米国の原案は、強制措置をうたった国連憲章第7章を引用していた。「当事者の同意」を原則としていたこれまでの平和維持活動(PKO)を一歩踏み出す内容だ。PKOが強制行動に傾くことを警戒した中国は、「第7章」の文言を削らなければ「拒否権」を使う、と英国に通告した。
審議は3時間ストップし、米国は「第7章」を削って代わりに「武力行使容認決議を実施する」との欧州共同体(EC)の妥協案で決着を図った。中国は結局、棄権に回り、決議は採択された。
国連憲章に、「拒否権」という言葉はない。「常任理事国の1カ国でも反対すれば決議は成立しない」という原則を指す。冷戦時代、米ソの賛同がなければ、安保理の決議も一片の紙切れに過ぎなかった。「5大国一致」によってのみ国連の総意は保証される、という現実に立った発想だったといえる。
しかし、実際の発動は限られている。中国が過去に行使した21回の拒否権のうち、16回はワルトハイム事務総長3選を阻んだ投票だ。この10年、中国は一度も拒否権を使っていない。最多の124回を記録した旧ソ連ですら、集中していたのは60年代まで。70年代は11回、80年代は5回。それも84年が最後になった。米国が初めて70年に拒否権を使い、90年までに82回に達したのとは対照的だ。
先月末、国連総会で演説したベネズエラのオチョア外相は、「拒否権は時代遅れ。国連憲章の精神に反する。1カ国が多数の総意を覆すようなことがあってはならない」と述べ、拒否権の廃止を提言した。だが5大国が、この既得権を手放す見込みはない。まだ、交渉の切り札として有効だからだ。
一昨年11月の対イラク武力行使容認決議では、関係国が中国の真意を探り、拒否権を行使しないことを確認して採択にかけた。その後も、中国が難色を示すたびに、米英仏は決議案の表現を修正し、譲歩している。「拒否権は、使うことより、ちらつかせることに意味がある。これ以上の脅しはない」と安保理の交渉を見てきた外交官はいう。
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