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1992/10/16 朝日新聞朝刊
ポスト確保に「国力」傾注 生臭い話もチラチラ(国連物語:13)
1つの人事をめぐって激しい争いが行われている。
9月21日、ニューヨークでの渡辺美智雄外相とイーグルバーガー米国務長官代行との会談は――。
外相 世界保健機関(WHO)の選挙で、日本は中嶋宏事務局長の再選を目指して一生懸命やっている。米国の賛同を得たい。
長官代行 見解を異にしている。中嶋氏の国籍は関係ない。これで日米関係にヒビが入るわけではない。
翌々日、外相に同行した渋谷治彦国連局長は多数派工作のため、ワシントン訪問中のジャマイカの厚相と接触しようと急きょ、飛んだ。
「WHOが再選抗争に巻き込まれる」――そんな見出しの大きな記事がニューヨーク・タイムズ紙に載ったのは8月10日。「中嶋博士は、モスクワから聖像画を密輸入しようとしてとがめられたとのロシア紙報道に対応を迫られている」などとあり、WHOが「事務局長が尋問や拘留されることはなかった」と反論する事態にまでなった。
WHOは伝染病対策などを進める国連の専門機関で、医師である中嶋氏はWHO職員から88年、事務局長に選ばれた。地味な機関の人事がこれほど大きく報道されるのは珍しい。
ことは、今年初め米国が来年1月に行われる中嶋氏の再選に反対し、アルジェリア人の次長、アブデルムメヌ博士を推したことに始まる。中嶋氏は同博士解任で対抗したが、フランス、北欧諸国も同博士支持に回った。デンマーク国連代表部幹部は「中嶋氏の運営に問題がある」と言う。
何が背景にあるのか。WHOは仕事の性格上、製薬業界などの利権もからむ。外務省、厚生省筋は「米仏とも業界は中嶋支持。北欧は必須(ひっす)医薬品部門の強化を主張し、不満をもっているようだ。結局、国益というより個人的な話では。国際機関といっても狭い世界だからそんなレベルで動く話も多い」と明かす。
「中嶋問題」はいま、外務省にとって最大の関心事だ。この関係で在外大使館などと交わした電報は約700本。ふつうの大使館の1年分を超える。こんなに力を入れるのは、国内業界からの圧力はともかく、日本が国際機関の長を占めていることが「日本の存在」を示す上で大きな意味をもつと考えているからだ。
政府筋からは「今回は先進国は無理だから途上国で頑張る。日本の金に対する期待は大きい。国際機関は大奥と同じ。公職選挙法はない。利益誘導なんでもありだ」との声も聞こえる。
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