「世界の平和と幸福、繁栄のために経済発展が必要で、それには人口をコントロールしなければならない」。国連本部の信託統治理事会議場で、白髪のインド人実業家J・R・タタ氏は87歳とは思えない張りのある声で熱弁を振るった。1992年国連人口賞が同氏と米国の非政府組織(NGO)である人口評議会に贈られた9月17日のことだ。
避妊具の提供や啓もう活動をしている国連人口基金や各国から約300人が詰め掛けた。ガリ事務総長は、自ら経営する製鉄所で50年代から人口抑制運動をしてきたタタ氏にメダルを手渡し、功績をたたえた。盛大な式典は、タタ氏のように宗教や社会的慣行との摩擦に抗しながら運動を続けている人々を励ます意図があった。
「人口抑制や家族計画を掲げる国連に対する宗教界からの反撃が強まっている」と、授賞式に出席した国連職員の1人は言った。子供は神の恵みであり、人口はコントロールすべきでない、との反発は以前からあったが、最近とくにカトリックの動きが活発化。6月にブラジルで開いた国連地球サミットでは、ローマ法王庁の使者と名乗る人物が人口抑制の行き過ぎを各国代表団に説き、環境宣言の家族計画に触れたくだりが修正された、という。
「人材は開発のための資源だ」という「南」の途上国からの反発は和らいだとはいえ、なお残っている。一方で、米国政府が「人権」の立場から、「国連は、一人っ子政策を国民に強制している中国を支援している」と決めつけ、人口基金への拠出を85年から停止したことも、国連にとって頭の痛い問題だ。基金の年間予算は2億ドル強だが、米国が大統領選挙後に拠出を再開してくれれば、との願いが国連にはある。日本は4000万ドル余りで最大の拠出国だが、国民に「人口抑制」への関心が薄いせいか、周囲の期待に比べ、増加のテンポは鈍い。
92年度世界人口白書は、現在約54億8000万人の世界人口が2050年には倍近い100億人に達すると予測。この勢いを少しでも弱めないと、飢餓と貧困は手をつけられなくなると、警鐘を鳴らす。運動に協力しているマクナマラ元米国防長官は、人口抑制こそ国際社会にとって最大の問題だと、説いている。
世界人口を2050年に87億人ほどにとどめるためには、今世紀末に年間90億ドルの費用がかかるという。だが、現在年間45億ドルの資金を倍増させるメドは全く立っていない。
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。