1992/01/01 朝日新聞朝刊
歴代事務総長や話題 国連特集(新年特集・第3部)
○国連歴代事務総長
(カッコ内は就任前のおもな役職)
初代:46−53
トリグベ・リー(ノルウェー外相)
2代:53−61
ダグ・ハマーショルド(スウェーデン国連代表)
3代:61−71
ウ・タント(ビルマ国連代表)
4代:72−81
クルト・ワルトハイム(オーストリア外相)
5代:82−91
ハビエル・ペレス・デクエヤル(ペルー国連代表)
6代:92.1.1〜
ブトロス・ガリ(エジプト副首相)
○平和賞に6度輝く 国連機関や事務総長
国連の諸機関や事務総長は、これまでに6回ノーベル平和賞を受賞している。
◇国連難民高等弁務官事務所 1954年、81年
◇ダグ・ハマーショルド第2代事務総長 1961年(死後追贈)
◇国連児童基金(ユニセフ) 1965年
◇国際労働機関 1969年
◇国連平和維持軍 1988年
○スイスなど未加盟の国も
国連加盟国がこれだけふえても、まだ未加盟国がいくつかある。スイス、バチカン、サンマリノ、モナコ、トンガ、キリバスなど。
スイスが未加盟なのは、国連の集団安全保障体制とスイスの国是「永世中立」が両立しないというのが理由。長年にわたる論争の結果、連邦議会で加盟案が可決されたが、国民は86年の国民投票で「加盟せず」を選んだ。加盟反対は76%だった。
○難民キャンプに「命のパン」
パンを満載した1台の大型トラックに数千の人々が殺到した。まるで沈没する船が波間に消えていくように、トラックはパンを求める「人の海」にたちまち沈んでいった。(イラク・トルコ国境山中のクルド難民集結地で)
大型テントに敷かれたビニールシートの上で、数十人の幼児たちが生死の境界をさまよっている。ハエを追いながら医師がつぶやいた。「薬品があっても、手の施しようがない。食べ物がないのだから」(エチオピア・ソマリア国境の難民キャンプで)
難民の多くは、キャンプで、着の身着のまま、ひとかけらのパンやビスケットで命をつないでいる。食糧、水、毛布など国際社会の差し伸べる救援物資が断たれれば、確実に数千、数万の死者が出る。
《国連難民高等弁務官事務所を中心に、世界約1900万人に物資の配給や定住援助などが行われている》
○トット大使と物言わぬ子ら
「ひっそりとした子どもたちの病室。その静かさが怖かった。何かを訴えようと思っても、その力がない。それどころか、訴えることの無意味さを知っているかのように、何も言わない。笑わないし泣くこともしない。大人びた顔をして、私の顔を見つめている。でも、手を差し伸べて、抱きかかえると、しっかりとしがみついて離れない。子どもたちはみんなが幸せになる権利を持っているのに、大人たちの都合にほんろうされているんです」
ユニセフ親善大使として昨年7月、湾岸戦争後のイラクを訪れた女優の黒柳徹子さんは、こう語った。
《親善大使は黒柳さんのほかに、女優のオードリー・ヘプバーンさん、歌手のハリー・ベラフォンテさんらがいる》
○エイズまん延と厳しい戦い
「カリニ肺炎」という聞き慣れない病名の症例報告があったのは81年6月。後天性免疫不全症候群(エイズ)の発見だった。以来、エイズは世界中で恐怖の的になった。
東アフリカのウガンダでは、人口の7%を超える130万人が感染者と推定される。親が感染して死亡したエイズ孤児も増え続けている。
世界保健機関の推定では、世界中の感染者数は現在、800万から1000万人。その6割が途上国に集中している。麻薬、売春・・・貧困がこの病気への対策を阻んでいる。
《世界保健機関は12月1日を「世界エイズデー」と定めて予防や偏見是正などの啓発活動を進めているが、爆発的な拡大をストップする決め手は見いだせないのが現状だ》
○よみがえれ「人類の遺産」よ
「遺跡から、助けて下さい、という声が聞こえてきた」。平山郁夫画伯(東京芸大学長)はこう言った。昨年参加した、カンボジア・アンコール遺跡学術調査団の報告会でのことだ。
カビで黒ずんだ石像、顔を削り取られた女神像。9世紀から約500年にわたったクメール王国の栄華をしのばせる石造遺跡は、戦火や雨水による劣化、盗難などで、全面崩壊の危機にさらされている。
カンボジア紛争が終止符を打ったのを機に、国際的な修復・保存の動きに拍車がかかるとの期待が高まる。
《ユネスコは72年、「世界遺産条約」を採択、世界の340カ所の文化・自然遺産を指定するなどして、その保護を呼びかけている》
○読む、書く、貧困脱出めざし
バングラデシュの首都に近いダムライ地区。竹の皮とトタン屋根の小屋で、20人ほどの大人が勉強している。教科書は農民が主人公の絵本。
6カ月のコース中に少しでも多くを学ぼうと生徒は意欲満々だ。
読み書きを学ぶことで、最貧層に属する彼らに、大きな変化が起きている。子供を学校に通わせ、子供の教材費にと貯金をするようになった。生活向上への意欲の芽生えだ。
《15歳以上で読み書きのできない人は世界に9億人近いと言われ、国連教育科学文化機関(ユネスコ)が中心となって識字活動を行っている》
○死と背中合わせの平和維持
地中海に面した南レバノンの国連レバノン暫定軍本部。壁いっぱいの地図が、青と赤の2色で区切られている。青い色は国連暫定軍の展開地域、赤い斜線はイスラエルの支配地域を示す。2色は地域によって重なりあう。
アラブ側ゲリラの攻撃がある度に徹底的な報復に出るイスラエル。暫定軍の兵士たちは住民とともにその砲火にさらされる。逆に、ゲリラのテロの対象となることも。
本部の一角には、犠牲になった170人を超える兵士の名が刻まれた記念碑が建つ。
《国連平和維持活動は、憲章上の規定は無く、安保理や総会決議に基づく。これまで24回組織され、現在も11組織が活動中。91年は国連カンボジア先遣隊など5組織が新たに活動を始めた》
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。
|