1991/05/30 朝日新聞朝刊
現実重視「新しい国連」 第2回軍縮京都会議から(時時刻刻)
「国連が始めた戦争」とも言われた湾岸戦争。それをきっかけに、国連内部で確かな変化が起きている。議論を繰り返すばかりの機関から、「仕事」をする集団へ変貌(へんぼう)したとの評価がある。一方で、「米国1極主導型に変わったに過ぎない」との冷ややかな見方も。冷戦と湾岸、「2つの戦後」をテーマに27日から開かれている第2回国連軍縮京都会議でも、現実路線を歩み始めた国連の変化があちこちに顔をのぞかせた。
(大阪社会部、京都支局)
◆地域的軍縮
2年前、同じ京都で開かれた第1回会議では、「核実験禁止とその検証」が最大のテーマだった。ニューヨークで3回開かれた軍縮総会の主要議題も、一貫して「核」。が、今回の京都会議で議長を務める明石康・国連事務次長は「湾岸後の新しい情勢を踏まえて」と、「地域的軍縮」を第1番目に取り上げた。
核軍縮は、87年、米ソの雪解けによる中距離核戦力(INF)全廃条約で一部が初めて実現した。「米ソが変わらない以上、核軍縮は進まない。中東地域の軍縮など、出来ることから、やろうということだ」と明石事務次長は認める。
会議では「核廃絶」という言葉はほとんど聞かれなかった。ゲスト参加した広島、長崎両市長も「物足りない」と不満をもらしていた。
昨年の全欧安保協力会議で調印された通常戦力条約、1年以内に合意も見込まれる化学兵器禁止条約など、核以外でも軍縮の成果が続いた。それらが国連に現実主義をとらせる要因になった。
国連軍縮局は職員26人。中心となる分析・研究部は5人。4人が今、イラクに出張中。4月の恒久停戦決議で定められた化学兵器廃棄の監視や核兵器査察の業務などにつくためだ。「超多忙。でも活気づいています」とスタッフ。
◆小国の利益
初日の会議が終わる直前、イランの代表が「湾岸危機で国連安全保障理事会は戦争防止のために一体、何をしたのか」と質問した。「紛争防止、危機管理及び国連の役割」というテーマ討議の最中だった。
去年8月のイラクのクウェート侵攻後、安保理は12のイラク制裁決議を採択した。多くが米国の提案。5回が全会一致で、ソ連もすべて賛成票を投じた。
イラン代表の発言は、第3世界の国々にくすぶっている「米国主導で湾岸戦争開戦のお墨付きを与えた」という国連への不満を表現したものだ。
国連に対する米国民の感情は湾岸戦争まで、「理想ばかりを追い求め、第3世界にほんろうされる非能率集団」といったものだった。だが、湾岸後は変わった。米国のレーマン軍備管理軍縮庁長官は「湾岸戦争で、国連はわが国が重要な役割を果たす機会を与えてくれた。国連は今後、いろいろな分野で尊ばれることになるだろう」と胸を張った。
「新しい国連」を、英国サザンプトン大学のジョン・シンプソン教授は「米国主導の先進国連合が発展途上国を押さえ付け、国連安保理の決定が正当化するようになった」と批判する。だが、軍縮局スタッフは「かつては、小国の利益に振り回されすぎた。今は米国一本ヤリといわれるかもしれない。しかし、米国が国連を利用してくれるのは、ありがたいことだ」とすっぱり言い切る。
◆大きな役割
朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が方針を変え、独自に国連加盟を申請するとのニュースが28日午前、会場に飛び込んだ。韓国外務省の李時栄・大使は「ウエルカム」と笑みを浮かべ、一方の北朝鮮の李勇虎・外務省軍縮課長は複雑な戸惑いの表情を見せた。
韓国は「世界有数の経済力を誇るわが国が加盟しないのは不自然」(李大使)と、単独加盟を秋にも予定。北朝鮮は「両国で1議席を占める共同加盟」を主張してきた。別々の加盟は分断の固定化につながるとの考えからだった。この急な方針変更は「国連のバス」に乗り遅れまいとの危機感を示している。
秋の国連総会で同時加盟が認められれば、ドイツ統一後、アジアに残る冷戦解決に、国連が大きな役割を担える可能性が大きい。明石事務次長も「グッドニュース」と喜んだが・・・。
○「軍縮可能」と活性化
会議に出席した坂本義和明治学院大学教授の話
かつては国連が決議を出しても拘束力がなく、むなしさがあったと思う。今は欧州を中心に「軍縮は可能だ」という意識が芽生え、国連は活性化した。ただ、核兵器廃絶の意欲が薄らいだことは非常に気になる。米国主導体制が、第3世界の国々の不満を招き、国連の中に新たな対立を呼ぶおそれもある。
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