もりには、請負の米食糧会社が現地に建てる貯蔵所や冷蔵施設の費用まで含まれていた。委員から、「入札にすれば、もっと安くできる」と減額要求が出た。
国連イラク・クウェート監視団は、随意契約でチリからヘリコプター6機をチャーターした。「故障すればチリに持ち帰って修理する」という条件付き。「なぜ遠く離れたチリから」と首をかしげる委員もいた。
国連カンボジア先遣隊の場合には、ヘリや飛行機を無償提供したフランスが、乗組員の日当として通常の4倍の額を求めた。「加盟国は、余っている兵員や装備を有利な条件でPKOに提供する傾向がある」と、ある委員は指摘する。
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