1992/10/23 朝日新聞朝刊
はびこる官僚主義、調整つかない救援活動(国連物語:20)
国連安全保障理事会の目が旧ユーゴスラビア内戦に集中していた7月末。中東アフリカから初の国連事務総長となったガリ氏は、安保理への報告書の中にこんな一文を入れた。
「このままでは、同じように悲惨で危険な戦闘が続くソマリアなどで、地域紛争解決の力を発揮できなくなる恐れがある」
文は控えめだが、ガリ事務総長は側近に「ユーゴは金持ちの戦争だ」と不満を漏らしていたという。
「アフリカの角」のソマリアでは、人口の3分の1、約200万人が餓死寸前にある。氏族ごとの軍閥が群雄割拠し、無政府状態の中で救援食料の略奪が横行する。国連機関や非政府組織(NGO)は常に身の危険にさらされていた。
ガリ事務総長の指摘は、「忘れられていた飢餓」に対する各国の人道意識をくすぐった。翌8月、米国が軍用機で食料の空輸を開始し、仏、ベルギー、独なども続いた。NGOも次々とソマリアに乗り込んだ。
この救援ラッシュに、現地で最古参の赤十字国際委員会(ICRC)は「統制のない食料ばらまきは一層の略奪を誘発し、我々が築いた救援システムを壊してしまう」と反発。ソマリア問題担当のサヌーン国連事務総長特別代表も、救援組織間の調整に乗り出す意向を示した。
だが、国連への期待は、批判へと変わっていく。
8月末、ロンドンで記者会見した英国最大のNGO「セーブ・ザ・チルドレン」は、「国連の各機関が(飢餓対策という)共通の目標を忘れて、それぞれの手柄探しに執着するあまり、互いに対立までするぶざまな状況だ」と非難、ガリ事務総長に書簡を送り、国連のどれか1つの機関に指導権を与えるよう要請した。
その後、各国からの食料空輸は国連の世界食糧計画(WFP)がICRCと共同で調整することになった。だが、大量運送手段の海、陸送はまだばらばらだ。
アフリカ情勢にくわしいロンドンの学者グループ「アフリカ・コンフィデンシャル」が最近、報告書でこんな指摘をした。
「飢餓対策に欠かせない国連の世界保健機関(WHO)と食糧農業機関(FAO)のスタッフが、ソマリアで活動する姿をほとんど見かけない」
「官僚主義の弊害で内部の調整がつかず、救援は遅れるばかりだ」
今月中旬になって、ソマリア南部で内戦が再開、国連やNGOは救援拠点から撤退を始めた。
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